カナタの申し出
妹であるヒノカに話があると言うので、カナタと別れたユーマは一人食堂で夕飯を食べ、自室に戻ってシャワーを浴びた後はいつものように戦技教導書を読んだり、各地の戦況を分析したりして時間を潰していた。
明日の訓練はどうするか。
そんな事を考えながらユーマはPCの画面をフリックしてニュースの記事なども閲覧していく。
そんな時、ある記事がユーマの目に止まった。
「『イーステル軍、特務隊グレイス所属のカナタ・マシロ率いる第一小隊大進撃』か。
流石はカナタ、活躍してるんだなあ」
呟きながらユーマはPCの画面を消してベッドへと向かう。
いつか俺もあいつと一緒に前線で――。
そんな事を考えながら、ユーマはトレーニングの疲れからきた眠気に任せて目を閉じた。
そして翌朝。
アラームで目を覚ましたユーマは早速トレーニングウェアに着替えると朝のランニングの為に外へと向かう。
「おはよう、カザギリ」
「おはようマシロ、どうしたこんな朝早く」
基地から出る為の自動扉の前でユーマは寝惚け眼を擦るヒノカと遭遇した。
この時間のトレーニングはユーマが自主的に行っている物であって、ヒノカとの共同訓練の項目には無いメニューだ。
故にユーマは疑問に思ったのだ。
「カナタ姉様に言われたの。
強くなりたければカザギリ候補生に付いて行けって。
カザギリが朝早くから走ってるのは知ってたから、私も頑張らないとって思って……ふああ」
「デカいあくびだな。
そうか、カナタさんがそんな事を言ったか。
分かった、少し待ってるから顔洗ってこい」
「うう、分かった」
襲撃事件の後、少しずつ調子を戻していたヒノカのフニャフニャした朝の姿に苦笑して、ユーマはヒノカを見送った。
しばらく基地の出入り口付近で待っていると顔を洗い終えたヒノカが戻ってきたが、何故か顔が赤い。
「醜態を、晒してしまった」
「醜態?ハハ、可愛いもんじゃないか」
「かわ!……からかわないでよ!」
こんなやり取りの後、二人はいつものランニングコースを走りって適度に汗を流し、お互い自室でシャワーを浴びて軍服に着替えると、朝食を摂るために食堂へ向かった。
そこで二人一緒に食事をしたのち、午前のトレーニングメニューを決めていた時の事。
「やあおはよう、ヒノカ、カザギリ候補生」
と、カナタが食堂の隅に座っていた二人に声を掛けた。
「姉様、あ、いやマシロ様、どうされましたか?」
「相変わらず真面目ねえヒノカ、昨晩も言ったでしょう?
臨機応変にって――
まあ良いわ、ちょっとカザギリ候補生を借りたいんだけど、良いかしら?」
「え?あ、はい。まあ私は構いませんが」
「ありがとうヒノカ。
カザギリ候補生、一緒に格納庫に来てくれるかしら?」
「ええ、構いませんよ」
言われるままユーマはカナタに連れられ格納庫へと向かう。
ヒノカも一緒だ、実の姉と同期生が格納庫で何をするか気になってしまっては行かないわけにもいかない。
それはヒノカだけではない。
カナタが候補生2人を連れて歩けば軍人と言えど何かあったのか?何かするのか?と、気になって付いていってしまう始末だ。
前線から遠く離れているからこその光景だろう。
特に基地所属のフレームライダー達はウキウキしながら3人について行った。
もしかしたらライダー達はうっすらとカナタが何をするのか、何がしたいのか気付いたのかも知れない。
「カザギリ候補生、一時帰国の前に君と戦ってみたい」
「まあ、そんな事だろうとは思いましたよ。
断るなんて勿体無くて出来ません。胸を借りますよカナタ・マシロ殿」
「おや?セクハラかい?」
「ぶっ飛ばすぞテメェ」




