ユーマVSカナタ 決着
ユーマ機とカナタ機は戦いながら最初に交戦した場所にいつの間にか戻ってきていた。
カナタ機がユーマ機のライフルを後ろ回し蹴りで叩き落とした場所だ。
カナタ機の背後、数十メートル先の道路の上、トラックや乗用車を下敷きにライフルが落ちている。
それを拾えば雌雄は決さずとも間違い無く有利にはなる。
2機のCFが半分に折れて鉈の様な形状になってしまったブレードを構えて向き合う。
訪れた静寂にギャラリー達は固唾を呑んで2機の初動を待った。
「引き分け、では不満かな?」
「ああ、不満だな」
「そう」
言うや否や、カナタはユーマ機に背中を見せてライフル目掛けてヘッドスライディングよろしく機体を跳ばせる。
その隙きをユーマが逃がす筈もない。
背中を見せたカナタ機にスラスターを使って追い縋り、ブレードを逆手に持ち直してカナタ機に突き立てるために腕を振り被る。
しかし、ユーマの予想に反してカナタ機は両腕を地面に付き、逆立ちの要領で機体を持ち上げるとユーマ機を蹴り上げる為にその腕を伸ばした。
この急制動でカナタ機の左腕肘関節部や手首、肩部の油圧機やモーター、電気系統が損傷する事になるがカナタはお構いなしだった。
間一髪。
カナタ機の蹴りを急停止で避けるユーマだったが。
隙き有りだった。
カナタ機は蹴り上げた勢いで宙に跳んだヒヒイロカネを損傷を免れた右腕と両足を体操選手よろしく振って体勢を立て直す。
そして、そのまま急停止の慣性で仰け反っているユーマ機の頭部に、損傷して垂れ下がった左腕を遠心力に任せて振り、もげる勢いでぶつけた。
イーステル軍最強のエースライダーによるCFのラリアットである。
「プロレスかよ……ハハハ、流石は元アメリカ人」
実機での戦いなら、急停止と叩き伏せられた衝撃でコックピット内は大変な事になっていただろう。
「ああ、あのハイエンド機、ヒヒイロカネがボロボロに……」
「修理にいくら掛かるんすかねえアレ」
「期間?費用?」
「いや、どっちもっすけど」
「莫大としか言えない」
モニターを、まるでホラー映画でも見る様な心境で見ていた整備兵達が顔を青くしながら話していると、倒れているユーマの機体にライフルを拾ってカナタの機体が近付くのが見えた。
カナタはライフルの銃口をユーマ機のコックピットに接触させると「私の勝ちだな」と呟きながらトリガーを引く。
ユーマ機のコックピットのモニターに赤文字で表示される戦闘終了の文字に、ユーマは悔しさ半分、嬉しさ半分で「ハハ、負けたか」と、苦笑した。
シミュレーターから出てきた汗だくの二人を基地所属のライダー達はもちろん、整備兵達も拍手で迎える。
そして、ギャラリーに囲まれた中で二人はガッチリ握手を交わした。
「ありがとうユーマ。妻に良い土産話が出来たわ」
「こちらこそ、良い経験になりました」
「さっきのデータはイーステル軍本部に送って推薦状の後押しに使わせてもらうわ。
貴方をグレイスに引き込まなきゃいけないからね」
ユーマの横を通り過ぎざまにカナタがユーマの耳元で囁いた言葉に、ユーマは「頼む」とだけ返し、ギャラリーの興奮冷めやらぬ中、カナタは本国に帰国するための準備の為にシミュレータールームを後にし、ユーマは一度、汗を流す為に自室へと向かった。




