第七十三話 レイノルド助祭と赤いフレームの眼鏡
「ギンジローちゃんおはよー。ハンバーグ教えるの三日後大丈夫?」
クラーラさんのお願いする姿に今日も癒される銀次郎。
「実は昨日マインツ家でハンバーグの試食会をしたんです。まだバーニーさんにも教えていないハンバーグも作ったのでその時に教えますね」
バーニーさんは親指を立てて了解したが、ハリーには何も言っていなかった。
今日もモーニングハンバーグをたべているハリーが、何で呼んでくれなかったのかと怒ってる。
急な依頼だった事を伝え、三日後は参加するか聞いたら機嫌が良くなった。
ハリーのハンバーグ愛をここでも感じる銀次郎。
「ハリー悪いんだけど、大聖堂に行くの現地集合でもいい?」
社交ダンスの発表会の件でエルヴィスとレイチェルさん、あとはミリアと話をしてから合流する事を伝える。
大聖堂への納品は二つ目の鐘が鳴る前までに行けば良いので、そのくらいの時間で待ち合わせをした。
少し急いで歩き、まずはエルヴィスの店へ。
「ギンジロー早いな。どうした?」
挨拶のハグをして、エルヴィスに社交ダンスの発表会の件を伝える。
「レイチェルさん喜ぶだろう。しかし城でやるって話が大きくなったな。レイチェルさんの音楽隊だけじゃ音が足りないから、おやっさんに頼むのもありだな」
さすがエルヴィスだ。確かに広い会場なら音は大きい方が良い。
レイチェルさんとマインツ家の音楽隊の方に相談してから決めると伝える。
「明日は仮縫いの合わせと本納品頼むな」
エルヴィスと明日の予定を確認し、レイチェルさんのダンスホールへ向かう。
「レイチェルさんおはようございます。早くに来てすみませんが報告がありまして」
レイチェルさんにマインツ家のダンスホールで発表会をやれば、人数は増やせる事を伝える。
マインツ家は全面的に協力してくれるのと、領主とエルザさんも特別枠での参加を伝える。
チケット問題もクリアできたので、追加のチケットを渡して今度は商業ギルドへ向かう。
ギルド内に入るとすぐに受付の娘が対応してくれた。
ミリア専用の部屋に通してもらい紅茶を淹れてくれたので、前にもみんなでたべた有名パティシエ監修のカップケーキの詰め合わせをアイテムボックスから取り出す。
「ギンジローさんまずは私の方から報告です。夏祭りの時にネギがたっぷりのお肉を焼いていましたが、何のお肉だったのか問い合わせが来ています」
確かあの時は商業ギルドの招待客に、厚切り牛タンのネギ塩ダレを提供した。
市場では牛タンの値段は捨て値の一本銅貨5枚と激安だ。
この世界では魔物の肉も流通していてしかも美味いから、その中でわざわざ牛の舌をたべようとは思わないのだろう。
しかしこの美味しさに気がついた人がいるという事だ。
これが知れ渡ると牛タンの値段は上がってしまう。
ハンバーグの作り方を教えるのは全然良いが、牛タンは知られたくない。
しかも今の安さだからこそ、思い切って厚切りで楽しめる。
銀次郎はミリアに牛タンの事は黙ってて欲しいと伝えた。
「かしこまりました。あくまでも問い合わせなので、こちらで上手く対応しておきます」
今のうちに牛タンを買っておこうと考える銀次郎。
プレゼントはすぐあげちゃう見栄っ張りだが、牛タンに関してはケチである。
「これ社交ダンスの発表会のチケット。場所なんだけどマインツ家のダンスホールを借りる事にしたから」
テーブルの上にチケットを置くと驚いていた。
受付の娘は当然の如く席に座り、紅茶とモンブランをたべている。
前に粉を喉に詰まらせていたので、ティラミスには手をつけていない。
銀次郎はティラミスを一口たべて紅茶を飲む。
「それは美味しいけど悪魔のケーキ」
受付の娘に、ティラミスは意味があるデザートだという事を伝える。
大人の意味を知った彼女は頬を赤らめている。
ちょっと気まずくなったので、銀次郎は本題に入る事にした。
レイチェルさんのダンスホールは、今回参加希望者が多くてパンクした。
だから相談した所、マインツ家のダンスホールと庭を使って良いと申し出があったと説明する。
特別枠でエルザ様も踊ると伝えると、商業ギルドとしても協力体制を強化するとの事だった。
「マインツ家が絡むと商業ギルドもメンツがあるもんね。なんか迷惑かけてごめんね」
「いえいえ。良い驚きがあって良い意味で楽しいですよ。そうなると問題になりそうなのが、お城までの移動手段ですね。馬車の手配は商業ギルドで出来るか確認致します」
街の中心地の大聖堂から、マインツ家のあるお城まではそれほど距離はない。
歩いて行けるとは思ったが、社交ダンスの発表会で馬車でお城まで行くという演出は特別感があって良いかもしれない。
ミリアに馬車の手配をお願いしたが、そもそもお城に歩いていくのはギンジローさんだけですよと教えられた。
この後、大聖堂に行ってから歩いてマインツ家に行く事を伝えると、ミリアは笑ってついて来てくれる事になった。
受付の娘も一緒に出かけたかったみたいだが、追加チケットの対応の為別行動になった。
ミリアと大聖堂前まで歩き、少し待っているとハリーとエデルがやってきた。
一緒に大聖堂内に入り受付を行うと、レイノルド助祭が急いでやってくる。
「お待ちしていました。まずは食堂に案内します」
レイノルド助祭と一緒に食堂に行くが、助祭の眼鏡は細くて赤いフレームの女教師イメージ眼鏡だ。
銀次郎は笑いを堪えて歩き、食堂へと辿り着いた。
食堂に着くとハリーがクリーンの魔法を唱えてから、クーラーボックスで冷やした果物を次々と取り出していく。
エデルは厨房を借りて、果物をカットしプレートに盛り付けていく。
その姿を眺めていると、レイノルド助祭が隣に来る。
「ギンジローさん、このメガネで人生が変わりましたよ」
大袈裟だなぁと思ったが、レイノルド助祭が笑ってたので、なんで人生が変わったのか興味が出てきた。
「なんで人生が変わったんですか?」
レイノルド助祭は、まず純粋に目が悪かったので、文字が見える様になった。
今まで見えにくいのが当たり前だと思っていたので、文字がはっきり見える事に感動らしい。
次にヴェルナー司祭と同じ日からメガネをかけ始めたので、周りが司祭と助祭の関係を気にし始めた。
しかもレイノルド助祭の細くて赤いフレームが、特別なものと思わせてるらしい。
ヴェルナー司祭に相談した所、そんな事で気を奪われるとは修行が足りない。
目の悪い者に貸し出していこうと考えていたが、自分から正しい情報を得て必要だと申し出がない限りは、マインツの大聖堂ではメガネを貸し出しをしない方針になった。
ちなみにハリーの事も噂になっているらしい。
ハリーは黒縁メガネをかけている。
最初にハリーを見た時には高価な物という事は分かるが、メガネが何だか分からなかった。
それがヴェルナー司祭と同じ物をしており、話を聞けば王都の魔法魔術学校を首席で卒業した優秀な魔法使いだと。
ヴェルナー司祭はハリーの事を知っていたし、何かあるのではと噂になっている。
もちろんこの件もヴェルナー司祭に報告をしたら、噂話を信じて本質を見れない者たちに嘆いていたそうだ。
噂が好きなのは異世界でも変わらないんだなと思う。
レイノルド助祭の眼鏡は悪ノリで買った物なので、この件は自分の中で無かったことにする銀次郎だった。