ユーマとヒノカの訓練
ユーマ達が所属する基地から離れた前線基地でヒノカ・マシロの姉、カナタ・マシロは妹が襲撃に巻き込まれた事件の話を部下から聞く事になる。
その報告にカナタ・マシロは「そうか、妹は無事なんだな。わかった」とだけ応え、通信を切った後、自室の端末で襲撃事件の詳細を確認し始めた。
「……設定と違うな。ストーリーではヒノカはあそこで死ぬ筈だった。
……良かった。ゲームのストーリーと同じ歴史にはならなかったのか。
襲撃犯を撃破したのは候補生の1人、ヒノカの同期生ユーマ・カザギリ。撃破数3。候補生なのに凄いな。
ユーマ……ユーマか。
彼と同じ名前だ。
君が私の……僕の知っているユーマなら良いな」
ぶつぶつと独り言を呟き、カナタは羽織っているだけのYシャツを脱いで下着姿になりベッドに寝そべる。
そして枕元に置いている通信端末に1枚の写真を表示させると、愛おしそうに眺めた。
そこに写っていたのはカナタとカナタが肩を抱き寄せている別の女性、そしてその女性が抱き抱えている幼い赤ん坊。
「アカリ、もう少し待っててね、もう少し敵を削いだら一度帰るから。
ヒナタ、あなたは良い子にしているかしら、お母さん頑張るからね、ママと仲良く待っててね」
写真に写っていたのは同性婚した妻と、2人の遺伝子を母体であるアカリの体内で受胎してもらい、産まれた実の娘だ。
この翌日行われた戦闘でカナタ・マシロは3機の小隊で敵CFを20機以上、戦車や戦闘ヘリ多数撃破、戦線を少し押し上げる戦果を挙げる事になる。
そして彼女は一度、家族の待つ本国へと帰国を果たすことになった。
しかし、前線から本国までひとっ飛びとはいかない。
輸送機のパイロットの休憩や輸送機の点検等の為、愛機と共にイーステルではなくその手前の中継基地にカナタは立ち寄る事になる。
ユーマとヒノカが現在配属されている基地にだ。
そんな事を知る由もないユーマとヒノカはこの日、訓練機が総メンテナンス中という事で、シミュレーターにて訓練を行っていた。
「マシロ候補生、迂闊に飛び出すな。まだビルの上に狙撃型が残ってる」
「う、ごめんなさい」
ユーマはヒノカにそう注意したにも関わらず、自分は機体を物陰から敵狙撃型CFに晒した。
ペダルを踏み、機体を加速させながら、敵CFの潜むビルを目指す。
「カザギリ候補生!?何を――」
「狙撃型は引き受ける、マシロ候補生は地上の敵を頼む」
狙撃型の敵CFが潜むビルまでは一直線の道路、ユーマ機は敵CFからはただの的だ。
そんな事はユーマも分かっている。
ユーマは背部のブレードを機体の前で盾代わりに構える。
しかし放たれた弾丸はブレードに直撃、それを叩き折った。
「狙撃型の装填速度は5秒前後、発射タイミングは確認した。
なら後はスラスターの制動でどうにでも出来る」
「出来るわけない!一度戻ってきて!」
「出来るさ、相手がAIなら」
現に、ユーマは次弾を避けてみせると、次も、その次の狙撃もスラスターによる左右への制動で避け、そしてビルへと辿り着く。
その様子にヒノカはただ「凄い」とだけ呟いた。
「さあ、こっちは任せてマシロ候補生はそっちの敵を」
「り、了解!」
俺が、マシロ候補生に指示してるなんてな。
ユーマは自嘲するように苦笑いしながらビルへと突入。
難なく狙撃型を撃破すると、マシロ機の援護のために狙撃用ライフルを奪い、構えた。
しかし、カメラの倍率もセンサーの精度も狙撃用の機体には劣る。
それでもマシロ機が見逃し、マシロ機の後ろから近付く機体をユーマは撃ち抜いてみせた。
「訓練終了、お疲れ様マシロ候補生」
「うう、また助けられた」
「索敵が雑い」
「返す言葉もないです」
「一旦休憩しよう、昼食を摂ったら俺は筋トレするけどマシロ候補生はどうする?」
「付き合うわ、バディだもの」
シミュレーターから出て歩き出す2人を見送る整備兵が数名。
その整備兵達が先程のユーマとヒノカのデータを機体に反映するために閲覧し始めた。
「うーむ、こりゃあ訓練機なんていくらあっても足りんぞ」
「パーツ無くなっちゃう」
「司令官にカザギリ候補生には正規品を与えるように進言するかぁ」
「カザギリ候補生もそうだが、マシロ候補生も相当だぞ。
カザギリ候補生が凄すぎて霞んじまってるが、数値的には規格外だ、流石はマシロ家のご令嬢」
「はあ。分かった、そっちも報告書に纏めておく」
忙しくなりそうだなあ、と整備兵達は各々思いながらため息を吐き、肩を落とした。
もちろんそんな彼等の苦労をユーマやヒノカは知らない。




