第七十四話 感謝の気持ち
「いつもありがとう」
エデルと一緒にカットしたフルーツ盛り合わせを、司祭のいる部屋に持っていく。
会議中で部屋には八名の教会関係者がいた。
その中心にいるのがヴェルナー司祭で、今は老眼鏡をしている。
エデルとヴェルナー司祭が並ぶと、完全におじいちゃんとその孫なんだよな。
エデルはマンゴーを皿に乗せて司祭に渡した。
ヴェルナー司祭は優しい顔つきになり少し休憩をしようと提案する。
「ギンジローさん少し話を良いかな?」
別室に案内されヴェルナー司祭とレイノルド助祭、そして銀次郎の三人で話をする。
前にも聞いたがこの時期になると夏バテする教会関係者が多かったのだが、この冷えた果物のおかげで調子が良いらしい。
そして眼鏡だ。
ヴェルナー司祭が世界が変わったよと言った時には、レイノルド助祭と同じ事を言っていたので思わず吹き出しそうになった。
「マインツ家でダンスパーティーを?」
「正確に言うと少し違って社交ダンスの発表会です」
ヴェルナー司祭に社交ダンスの発表会の事を説明する。
「面白い。もし嫌でなければ、教会からも何か協力をしたいのだが」
司祭からの申し出に断る理由はない。
マインツ大聖堂賞の提供と馬車や音楽隊の派遣も約束してくれた。
何か困った事は無いか聞かれたので、孤児院の事について相談した。
孤児院は教会の管理下だが自分達で作った野菜を売ったり、寄付金で成り立っている。
最低限の生活は保障し、自立出来る様に促して行く事が大事なんだそうだ。
孤児院の事について学んだ銀次郎は、子供たちの自立について考えるのであった。
「忙しい中、孤児院の事について教えて頂きありがとうございました。社交ダンス発表会の件も助かります」
銀次郎はヴェルナー司祭に感謝の気持ちを伝える。
「感謝はお互い様ですぞ」
相変わらず力強い握手だったが、別れの挨拶をして部屋を出る銀次郎。
食堂に戻ると、みんなが待っててくれた。
いつもの流れだと、ここでしばらく待機してからプレートを取りに行くそうだ。
プレートは持ち帰って水洗いしまた持ってきての繰り返しみたいなので、レイノルド助祭にプレートは食堂に置いてても良いか確認する。
するとエデル商会専用の食器置き場を作ってくれた。
ハリーとエデルとは別れて、ミリアとマインツ家まで歩いていく。
歩いている二人を見つけた門番さんが、セバスチャンを呼んでくれたみたいだ。
門番さん達にお礼の塩飴を渡し、こまめに水分補給をして熱中症に気をつけて下さいと伝える。
「ギンジロー様、最初にエルザ様と話をしてもらい、その後ソフィア様と社交ダンスの発表会の場所を確認。
最後は料理長とハンバーグについての話。この様にお願いしたいのですが宜しいでしょうか?」
銀次郎はセバスチャンに了解ですと伝える。
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今日は客間に通される銀次郎とミリア。
コーエンさんが紅茶を淹れてくれた。
セバスチャンは後ろで待機している。
商業ギルドのミリアがいるからなのか、昨日とは違ってなんかピリピリしてる。
大丈夫かな? 心配する銀次郎。
「まずは昨日最初に出した背の低いグラスです」
箱から取り出し一脚をテーブルの上に置く。
「こちらはいくつあるの?」
「えっと……今は六脚入りの箱が五箱ありますけど、グラスはいくつでもご用意できますよ」
「お値段は?」
「仕入れ値が銅貨6枚なので、少しのせてくれればいくらでも良いです」
虎がグラスを手に取り、ため息をつく。
「ギンジローさん、このグラスが銅貨6枚って本当なの?」
嘘じゃないので頷くと、虎はミリアにグラスを渡す。
「ミリアさん、このガラス製のグラスを商業ギルドで売るならいくら?」
「そうですね。大金貨1枚を出しても買いたい方はいると思います」
「そうよね。やっぱりギンジローさんがおかしいのよ」
虎とミリアが笑ってる。
さっきまでピリピリしていた空気が嘘みたいだ。
「あなたギンジローさんの担当なのよね? 秘密は守れる?」
ミリアが守れますと伝えると、虎はコーエンさんに化粧品を持ってくるようにと指示を出すのであった。