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紺色軍服

 司令官の執務室へと足を踏み入れたユーマとヒノカの2人は、執務机の向こうで微笑んでいる司令官に敬礼をするが「まあまあ、そうかしこまらんでくれ」と微笑んだまま言うと椅子から立ち上がった。


 この司令官が厳しい顔をしていた所を2人は見た事がない。

 いつもニコニコしていて、同期の葬儀の時に始めて神妙な表情をしているのを見た程だ。


 その司令官が今日は輪を掛けてニコニコしている。

 何かしら、司令官にとって良い出来事があったのは間違い無いというのは誰の目にも明らかだった。


「今日は君達二人に渡す物があってねえ」


「渡す物、ですか?」


 ユーマの疑問に応えるでなく、司令官は通信端末を誰かに繋ぐと「ああ、今執務室にいるから」と少しやり取りをして通信端末を胸ポケットに入れた。


「あの、司令官?」


「まあ待ちなさい、直ぐに来るから」


 と、まあ基地の一番偉い人に言われてしまっては待つしかないワケで。

 数分待っただろうか、ユーマとヒノカがお互いに顔を見合わせ首を傾げていると、執務室の扉の方から女性の声で「司令、お持ち致しました」という声が聴こえてきた。


「開いてるよ、入ってくれ」


 司令官の言葉の後、女性の兵士2人がコマのついたハンガーラックを押しながら執務室に入ってきた。

 そのハンガーラックにはクリーニングされた裾の長いコートのような紺色の軍服が二人分吊るされている。


「おめでとう2人共。本部の取り決めにより、君達2人は今日から紺、ネイビーブルーだ。

 うむうむ、まさかこの基地からネイビーを輩出できる日が来るなんてなあ。私は嬉しいよ。

 サイズに問題は無い筈だ、どれ、着て見せてくれないかね?」


「わ、私達がネイビーですか、し、信じられません」


「紺色軍服ですか。先輩達に妬まれそうですね」


「ハハハ! 何を言うかねカザギリ少年。君は今日からその先輩達より上の立場なんだよ?」


「だからですよ司令官」


 ユーマは困った表情を浮かべているが、その胸中はどうかと言うとイーステルのエース、カナタ・マシロと同じ軍服を身に纏える事に高揚している。


 コートのような軍服の袖に腕を通し、前のジッパーを締め、ユーマとヒノカが司令官の前に並んで立つと、司令官は嬉しそうに微笑んだ。


「良く似合っているな2人共、改めておめでとう。

 これからの活躍に期待しているよ」


「ありがとうございます司令官。

 ユーマ・カザギリ全身全霊で軍務にあたります」


「同じくヒノカ・マシロ。

 全力で軍務をまっとうします」


「うむ。替えの軍服は後で各部屋に送らせるから受け取っておくように。

 ああ、そうだもう一つ。明日カザギリ少年を訪ねて本土の開発局から人が送られてくる。

 対応してやってくれ、時間は後ほど伝えるよ。

 では、解散としよう。

 今日も訓練するのだろう? 頑張ってくれたまえ、未来のエース達」


 司令官の敬礼にユーマとヒノカも敬礼を返して、女性兵士から着ている新しい軍服のパンツを受け取ると2人は執務室を後にした。


「こ、紺色。わ、私が姉様と同じネイビーに! ありがとうカザギリ! あなたのおかげだわ!」


「お、おう分かった。分かったから落ち着け」


 よほど嬉しかったのか。

 ヒノカはユーマに抱き着き、そのままユーマの体を揺さぶる。

 

「マシロ、おいちょっと、ホント落ち着け」

 

 ひとしきりユーマを揺さぶり、徐々に落ち着きを取り戻していくヒノカは自分が意中の少年に抱き着いているという状況を認識し、結果恥ずかしくなった勢いでユーマを突き飛ばして倒してしまった。


「ああ! ごめんなさいカザギリ!」


「あいたた。まったくマシロは元気良いなあ」


「怒ってる?」


「怒ってる」


「……ごめんなさい」


「ハハハ、嘘だよ。怒ってないさ。

 嬉しいのは俺も一緒だからな。

 ……まあ、人は突き飛ばさないけど」


「やっぱり怒ってる!」

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