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異世界ネットショップマスター  作者: グランクリュ
第二章 ダンスホール編
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第七十九話 赤いタンバリン

 場所はマニーさんの楽器店前。

赤いインナーを着たマニーさんが、地面に座り太鼓を叩き始める。

その音は馬が草原を駆けるが如く、繰り返し同じリズムで刻まれていく。



 銀次郎が赤いタンバリンを持ってマニーさんの横に着くと、オーディエンスはすでに四人も集まっていた。

ちなみに銀次郎のレッドスパイダーのシャツのボタンは、いつの間にかエルヴィスによって第三ボタンまで外されていた。



 太鼓を叩くマニーさん。繰り返し繰り返し同じリズムを刻む。

ギンジローはタンバリンで音に深みと幅を出していく。

マニーさんと銀次郎でオーディエンスを温めた所で、最後に現れたのはエルヴィスだ。



 赤いジャケットに肩まで伸びた金色の髪。

ワイルドに開かれた胸元には、パワーストーンのネックレスが光る。

ゆっくりとギターボックスを地面に置いてギターを取り出すと、ギターを手で叩きオーディエンスを煽る。



 さぁお姫様を助けに行こう。

皇帝ベッケンバウアー三世の物語の始まりだ。



 誰もが知っている曲で、誰もが好きな曲。

オーディエンスを巻き込んでの大合唱に心が震える。

一体感が凄い。我慢しないと涙が出そうだ。

太鼓のマニーさんは、肩を揺らしながらリズムを創る。

耳ではなく心臓に響く太鼓の音で、血液が送り出される様な感覚だ。


 

 色気のあるエルヴィスの歌声には中毒性がある。

脳に直接響くその歌声に、このまま身を任せたいという感覚に陥る。

もうすでに五十人近くのオーディエンスが集まっているが、全ての人の魂を掴むその歌声とギター。



 あぁもう終わっちゃうな。

皇帝ベッケンバウアー三世が、後方の自陣から敵のいる最前線まで単騎で駆け上がりお姫様を救って戻ってくる。

そんなの自分には出来ないけど、今ここにいるみんなと一緒なら出来る様にすら思える。



 曲が終わると、オーディエンス達は手を上げて何か叫んでる。



「ギンジローこれ使えよ」



 エルヴィスから赤いハンカチを受け取るが意味が分からない。

マニーさんは太鼓を叩き続け、エルヴィスはチップをくれたオーディエンス達と話を始める。



 あれ? いつの間にか涙流してた。

銀次郎はハンカチの意味を知る。

涙を拭いて落ち着いた事を二人に合図すると、オーディエンスにリクエストを聞き次の曲を演奏することになった。



 前にもいたシェリーお姉様から「愛しのエリーゼ」のシェリーバージョンのリクエスト。

その後はマニーさんの太鼓ソロから銀次郎のタンバリン芸に繋げる。



 何曲かリクエスト曲を演奏して、最後にまた皇帝ベッケンバウアー三世の曲に戻る。

三人が赤色の服を着ていたからか、それともたまたまかは分からないが、観客の女性からエルヴィスに赤い薔薇の花束が渡された。



「ありがとう」



 花束の女性にハグをするエルヴィスに女性は固まったままだ。

周りのお姉様方の視線が怖い。

マニーさんも同じだったようで、最後は素早く撤収してこの場を離れた。



●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●●



 今回のチップもたっぷりだった。

このチップを使ってマリアさんのお店で打ち上げをする事になった。

豪華な建物の店内に入ると、奥のテーブル席に案内される三人。

魔性の魅力を持つマリアさんは、別のテーブルで接客をしていた。



「マリアさんを呼びますので、こちらでお待ちください」



 支配人らしき男性に案内され、奥にあるテーブル席に座る。



「相変わらずこの店のねーちゃん達はたまらねぇな」



 マニーさんは周りを見渡しながら、エルヴィスの背中を叩いて興奮している。



「おやっさんのバンドって、社交ダンスの曲も演れるよね?」



「なんだ急に。バンドじゃ演らねぇがうちはみんな楽器屋か音楽教室やってっから、社交ダンスの曲も一通り出来るぞ」



 マニーさんテーブルを太鼓代わりにして、指で叩いてリズムを創り出す。



「今度ギンジローが社交ダンスの発表会ってやつをやるんだけど、おやっさんダンスの演奏を手伝ってもらえないかな?」



「手伝うも何も分かってんだろ? 俺には音楽しかねぇ。お願いされたら断るわけないだろ」



 マニーさんかっこいい。

マインツのお城で社交ダンスの発表会があり、レイチェルさんの音楽隊とマインツ家の音楽隊、そしてマニーさんのバンドでそれぞれ演奏してもらう事を伝える。



「マニーさん、ギンジローさん嬉しいわ。待たせちゃったからお酒は私からご馳走させて」



 エルヴィスはさっき貰った赤い薔薇の花束と、稼いだチップをマリアさんに渡す。

マニーさんはグラマラスボディの女の子も指名していた。



「今日の演奏にプロージット」



 喉がゴキュゴキュと鳴るが止まらない。

一気に木樽のジョッキを呑み干す銀次郎。

銀次郎とエルヴィスの間の椅子にはマリアさんが座り、向かいの席ではマニーさんが女の子をすでに口説き始めている。



 魔性の魅力を持つマリアさんは、エルヴィスと銀次郎が呑み干したエールのジョッキをボーイに渡し、新しいエールをテーブルに置いてくれた。



「ありがとうございます。マリアさんも何か呑みませんか?」



 優しく微笑むマリアさん。

この間の取り方は虎と似ているが、マリアさんの魅力で全身を包まれている様な感覚になる。



「ギンジローさんは優しいわね」



 この世界で女性に気を使い、お酒を勧めてくれる男性は少ないそうだ。

ほとんどがお酒を飲ませて口説こうとするので、純粋な優しさが嬉しいとマリアさんが言ってくれた。



 ちなみにエールの値段を聞くと銀貨5枚。

日本円にすると一杯五千円……

ハングリーベアーの十倍だ。



 さっき渡したチップだけでは当然足りないだろう。

だからマリアさんは、待たせたからお酒はご馳走すると気を遣ってくれたのかもしれない。



 マリアさんは自分の事を優しいと言ってくれたが、本当に優しいのはマリアさんだ。

異世界に来て人の優しさに触れると、涙が出そうになる。

ネットショップのチートで銀次郎はお金を稼げるが、ただお金を払うのではなく自分だから出来る恩返しをしたいと考えてみた。



「マリアさん今日は閉店まで呑まさせてもらえますか?」

誤字・脱字報告してくれる方、本当に感謝しています。

ありがとうございます。


今日は休みなので、これから喫茶店に行って小説を書いてきます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次の話になりますが、それらの知識を何処で仕入れた、ギンジロー。と突っ込んでしまいました。 銀座のクラブとかは行った事ないんでしょうけれど、サラリーマン時代に先輩に連れられて、人の良さから嬢…
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