第八十二話 はちみつレモンの可能性
大聖堂前に行くとまだ三つ目の鐘はなっていないが、みんなが待っててくれた。
「待たせちゃってごめん」
「いま来た所だから大丈夫だよ」
ハリーが用意していた馬車に乗り込んで、まずは果実水の美味しいヴェリーヌさんのお店へと向かう。
「ヴェリーヌさんこんにちは。紹介したい仲間がいるのでいいですか?」
「今はお客さんが少ないから大丈夫よ」
ヴェリーヌさんに今日のおすすめのリンゴの果実水を人数分注文する。
すっきりとしていて飲みやすく、銀次郎は一気に果実水を飲み干した。
「紹介しますね。エデル商会のエデルです。最近商会を立ち上げたんですけど、果物が専門なので良かったら彼から果物を仕入れてくれませんか?」
エデルはヴェリーヌさんに、新鮮で良い果物をお安く用意致しますと営業をかけた。
ヴェリーヌさんは果物を自分で仕入れに行ってたが、新鮮で値段も安くしかも納品してくれるのならと、今後はエデル商会にお願いしてくれる事になった。
ちなみにお金のやり取りは、商業ギルドを通してやってもらう。
この事は商業ギルドのミリアと受付の娘も了承してくれた。
「今日来たのはエデルを紹介する事の他に、これを提案しようと思って」
銀次郎はアイテムボックスから、はちみつレモンの器を取り出す。
「レモンを輪切りにして蜂蜜で漬け込んだものです。まずはそのままたべてみて下さい」
「すっぱ……甘い」
みんなの反応は良かった。
この世界は絶対的に甘さ成分が足りていない。
酸っぱいレモンと甘い蜂蜜の組み合わせに、初めての感覚だと喜んでくれた。
「レモンには疲れを取る効果があります。蜂蜜は栄養価も高く喉にも良いですから、ただ美味しいだけじゃなく身体に良い飲み物ですよ」
はちみつレモンは一切れ銅貨1枚で、ハングリーベアーで売り出し始めている。
ヴェリーヌさんの果実水は一杯銅貨1枚とお手頃だ。
お客さんとしては嬉しいが、お店としては利益は少ない。
例えばこの果実水に、はちみつレモンを一枚トッピングすれば銅貨2枚なので客単価は二倍になる。
「トッピングして銅貨2枚なら売れると思うんだけど、どう思う?」
銀次郎は受付の娘に聞く。
「味は良いけどハチミツは高級品。はちみつレモンが銅貨1枚なら私だったらトッピングせず買い占める」
確かにそうかもなと思いつつ受付の娘のカップに、はちみつレモンに使った蜂蜜をガバッと入れて、はちみつレモンジュースにする。
「コレだったらいくら出す?」
受付の娘は左手を腰にあてて、右手にカップを持ち一気に飲み始めた。
ストロングスタイルで飲み干す姿に、この娘は面白いなと改めて思う銀次郎。
「銀貨1枚」
はちみつレモンジュースが異世界では銀貨1枚になるのか。
流石に高く感じるが、この娘の値付けを信じる銀次郎。
「ヴェリーヌさんはどう思います?」
「ちょっと分からないわ。でもはちみつレモンは一切れ銅貨1枚なら売れると思う」
「それならお試しで一度、はちみつレモンを売ってもらえますか? 明日エデルに届けてもらうので。もし売れたら後はエデルと相談して下さい」
銀次郎は話を終えて店を出ようとしたが、受付の娘が腕を引っ張る。
「明日、お店を手伝いたい。はちみつレモンの可能性が知りたい」
滅多に自分から意見を言わないのに、今日は前に出てきた。
ヴェリーヌさんに聞いたら一人でやっている店だし、商業ギルドの方に店を見てもらえるのは嬉しい。
気になる事があったら教えて欲しいとOKをもらった。
馬車に乗り、エデルに蜂蜜のボトルを渡す。
はちみつレモンの作り方は簡単なので、この器にレモン四個分を輪切りにして、蜂蜜に漬け込む事。
後は大聖堂にも明日は、はちみつレモンをサービスで持っていく事を伝えた。
エデルが売れると判断したら、蜂蜜はバーニーさんと同じ値段でエデルに売る事で。
「次行くところは、ちょっと大人のお店なんだけど…… エルヴィスの知り合いがやってるから上手くいくと思う」
そう説明してマリアさんのお店に向かうのであった。