最終試験
ユーマとヒノカがバディを組んで訓練を開始してから約3ヶ月、二人は遂に修了課程に挑んでいた。
本来フレームライダーの養成は、組んだバディ同士での実戦形式での訓練を経たのち、6人編成の候補生から隊長が選定される。
そして6人の候補生と基地所属の正規ライダーとの実機での模擬戦を行い、これを修了として候補生達は正規兵となる。
この修了の為の模擬戦は正規ライダーが候補生達を負かして実戦の怖さや機微などを伝える為の、どちらかといえば形式的、もっと言えば伝統的な意味合いが強く、勝とうが負けようが修了となるものだ。
しかし、今期のライダー候補はユーマとヒノカのみ。
この模擬戦は正規ライダー6機とユーマとヒノカ2機のみのアンフェアな戦いになった。
だが、それを望んだのはユーマとヒノカ両名だ。
「行けるかマシロ」
「行けるわカザギリ、私は大丈夫よ」
「よし、じゃあ作戦開始といこう」
最終試験の場所に選ばれたのはあの襲撃事件があった廃都市。
結局、この基地から派遣された襲撃事件の調査隊は敵の侵入経路の割り出しは成ったが、それ以上の成果は無かった。
「俺が先行する、マシロは狙撃位置へ」
「了解、所定の位置に向かうわ。合図は?」
「勝手によ~いドンしてくれるさ」
「事前に話し合ったとは言え、正気? 相手は正規ライダー6機小隊よ? 本当に勝てる?」
「勝てるさ俺達ならな。じゃあ、作戦通りに」
既に先輩達の配置が終わっている廃都市に、イーステル軍正式量産機ハガネのユーマ機とヒノカ機がユーマ機を先頭に足を踏み入れた。
その様子をドローンが廃都市の上空から観測している。
ドローンから送られてきた映像を確認して、街から離れた丘の上で待機していた指揮車のオペレーターが廃都市に潜む正規ライダー達に「最終試験開始してください」と短く伝えた。
「これさあ、どっちの試験だよって話しじゃないですか?」
「ボヤくな、仕事だ」
「まあわかりますけど、相手はカナタ・マシロと渡り合うような奴ですよ?
しかももう1人はそのカナタ・マシロの妹。
こっちも最近メキメキ腕上げてるじゃないですか」
「だからボヤくなっての、分かってんだよそんな事」
分散された6機のハガネのコックピットの中、比較的若いライダーと隊長のライダーが通信を繋いでいたそんな時だった。
6機全てのコックピットに敵機接近の警告音が鳴った。
「は? 早すぎるだろ!? どんなルート通ったってまだ此処までは来れないぞ!」
「上だ! ビルの屋上! あいつ、ビルの屋上を跳び伝ってきたんだ!」
6機の正規ライダー達が一斉にビルの上に佇みこちらを見下ろすユーマ機にライフルを構えた。
引かれるトリガー、射出される模擬弾。
ユーマはその様子を見下ろしながら、正規ライダー6機の位置を確認すると、無造作にビルから飛び降りた。
「よ~いドン、ね」
正規ライダー達がユーマ機に放った模擬弾の中に含まれた曳光弾。
それはヒノカにも位置を報せる事になった。
ヒノカは狙撃用の銃身が長いライフルをビルに向かって構え、曳光弾の放たれたであろう場所目掛けて照準を合わせると、トリガーを引いた。
「っち、何だよアイツ。無闇に姿晒しやがって」
「あのカザギリが無闇に? ……いかん! 盾を構えろ!」
「え?」
若い正規ライダーの機体のコックピット内に隊長の声が響いたのと同時にモニターに表示される被撃墜の赤文字。
ヒノカの放った弾丸は、数キロ離れたビルの窓を突き破り、隠れていた正規ライダーの機体に命中。
撃墜判定を一つ手に入れた。
「あら、運が良かったわ。
こちらマシロ機、1機撃墜」
「お、ラッキーだな。了解、マシロは次の位置まで移動開始。予定通り連れ出す」
盾をビルに突き刺し上階付近でぶら下がるように待機していたユーマは、そのビルから少し低いビルに飛び降りていく。
その眼下に正規ライダー搭乗のハガネ2機を確認したユーマは1機を踏み付け倒し、突然現れたユーマ機に動揺し、踏んでいない方のハガネに向かってライフルを向けるとトリガーを引いた。
「1機撃破。マシロ、所定の位置に着いたか?」
「予定よりちょっと早くない? まあもう着いてるけど」
「流石。じゃあすぐ行く」
踏んでいる機体も撃破するとビルの影から別の2機が現れ、それをユーマは確認するとわざとその2機に背を向けて逃げる様にビルの影に移動を開始した。
「追うか?」
「回り込む、挟み撃ちにしよう」
「良いね。いくらカザギリでも挟み撃ちならやれるか」
正規ライダー達はスラスターを吹かしてユーマを追って移動を開始二手に分かれ、片方はユーマ機の逃げていった道路に、もう1機はその手前の道路へと入っていく。
それがユーマとヒノカの罠とも知らずに。




