第七十八話 赤い服の三人
「ギンジローちゃん行ってらっしゃい」
ハングリーベアーでルッツにフライドポテトを教えて、みんなで一緒にたべた。
フライドポテトは美味かったけど、三皿はやりすぎたなぁ。
お腹をさすりながら反省する銀次郎だったが、そろそろ時間なので部屋に戻り、白シャツとジャケットを羽織ってエルヴィスの店へと向かった。
「ギンジロー待ってたぞ」
エルヴィスと胸を合わせて、両手で背中をバシバシと叩き合う。
今日は気合が入っているのか赤いジャケットに白いシャツ、黒色のスラックスとそれに合わせた革靴を履いている。
もちろんシャツのボタンは胸元までガバッと開いており、パワーストーンのネックレスが目立っている。
エルヴィスからドレスを受け取りお客さんの元へと向かったが、すれ違う女性陣の視線がいつも以上にすごい。
もちろんその視線の先は銀次郎ではなく、隣にいるイケメンなのだが。
最初に向かった先はレイチェルさんのダンスホール。
ドレスを購入してくれたお客さんが来ているので、今回はここで仮縫いの合わせを行う。
ダンスホールの大きな扉を開けて中に入ると、フロアでは練習の真っ最中だった。
レイチェルさんと生徒のお客さん達が、鏡の前でダンスのチェックをしてる。
「二人とも待ってたわよ」
レイチェルさんと熱烈なハグをした後、生徒さんの分も含めてハッカ入りのお茶を淹れてくれた。
このハッカ入りのお茶は本当に美味しいなと思う銀次郎。
「最近はみんなとお茶を飲んだりする機会が増えたのよ」
そう言ったのは、この後ドレスの仮縫い合わせをするマダムだ。
もう一組の仮縫い合わせをするカップルも、最近の変化に喜びの声を上げてくれた。
「それならば日持ちもするクッキーをレイチェルさんに渡しますね。色々な種類が入っていますので楽しめると思うので。あとはみんな大好きなパウンドケーキも渡しておきますね」
銀次郎はアイテムボックスから、クッキーの詰め合わせとパウンドケーキを取り出す。
「ギンジローさんありがとね。お金を払うと言っても受け取らないと思うから、いつでもここに来なさい。ダンスを教えてあげるから」
銀次郎は嬉しかった。
異世界に来て知り合いが少ない中で、こうやって優しく接してくれる人がいる事を。
お茶とクッキーとパウンドケーキを頂きながら、ドレスの仮縫い合わせをする。
多少の手直しはあったが、ほぼ問題ないレベルだったので次回は本納品になる。
パートナーの男性は、ドレスで女性は変わるもんだねぇと言って怒られていた。
綺麗だよとか似合っていると自然と言えるエルヴィスが、外見だけでなく中身もイケメンだという事を改めて認識した銀次郎だった。
仮縫いが落ち着いたので、レイチェルさんに社交ダンスの発表会の進捗を報告。
マインツ家と大聖堂あとは商業ギルドが表彰の品の提供や、馬車や運営に関わる人の協力をしてくれる事を伝える。
追加で渡していたチケットは半分以上売れていたので、さらに追加分をレイチェルさんに渡した。
しかしこんなに売れるとは思っていなかったなぁ。
その後もドレスの仮縫い合わせと本納品で忙しく歩き回り、全てを回り切った時には夜になろうとする時間だった。
「エルヴィスどっかで一杯呑ってく?」
エルヴィスを誘ったらもちろん呑むが、近くにマニーさんの店があるので寄って行く事にした。
社交ダンスの発表会で演奏を手伝ってもらいたかったから、ちょうど良いと思いマニーさんの店まで歩いて行く。
「おやっさんギター貸してくれるかい?」
店の中に入るとマニーさんはこっちを見て、ニカっと笑った。
「もう店じまいだから演奏しに行くか? しかしなんだその服は。そんなに決めた服なら俺も着替えるから待ってな」
マニーさんの事を待っていると、赤いインナーに黒のタイトなスーツに着替えて戻ってきた。
バンドマンというかバリバリに決めたマニーさんが目の前にいる。
マインツの街で赤い服が流行っているわけではない。
この世界の服装はどちらかというと地味だ。
しかしこのエルヴィスとマニーさんには、赤を着こなせるキャラクターと派手さがある。
「ちょっと待って、俺も着替えるから」
銀次郎は以前エルヴィスからもらった、レッドスパイダーシルクの赤シャツをアイテムボックスから取り出して着替える。
「サイコーだな俺ら、今日は派手にやろうぜ」
こうして再び、路上でのライブが始まるのであった。