第八十八話 相談
「ハンバーグで街おこしをお願いしたけど、ミスリル?」
領主である旦那さんは王都に住んでおり、実質目の前の虎がこのマインツの街を守っている。
以前より机の上の書類は少なくなったが、領土中の出来事や問題がこの部屋には集まって来るはずだ。
忙しい中で申し訳無い気持ちになるが、報告と相談をする銀次郎。
「実は先日ハンバーグの挽肉にするこの調理器具を、鍛治職人さんに作ってもらいました。ミスリルを表面に使っているのですが、マインツ家から少しミスリルを分けて欲しくて」
他にもミスリルを使う事により錆びないので洗うのが簡単な事や、ミスリルを使う事によってマインツの街らしさが伝わると説明。
個人的にはミスリルってファンタジーな物だから、使ってみたいだけな所もあるんだけどそこは黙っておいた。
「ギンジローさん、ミスリルって貴重で高価なのよ」
ん? 虎が紅茶を一口飲んだ後、こっちをみて微笑んでいる。
「ミスリルは用意しておくわ。こっちがお願いしている事ですし、社交ダンスの発表会もハンバーグの街おこしも、お金も人も物も出すから最高の物を作って頂戴」
てっきりダメなのかなと思ったがOKが出た。
しかもお金も人も物も出すって素敵やん。
プレッシャーはあるけど、それよりやりがいがあるから楽しいや。
「ミスリルって特別な魔道具の一部で使うか、あとは聖金貨にしか使われないの。それなのにギンジローさんは、ハンバーグを作る道具にミスリルを使っている。言い方は悪いかもしれないけど、普通こんな事しないの。それに簡単には作れない物なんだけどね」
確かに普通に考えたらそうなんだろうが、親方って凄いな〜 くらいにしか考えていない銀次郎だった。
「マインツでミスリルを扱える人って、鍛治職人のハートマンさんしかいないのよね。ギンジローさんはハートマンさんと交流があるのでしょ? あの人は依頼しても気に入った仕事しかしないから、依頼主に私からお願いしてくれって頼まれた事があるのよ」
そういえば商業ギルドのギルド長も困ってたもんな。
「親方のその辺がよく分からないんですよね。無愛想だけど実は人情味溢れるし、お酒と生ハムが好きってイメージしかありませんが」
銀次郎はアイテムボックスから椅子と大きなゴミ箱を取り出し、屋台出店の時に親方に作ってもらったこと伝える。
ハートマンさんが作ったゴミ箱って、この世に一つしか無いのではと笑ってくれた。
今日の報告も行い、目玉焼きハンバーグが人気だったが玉子の値段が高すぎる事。
デミグラスソースはマインツ家の厨房で作って、マインツ家の味として売り出しても良いか確認。
追いチーズが人気で親方にチーズ用のナイフを作ってもらおうか考えている事。
そのナイフにはマインツ家の紋章を入れてマインツ家の裏メニューとして、広めても良いか聞き全て了承してくれた。
「ソースもチーズもギンジローさんが考えたのに、マインツ家の味にしても良いの?」
ハンバーグで街おこしをするなら、マインツ家の料理として売り出した方が分かりやすいだろう。
今後はデミグラスソースで作る王道ハンバーグを、マインツハンバーグと呼ぶ事にする。
「私トマトソースのハンバーグも好きなのよね」
トマトは美肌効果とお腹を整える作用があり、美容に良いからエルザ様が好きなハンバーグとして売り出して良いか聞く。
エルザ様の様にお綺麗になりたい女性に人気が出ると思うと伝えると、仕方がないわねと了承してくれた。
しかし美肌効果と聞いて、コーエンさんから質問攻めにされる事になってしまったのだった。
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「何か困った事はない?」
虎にハンバーグでの街おこしと社交ダンスの発表会の進捗報告を終えて、そろそろ帰ろうかと思った時に話が出る。
「困った事は特にないですけど、友人のハリーが王都の実家に一度戻るので寂しいくらいですかね」
ハリーが母親に金平糖をたべさせてあげたいと言ってた事。
せっかく王都に行くなら金平糖を王都の商会に持ち込んで、どんな対応をして来るのか調べてもらう事を伝える。
「マインツ家の馬車を用意するわ。護衛もね」
ハリーに聞かないといけないが、乗合の馬車より安全かつ快適に王都まで行けそうだ。
「それでお願いがあるんだけどいい?」
虎からお願いに拒否権なんてものは無い。
この前に会った王都にいるフランツェスカさんとアデルハイトさんに、手紙を届けて欲しいのだそうだ。
それとフランツェスカさんにはリップグロスを、アデルハイトさんには金平糖を渡して欲しいと。
「ハリーさんには明日の朝、うちの者が迎えにいくと伝えておいてね」




