第八十六話 手応え
ハンバーグを店主達に教えるのは順調に進んでいた。
オリバーはハンバーグの火の入れ方を熱心に教えてくれている。
最初はマインツ家の料理長に手伝ってもらう事を店主達は遠慮していたが、やはりそこは同じ料理人だ。
細かい質問も出るようになり、信頼関係が生まれ始めていた。
ミリアは農家や配送専門の商会の人を、店主達に紹介して関係を繋げてくれた。
店主達にはハリーはハンバーグの第一人者なので、彼が味を認めたら売れるよと伝えた。
ハリーはあっという間に店主達に囲まれて、試食と感想をお願いされている。
「親方ハンバーグはどうですか?」
親方とお弟子さん達がいるテーブルに行くと、お弟子さん達は鉄板焼きの素材を研究していた。
「この鉄板にミスリルを薄く伸ばした方が、熱は伝わりますよね」
アントニオさんが提案するが、銀次郎にはその辺が分からない。
詳しそうなハリーはみんなに捕まってるし、ミリアにでも聞いてみよう。
「ミリアごめん、アントニオさんの話聞いてもらってもいい?」
ミリアに話を振ると、マインツはミスリル鉱山があるから経済的に豊からしい。
更には農業も盛んなので、国内でも有数の街なんだと初めて聞いた。
マインツ家でミスリルは管理されているので、領主にお願いすれば安く仕入れられるのでは?
フライパンもミスリルを使って作れば、マインツの名物になりそうだな。
ミスリルの件は、虎と相談して決める事にした。
「すみませーん。その肉料理って注文できる?」
ハングリーベアーにはこの辺の食堂の店主が集まっており、今日は臨時休業をしている。
お腹が減ったお客さんが、普段昼営業をしていないハングリーベアーが開いてるので集まってきたのだ。
「皆さんハンバーグ作れますか? お手伝いはするので、お客さんにハンバーグを作って下さい。大丈夫ですか?」
実際にお客さんにたべてもらった方が分かりやすいだろう。
ハンバーグをお客さんにたべてもらい、もし気に入ったら自分が払っても良い金額だけ店主に払ってもらう。
店主達には、今日の食材やパンは領主からお金を出してもらっているので、好きに使ってくれと伝える。
エールや赤ワインは、ハングリーベアーで売ってもらう。
たくさん売って場所代を稼いでもらいましょう。
ハリーには集まってきたお客さんに、それぞれのハンバーグの特徴を説明してもらう。
ミリアも手伝ってくれてお客さんを呼び込んでくれた。
農家の方は食材の説明をお客さんにしてくれている。
良いよね。農家の方の声が伝わるのって。
お客さんを入れる予定はなかったので、肉屋さんには追加の肉を持ってきてもらう事にした。
多めに用意はしていたが、この感じだと足りなくなりそうだし。
肉屋さんは嫌な顔をせず、家族も呼んできて挽肉を作ってくれる事になった。
食器の洗い物が追いつかなくなってきたので、ネットショップで注文して補充をする。
それでも追いつかないので、親方達には洗い物を手伝ってもらった。
親方は酔っ払っているが、猫の手も借りたい状況だ。
働かざる者食うべからずって言うし、親方には頑張ってもらおう。
「坊主すげぇな。こんなに客が集まるなんて聞いてねぇぞ。パンが少なくなってきたけど若けぇのに取りに行かせようか?」
「オリバーさん、パンならまだまだたくさんありますよ」
銀次郎はアイテムボックスからバゲットを大量に取り出す。
「小麦の香りが強いな。こりゃ上等なパンだ」
オリバーさんが褒めてくれたが、これはネットショップで買ったものだ。
焼きたてならもっと美味しいので、今度手作りのパンをマインツ家の厨房で作ろうと考える銀次郎。
「農家の方と配送の方はどんな感じ?」
ミリアが近くにいたので聞いてみると、農家の方は現場が見れて楽しいと言っているようだ。
しかもこのハンバーグを領主が後押ししている事を知って驚いている。
自分も農家さんの現場を見たいので、今度そちらにお邪魔する事を伝えた。
配送の商会の方の荷馬車を見せてもらったが、オンボロだったので馬車に詳しいアントニオさんに聞いてみる。
荷馬車と言ってもあまり大きくないので、これから注文が増える様なら作り直した方が良いかも知れないとの事だった。
この件もお金を使って良いか虎に相談してみよう。
もし馬車を作り直す場合は、アントニオさんに依頼する事を伝える。
その後はお客さんと店主達の対応に追われる銀次郎。
人が集まるとそれに釣られて更に人が集まってくれる。
オリバーに持ってきてもらったデミグラスソースがなくなったので、銀次郎のストックを放出。
それでも売り切れてしまい、トマトソースも残り僅かだったので、ハンバーグは販売を終了する事にした。
休憩を取る暇がなかったので疲れはあるが、店主達のやり切った顔を見るとそんな事は言えない。
まだまだ調整しないといけない事はたくさんあるが、ハンバーグで街おこしの手応えを掴んだ銀次郎だった。