第五十六話 お肌のお手入れ
虎がコーエンさんに合図を出すと、マインツ家のメイド達が化粧道具やお湯、タオルなどを用意する。
「まずは洗顔を致します。お肌の汚れを綺麗に落とす事が大事ですので」
コーエンさんは石鹸とぬるま湯を使って泡を作り、二人の洗顔を始める。
「あら? 泡がいっぱいで良い香りもする。何だか気持ち良いわねぇ」
決して擦る事なく、石鹸の泡と指の腹だけで優しく洗顔をする。
洗顔が終わり泡を洗い流すと、自分自身のお肌を触って確かめるアデルハイトさん。
コーエンさんが鏡を見せると、アデルハイトさんは鏡に映る自分の姿を確認する。
「うちのと比べるとはっきりと映る鏡なのね」
フランツェスカさんも洗顔が終わったので、コーエンさんが鏡を向ける。
こちらもアデルハイトさんと同様に鏡に映る自分の姿を確認している
「顔を洗っただけでも普段と違うでしょ。でもここからが凄いのよ」
虎が声をかけると、基礎化粧は次の工程に入る。
「汚れを綺麗に落とした後は、この化粧水と美容液を使ってお肌に潤いを与えていきましょう」
潤いと聞いて、少しピクッとする二人。
フランツェスカさんもアデルハイトさんもとてもお綺麗なのに、それでも気になるのが女性なんだろう。
たっぷりと潤いと栄養を与えるとお肌が喜んでいるのか、二人とも表情も柔らかくなる。
「洗顔をして化粧水をつけてから美容液の順番を覚えておいて下さい」
二人は潤いが戻ってハリと艶が出てきた自分のほっぺたを触って喜んでいる。
「フランツェスカ、アデルハイト凄いでしょ? これは基礎化粧品と言ってお肌を整える物なの。一度使ったらもう手放せないわ」
虎は交互に二人のほっぺたを指でツンツンする。
「お肌の潤いすごいでしょう」
フランツェスカさんもアデルハイトさんも、物凄い勢いでコクコクと頷いてる。
「最後にこれよ」
虎がクリームの容器を手に取る。
「ギンジローさん、これは何の為につけるんでしたっけ?」
急に振るなと銀次郎は思ったが、お肌の潤いを閉じ込める為につける物ですと答える。
コーエンさんが手でクリームを広げて、それぞれ二人の顔に塗っていく。
「こちらが寝る前に行う基礎化粧です。朝にも同じ事を行うと更にお肌が喜ぶと思います」
クリームを顔に塗って基礎化粧を仕上げたコーエンさん。
二人は鏡に映る自分の姿を見てうっとりしている。
「凄いでしょ。このお化粧はギンジローさんが教えてくれたの。でもね、世界中の女性がこの事を知ったら、ギンジローさんに基礎化粧品を求めると思うの。だからギンジローさんはこの事を隠して欲しいそうなのよ」
二人はなるほどねと頷く。
「ちなみにこれはお肌を整える基礎化粧で、これとは別にお化粧もあるのよ」
今すぐにお化粧をしてみたいと二人から申し出があったが、今日はお肌の調子を整えたので明日の朝コーエンさんにお化粧をしてもらう事になった。
「後はね、髪の毛にも秘密があるのよ。これも明日の朝に試してみましょう」
赤いボトルのシャンプーを手に取り、二人に見せる虎。
「とにかく続きは明日ね。今日はギンジローさんを二人に紹介する為のお茶会なの。わざわざ呼び寄せた理由はわかったでしょ」
何事かと思ったが、これで理由が分かったと二人は納得している。
「ギンジローさんこの二人とは仲良くしてね。フランツェスカとアデルハイトは何かあったら助けてくれるから」
銀次郎に優しく微笑む虎。
肉食系の人が優しく微笑むって恐怖しかないよな。
「あとね。二人は王都に住んでいて普段は王都から離れる事が出来ない立場の人間だから、今回大事なパーティーがあるって嘘をついて強引に呼び寄せたの。だからこの後ダンスがある流れになっていたけどダンスは無いから。娘にもさっき伝えたら怒っちゃってね。あの子ダンスを楽しみにしてたみたい。だからこの後ソフィアとダンスを踊ってくださるかしら?」
微笑みの理由はこれか。
ソフィア楽しみにしてたもんな。ダンスは嘘でしたはさすがに怒ると思う。
「私は大丈夫ですが、ソフィアは大丈夫でしょうか?」
「うーんダメかも知れないから、優しい言葉でもかけてあげて」
なんて人だと思ったが、この後ソフィアと会うので嬉しく思う自分がいたのである