ユーマVSカナタⅡ
「っち、当たるわけ無いか」
ユーマとカナタはお互い後進しながらライフルを数発撃った後、ビルの影に入ると機体の背中を背部のブレードやスラスターがめり込まないようにビルに預けた。
シミュレーターが映し出した映像とはいえ、ゲーム等とは比較にならない綺麗な映像だ、道路の片隅に止められた車やトラックの窓にすら景色が映り込んでいる。
その映り込みにカナタの機体が見えない為、ユーマは移動を開始。
1対1用の小さなフィールドだ。
そう遠くには行けない仕様になっている為、止まっていては先に見つけられる。
1対1の戦いは先手必勝。
両名共に姿が見えないのでレーダーを使用したい状況だが、それを出来ないようにしたのは前線におけるアステリア軍のレーダージャミングを意識している。
しかし、それも近接戦闘となれば話は別だ。
機体に内蔵されたセンサーは半径にして数百メートル程度ならジャミングされていようがレーダーは使用出来る。
ユーマは用心の為に交差点の手前で機体を停止、再び機体の背をビルに預け、操縦桿の近くのボタンを押してレーダーを使用した。
モニターの中央下部に表示されたレーダーに敵CFを示す赤丸が、ユーマのヒヒイロカネが背を預けているビルを挟んで直ぐそこに表示された。
予感、予想、というものがある。
超能力における予知や予言では無く、人類万人がすべからく備えている感覚である。
曇り空を見れば天気予報を見るまでもなく「雨が振るかも知れない」という予感を抱いた事があるだろう。
長期休暇に遊びに出れば「人がごった返してるんだろうなあ」という予想は簡単に出来る。
これらは生きてきた経験を積めば積むほど確度が上がる。
ユーマは現時点で18歳。
シミュレーターでの訓練は数十回と行っているが、実戦経験は一度のみ。
それでもレーダーに映ったビルの向こうのカナタ機を「危険だ」と予感したのは前世で培った数万回という膨大な数の戦闘をこなした経験からだった。
「っち!クソ!」
「クハ!当たらないのか!」
一瞬、ユーマの判断が遅ければこの時点でカナタの勝利で模擬戦は終わっていた。
ユーマが機体を屈ませた瞬間、先程までユーマ機が佇んでいた場所に複数の弾丸がビルを貫通して撃ち込まれた。
スラスターを吹かし屈ませたヒヒイロカネを加速させ、ライフルをカナタ機に向け体勢を立て直しながらユーマも操縦桿のトリガーを引く。
体勢不利の状況から逃げたいユーマ、追うカナタ。
盾越しに銃口を出してユーマもカナタもライフルのトリガーを引く。
ビルを挟んで並走しながらの銃撃戦となった。
ユーマ、カナタは盾を構えながらライフルを撃つがいかんせんビルを挟んでいるためまともにロックオンすら出来ない。
それでも二人はお構いなしにトリガーを引いた。
元よりマニュアルロック派の二人だ、機体のオートロックに頼るつもりなど毛頭ない。
「おいおいなんでアレが当たらないんだ!」
「ビル越しに撃たれるって分かってたのか?」
「候補生がレーダーに捉えた瞬間にそこまで判断したってか?えーヤバー。
てか、開脚したまま回転してたけど平衡感覚どうなってんだあいつ、直ぐに体勢立て直したぞ」
二人の戦いにギャラリー達も盛り上がる。
ヒノカはどちらを応援して良いか分からずにシドロモドロしているが、心配そうに口をついて出た名は「カザギリ」だった。
ビル越しの銃撃戦も終点、2機は同時に交差点に差し掛かる、筈だった。
「消えた!?いや、上か!」
「獲った!」
「やるかよ!」
ユーマがライフルの銃口を向けた先に、カナタの機体は無かった。
しかし視界の隅のレーダーには同じ場所に赤丸が表示されているうえに、ユーマ機のコックピットには警報が鳴り響いている。
交差点に差し掛かる直前、奇をてらったカナタは機体を操り、ビルの壁を蹴り上がらせると、屋上からライフルでユーマ機を狙った。
この奇襲もかつてのライバルはあっさり避けてあまつさえ反撃してくる。
銃弾を躱す為にカナタは屋上から飛び、盾を構えながら、ライフルを乱射する。
ユーマも負けじと上空のカナタ機を狙うが落下速度が速く、数発掠るが有効弾には至らなかった。
「ああ、やっぱり君は最高だユーマ!」
「そいつは、どうも!」
ユーマ機の直ぐ近くに着地したカナタ機は、
向けられたライフルを後ろ回し蹴りで弾き飛ばす。
更にそこから跳んだカナタ機は再びユーマ機に蹴りを見舞うが、ユーマ機は後進一杯。
左手の盾を投げつけるのと同時にスラスターを全開で吹かし、背部のブレードを取り出してカナタ機に斬り掛かった。
「ク、ハハ!楽しいなあユーマ!」
「まあ、同意だ!」
ユーマ機の斬撃はカナタ機のライフルを切り裂くだけに留まったが、これで戦況は互角と相成った。




