第六十六話 メガネ
マインツ家のお風呂を借り、さっぱりした銀次郎。
そこに現れたのは、メイド長のコーエンさんだった。
「ギンジロー様、奥様がお呼びですがこの後お時間はありますでしょうか?」
お時間はあるし拒否権もないので、黙ってコーエンさんの後を着いていく。
すると今日は応接室ではなく、書斎に通された銀次郎。
「ドレスの展示会に来てくれてありがとうございました。ドレス完成までは少し待ってて下さい。社交ダンスの発表会があるので、まずはそのドレスを作ってそれから三人のドレスを作らせていただきますので」
普段ならこの後はお化粧の話をされるのだが、机の上には書類がたくさん積まれており少しお疲れ気味に見える。
虎からお化粧の話は出てこなかった。
「王都にいるうちのパパと息子達が休暇で帰ってくるの。その前に書類仕事を片付けようと思ったのだけど、最近目が疲れちゃってね」
そう言えば聞いた事なかったけど、領主と息子さん達は王都にいるんだ。
たしかに今まで会わなかったもんな。
マインツの街は平和だし優秀な部下がたくさんいるから大丈夫なのよと言っているが、この書類の山を見る限り大変そうだ。
セバスチャンが紅茶を持って来てくれたので、ブルーベリーのパウンドケーキを取り出す。
「ブルーベリーの栄養素が目に良いと言われています。気休め程度かも知れませんが一緒にいただきましょう」
セバスチャンにブルーベリーのパウンドケーキを渡すと、お皿をすぐに用意してくれた。
「ギンジローさんって優しいのね。そんな所に娘は惚れたのかも知れないわ」
弱みを見せて油断させたところに、突然の右ストレートだ。
パウンドケーキを喉に詰まらせてしまう銀次郎。
KO寸前まで体力ゲージを削られたが、なんとか持ち堪えるが出来た。
「これつけてみて下さい」
ハリーの為にネットショップで買っていた眼鏡を、アイテムボックスから取り出し虎に渡す。
度数が合うか分からないが、メガネという物を説明しかけてもらう。」
「文字がはっきりと見えるわ。ギンジローさんこれ譲ってくれないかしら?」
その眼鏡は新品だけど男性用だ。
眼鏡には様々な種類がある事を伝えると、全部買うからたくさんの種類を持ってきて欲しいと言われてしまう。
眼鏡は安いのは銀貨3枚くらいだが、高いのは小金貨3枚かそれ以上するのもあると伝えた。
問題ないから、持ってこれるだけ持ってきてと念を押される。
「では用意して明日持ってきますね」
虎に伝えてこの場を解放された。
「セバスチャン、ソフィアは今何してる?」
「ソフィア様は勉強中ですが、ギンジロー様に会いたいと思いますよ」
勉強中で悪いかなと思うが、体力を削られた今は癒しが欲しい。
ソフィアを呼んでもらう事にした。
「ギンジロー居るなら早く教えてくれたらいいのに」
ソフィアは拗ねた様な素振りを見せるが、笑顔に癒される。
「ソフィアごめん。ちょっとお風呂を借りようと思ってきたんだけど色々あってね」
ソフィアの部屋に入り、この間のドレスの展示会の事。
エデルの商会の事、お婆さんの野菜の事、ハンバーグを今度教える事、明日眼鏡を持ってくる事などを話す。
ソフィアはこの間の厨房でピザやパスタを作った事が楽しかったみたいで、また作りたいと言ってきた。
孤児院の炊き出しで料理を作りたいそうだ。
明日料理を教える事と、孤児院にまた一緒に行く事を約束する。
「また明日ね〜」
笑顔で手を振るソフィアを見て体力ゲージが戻った銀次郎は、セバスチャンに馬車でエルヴィスの店まで送ってもらった。
「では明日一つ目の鐘が鳴る頃、お迎えにあがります」
セバスチャンにお礼を言い、エルヴィスの店へ。
「ギンジロー、今日は悪いが呑みには行けないな」
「別に誘ってないよ。エルヴィスがサボってないか見に来ただけだから」
ハグをした後、お互いを見て笑う。
ドレス作りは特に問題もなく順調で、明後日には仮縫いが終わったのを一度持っていく。
銀次郎も一緒に行くので、再度確認をした。
「昨日あれからタキシードを作りにきたお客さんがいてな」
展示会でドレスを買ったお客さんの旦那さんやパートナーが、自分も衣装を新しくしようとオーダーしに来てくれたらしい。
タキシードは父親に任せたのだが、今日もお客さんが来て繁盛しているとの事だった。
そんな忙しい時に悪いが、ソフィア用のエプロンを依頼するとエルヴィスのお母さんが出てきた。
手を出し羊羹を要求するので、老舗の高級羊羹を渡すとエプロンを作ってくれた。
「エプロンありがとうございます。じゃあエルヴィス明後日は一つ目の鐘がなる頃来るから」
明後日の約束をして店を出る銀次郎。
ハングリーベアーに戻ると、他の飲食店からもハンバーグの作り方を教えて欲しいと話があったそうだ。
教えるのは大丈夫なので、いつにするか決まったら教えて下さいと伝えたのだった。