第六十二話 手数料と税金
「ありがとうございました。お気をつけてお帰りください」
エルヴィスにドレスを注文した虎達三人。
エルヴィスのお母さんに採寸してもらい後は全てお任せだ。
金額も一人大金貨10枚のお支払いって金銭感覚が違いすぎる。
来月に社交ダンスの発表会がある事情も知っており、急ぎでの注文ではなく出来上がり次第で問題ないとの事だった。
「いやー何だか凄かったねー」
銀次郎は今度こそ一息つくために紅茶を淹れる。
「ギンジローさん、絶対に分かってないですよね?」
ミリアがレイチェルさんに聞く。
「そうねぇ。たぶん分かっていないと思うわ。でもそっちの方が幸せかもね」
なんか呆れた目でこっちをみている気がするが、良い事は無さそうなのでそのままスルー。
「ドレスの方はどのくらいで作れそう?」
今回オーダーを受けたのは十三人分のドレスと、最後に来た三人のドレスだ。
「半月もあれば全員の仮縫いまではいけるかな。仮縫いが出来上がった分から合せてもらって、問題なければ同時進行で仕上げだな」
さすがに虎達のドレスまでは手に付かないが、あっちは急ぎじゃないからね。
ドレスの仮縫い合わせと納品の時は、立ち会う事をエルヴィスに伝える。
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社交ダンスの発表会で決まった事は
1、社交ダンスの発表会は、二つの月が満月になる日に開催。
2、チケットは銀次郎が作りレイチェルさんと商業ギルドで販売する。
値段は銀貨2枚で飲食代込み。
3、ダンスホールで発表会を行い、パーティは中庭も使用する。
パーティーは銀次郎が段取りをする。
4、審査はレイチェルさん。
純粋に社交ダンスの楽しさを感じてもらいたい為、細かい順位付けはしない。
レイチェルさんが審査した上位三組が、最後にそれぞれ得意のダンスを踊り一位から三位までは決める。
5、ベストドレス賞、新人賞、ベストカップル賞、レイチェル賞など多くの賞を作って表彰する。
社交ダンスの発表会が今後も続いていく様に、表彰は幅広くしていく。
大枠はこんな感じだ。
銀次郎のふとした発言から始まったドレスの展示会と社交ダンスの発表会。
ドレスの展示会の方は、注文もいっぱいあって成功したと思う。
後は出来上がったドレスを、お客さん達が気に入ってくれるかどうかだけど大丈夫でしょう。
社交ダンスの発表会は、売上や利益を追求するのではなく楽しさを追求しようと思ってる。
否、正確に言えばレイチェルさんの人生を応援したいだけなのかもしれない。
ある意味自分の我儘に付き合ってもらうので、ミリアにはごめんねと伝える。
「大丈夫ですよ、私はギンジローさんの担当ですから。それに今回のドレスの展示会、エルヴィスさんが受けた十三人分のドレスの売上が大金貨27枚。手数料だけでも大金貨2枚小金貨7枚です。しかも今回はお手伝いをしただけでこの手数料を頂くのですから十分すぎますよ」
「そうなんだ。そう言ってくれるなら良かったよ」
ミリアは銀次郎から見ても優秀だ。
そんな人が担当でありながら、あまり利益が出てなくて申し訳ないと思っていた銀次郎は嬉しかった。
「それにエルザ様達のドレスの事覚えていますか?」
そう言えばお任せでそれぞれオーダーしていた。
大金貨10枚のドレスが三着なので、これだけで手数料は大金貨3枚。
「あの三人だけで、他の人達の売上超えちゃってるんだ」
エルヴィスを見ると、珍しく頭を掻き照れている。
「ギンジローさん何か忘れてませんか? あのネックレスは聖金貨1枚ですよ」
現実的じゃない金額だったから頭から抜けてた。
「真珠のネックレスが聖金貨1枚。ジルコニアのネックレスも一つ大金貨1枚の値段で全部売れたんだ」
ミリアはにっこりと微笑む。
「そうですよ。ネックレスだけで手数料は大金貨108枚ですからね」
手数料について聞くと、商業ギルドが持っている魔道具で支払いや受け取りをすれば自動的に計算される。
商業ギルドはこの手数料の中から、領主に税金を納めてくれているそうだ。
一方で現金のみのやり取りで不正をしようとしても、その後どこかでギルド証を使った時点で今までの手数料が引かれていく。
まぁ商業ギルド員は信用が命なので、不正をしたり噂が立つだけで商売は出来なくなる。
だからそんな事をする商会はほとんど無いとミリアが教えてくれた。
ちなみに手数料のかかる贅沢品とは、市場に出回っているかどうかが大きいそうだ。
フルーツの盛り合わせはマンゴーやパイナップル、メロンも入ってるので贅沢品だと思うが手数料は掛からない。
一方でゴージャスかき氷は手数料が掛かる。
ミリアに色々教えてもらったが、異世界の常識がない銀次郎には理解が出来ない事が多かった。
この辺は課題だと思うので、ミリアにこれからも教えてもらい学んでいこうと思うのであった。