呼び出し
ヒノカを部屋の前まで背負って来たユーマは大事な事を見落としていた事に気が付く。
ヒノカの部屋に入るための認証コードが分からないのだ。
指紋認証や網膜認証、静脈認証などもあるが、それはどれもヒノカを起こさなければならない認証方法だ。
だからといって年頃の女の子を自分の部屋に連れ込むわけにもいかない。
「結局起こすハメになるのか……おい、マシロ起きろ、おいってば」
「んー、もう何ぃ? ……ふぁ!? へ? 私なんでカザギリに背負われてるの!?」
「起きたか。表のベンチまでタオル届けてくれて、そこで寝ちゃったの覚えてないのか?」
「お、覚えて……ない」
「マシロにしては珍しく寝惚けてたもんなあ」
「わ、私の寝顔見たの!?」
「ああまあ、見たぞ」
ユーマがマシロを降ろすと、マシロは顔を両手で抑えてしゃがみ込んでしまった。
まあ、心中は察してあまりある。
ユーマの事を好きだという自覚はまだヒノカには無いが、それでも意識しているのは間違い無い。
普段化粧をしているわけでもないが、それでも女の子が意中の男に寝ぼけヅラを見られたい訳が無いのだ。
「気にするなマシロ、可愛かったぞ?」
「かわ! もう、からかわないで!」
「いや、本心なんだが」
ユーマの言葉にヒノカの顔がみるみる赤く染まっていく。
耳まで赤くなったヒノカを見て、ユーマは思うのだ「あれ? もしかして脈ありなのか?」と。
前世の記憶があるとはいえ、ユーマとて年頃の少年。
可愛い女の子には好かれたい。
それにユーマはヒノカに入隊した頃から厳しくされてはいたが、それ故にヒノカに憧れていた時期もある。
そんな少女が自分を好いているかも知れないと思ったなら、少年も照れてしまうのは仕方無い事だった。
「じゃ、じゃあ俺一旦部屋に戻ってシャワー浴びるから」
「わ、分かったわ。ごめんなさい迷惑掛けて」
「気にするな。迷惑なんて思ってないから」
こうして一旦お互い部屋に戻り。
ユーマはシャワーを浴び、ヒノカは再びベッドの上で朝食の時間まで悶えていた。
その朝食を食べ終わった頃、二人の通信端末に司令官の執務室に来るように連絡があった。
指定された時間に執務室に赴けば、その前で二人が出会うのは道理。
ユーマとヒノカは顔を見合わせるとやや緊張しながら扉横の端末を操作して二人揃って来た旨を中にいる筈の司令官に伝えた。
「ユーマ・カザギリ。ヒノカ・マシロ、参りました司令」
「お、来たな! さあさあ入ってくれ二人共」
司令官の機嫌の良さそうな声に二人は胸を撫で下ろす。
昨日申請よりやや遅れて帰ってきたお咎め等ではないらしい。
自動扉が開かれ、二人は執務室に足を踏み入れる。
中ではニコニコ笑顔の司令官が待っていた。




