第六十話 仲良し夫妻のカールさんレーアさん
二つ目の鐘が鳴ったのでドレスの展示会をオープンさせる。
玄関の大きな扉を開けると、木材商会を引退したご夫婦のカールさんとレーアさん、そしてその商会を継いだ息子さんが飛び込んできた。
ドレスの展示会が始まるのを外で待っててくれたみたいだ。
息子さんにドレスの展示会と美味しい紅茶とケーキの話をしたら興味を持ったらしい。
あいつ仕事を抜け出してきやがったとカールさんは豪快に笑う。
息子さんは従業員に任せても大丈夫な日だったし、親が社交ダンスを楽しく踊っているので母親にドレスをプレゼントする為に展示会に来たと反論している。
まぁ仲が良い家族だ。
レイチェルさんのドレス姿を見て金額を気にする息子さんに、プレゼントしてくれるのよねと奥様のレーアさんも笑ってる。
カールさん達ご家族には受付を済ませてもらう。
ラウンジで紅茶を飲むか、すぐにドレスを見るか聞くと
「女性の買い物は時間がかかるから、こっちは紅茶でも飲んで待つ事にするか」
旦那さんのカールさんが息子さんと一緒にラウンジの方へ向かおうとしたので、まずはパワーストーンのネックレスを選んでもらう様に伝える。
「まぁ何これ? こんなすてきなネックレスが貰えるの? あらどうしよう」
奥様のレーアさんは大興奮。
何とか選んでもらい、旦那さんのカールさんがレーアさんの首元にネックレスをつける。
「あなたにネックレスをつけてもらったのなんて、いつ以来かしら?」
そんな微笑ましい光景を目にしながら、銀次郎は紅茶とお菓子を用意したのであった。
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「なぁ親父、この紅茶も菓子も今まで口にした事のない極上品だよ。あのネックレスもタダでもらったし、ドレスの金額どれだけするんだ?」
二代目の息子さんが心配していたが、ミリアは商業ギルドを通して買えば分割払いも可能だと伝える。
後でミリアからこそっと教えてもらったが、大きな商会で商売も順調。
二代目のヘソクリが少し減るくらいですよって、ヘソクリまで商業ギルドは把握しているの?
次のお客さんが来たのでラウンジで待っててもらうと、奥様のレーアさんが戻ってきた。
「もっと見たかったけど、他のお客さんもいるから譲らなきゃね。ギンジローさん私にも紅茶をいただけるかしら?」
その間に息子さんはミリアの元に向かい、お支払いを済ませる。
戻ってきた息子さんの表情は明るかったので、金額的に大丈夫だったんだろう。
「私はこのパウンドケーキってやつが気に入っちゃってね。うちで扱ってる木材がパウンドケーキに見えた時はどうしようかと思ったさ」
奥様のレーアさんって笑顔が素敵な人だな。
いつも笑ってるし一緒にいて楽しくなる。
それだけ気に入ってくれたならと、内緒でパウンドケーキをお土産に渡す。
ドレスが仕上りと、ダンスの発表会の日程が決まったらお知らせしますと伝える。
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ドレスの展示会に来てくれるお客さんは予想以上に多かった。
嬉しい事ではあるがさすがにエルヴィス一人じゃ対応できなくなったので、ハリーにお願いしてエルヴィスのお母さんを呼んできてもらった。
採寸をお母さん商談をエルヴィスがやる事によって、お客さんを待たせる時間は少なくなったがドレスを買ったお客さんはずっとこの場に残っている。
レイチェルさんのダンスホールのお客さん達は、普段それぞれあまり話をする機会がなかった。
それがドレスの展示会で集まったのだから、親しくなるにはちょうど良かったのだろう。
社交ダンスの発表会という共通の話題もある。
美味しい紅茶やケーキ、エデルの果物もあり楽しそうに話をしている。
急遽テーブルと椅子を増やしたがそれでも足りないくらいだ。
「レイチェルさん、この鏡の前で踊ってみても宜しいでしょうか?」
許可を得るとダンス練習用の鏡の前に、自分のダンスを確認する紳士やマダムが集まった。
気を利かせたレイチェルさんが音楽隊を呼んで、ダンスホールに音楽を流す。
当たり前だけどみんなダンスが好きなんだなぁと思う銀次郎だった。
「ギンジローさん。このネックレスの金額っていくらですか?」
ミリアがお客さんから言われたと聞きにきたが、展示しているだけで値札などは用意していない。
小金貨1枚くらいでと言いかけた所で、ミリアに手で口を塞がれる。
ミリアが何言ってるんですかと興奮している。
この宝石は人工的に作ったもので綺麗だけど安い物だと伝えるが、それでも小金貨1枚は考えられない。
これが出回ると市場が壊れるので、売るなら大金貨10枚くらいにして欲しいとお願いされた。
さすがにネットショップで三千円くらいで買ったものを百万円で売るのには気が引けるが、どうしても欲しいというご夫婦がいたので売る事にした。
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「ギンジローちょっといいか?」
エルヴィスなに? と返事すると、パワーストーンをドレスに縫い付ける事を希望するお客さんの話だった。
「ドレスに縫い付けても大丈夫なものなの?」
銀次郎はドレスの事はよくわからなかったので聞くと、袖のボタンをパワーストーンにしたいらしく技術的には簡単に出来るとの事だった。
社交ダンスの衣装って確かキラキラしてたし、踊りに支障がなければ大丈夫なのかな?
ミリアにも相談をしたが、そもそもパワーストーンの原価の安さに驚いている。
「特別な依頼ですし、ここは稼がせてもらいましょ」
エルヴィスとミリアはお客さんの所に戻った。
袖のボタンをアクアマリンのパワーストーンにする注文を受け、お客さんも満足したようだ。
パワーストーンを袖のボタンにしたいって粋だが、いくらで売ったんだろうか。
「ギンジローさん、これも商売なんですね。僕の知らない世界です」
エデルは高級ドレスやネックレスが次々売れていく事に驚いている。
エデル安心してくれ、ドレスは売れると思ったがネックレスがこんな高値で売れるとは俺も思ってなかったよ。