第五十二話 大宴会
「ギンジローなんか美味いもん作ってくれんか?」
まだ明るいが親方の宴会が始まった。
完全なる接待だが、すでに話は纏まっているので商業ギルドのお偉いさん方もエールをグイグイ呑っている。
親方がご所望の三十六ヶ月熟成の生ハムは、お弟子さん達がナイフを使い薄くカットしていく。
生ハムとウイスキーがたまらなく好きじゃと無邪気に笑っていた。
親方から美味いもんの注文が入ったので、酒のあてを作っていく。
「とりあえずこれ出しといて」
銀次郎はチーズとナッツを皿に乗せてミリアに渡す。
さてどうするかな……
まず銀次郎は七輪を取り出して、火熾しを行う。
中々火がつかなかったが、お弟子さんが火をつけてくれた。
そのまま手伝ってくれるとの事だったので、生ハムを買った時についてきたナイフをお礼に渡しておく。
研ぎは甘いが素材が良いらしく、この間もお弟子さん達で取り合いになっていたので満足そうだった。
まずは安く仕入れておいたネギ塩牛タンだな。
厚切りにした牛タンを七輪で焼いてネギ塩ダレをたっぷりとかける。
お代わりの注文がきたが、牛タンだけ切って後は七輪で勝手にやってもらう。
ネギ塩ダレは別皿でたっぷり用意して、トングの使い方も説明したので後は勝手にやってくれるだろう。
「遅くなってごめん。ギンジローすごい事になってるね」
やっとハリーとエデルが戻ってきた。
二人には宴会が始まった経緯を伝え、エデルには果物の盛り合わせをあのテーブルに出して欲しいと伝える。
あとメロンが冷えたら教えてと伝える。
「あの〜すみません。あちらのお客様がエールを注文したいと言っているのですが」
どうやら商業ギルドの招待客が、親方達が宴会を始めたのでそっちでもエールを呑みたくなったらしい。
「エールは商業ギルドの持ち込みだから、ミリアどうする?」
ミリアはプラスチックのカップを売ってくれと言ってきたので、ミリアなら好きに使っていいと伝える。
ウイスキーは氷を使うので、注文があった時はこっちで用意をする事にした。
「あの〜すみませーん。冷えた果物と氷のお菓子が食べれるって聞いた冒険者の方が来ているのですが」
「分かった。ハリー、ミリア手伝って」
このお客さんは毎年この時期になるとマインツの大聖堂に訪れる冒険者で、助祭から冷やした果物と氷のお菓子の話を聞いて、わざわざ商業ギルドまで来てくれたそうだ。
レイノルド助祭かな?
ゴージャスかき氷の最初のお客さんはまさかの冒険者だったが、小金貨1枚をポンと払うあたりこの男性は有名な冒険者なのかもしれない。
ガラス製の器に薄くカットして、ふわふわの氷を盛り付ける。
「好きな果物をこの氷の上に乗っけます。果物は何種類でも構いません。好きなだけ取ってください。次に練乳という甘い汁がかけられていますが、もっと欲しい場合はこちらから好きなだけ掛けて下さい。
他にもシロップはありますが、おすすめはこちらの煉乳なのでお好みで調整してみてください」
「暑いのに本当に氷が出てきたな。これは楽しみだ」
冒険者の男性はかき氷を受け取ると、エデルと話をして果物をトッピングしている。
マンゴーとメロンを3切れづつ乗せたゴージャスかき氷を一口食べる。
「これは……うまい。氷は恐ろしいくらいに薄く切られており、この白い牛の乳の様なものは口の中に幸せを運んでくれる」
なんか言っているが、美味しくたべているので問題はなさそうだ。
「ギンジロー、何か腹に溜まるもんくれー」
親方から催促の声が飛ぶ。
この冒険者のお客さんは、お代わりのゴージャスかき氷を注文してくれたのでハリーに任せる事にした。
何か腹に溜まるもんって言われても、何作るかな?
まずはお婆さんから買った野菜を取り出し、水で洗う。
素早くカットしてから氷水につけて冷やす。
その間に味噌とマヨネーズを混ぜてディップを作り、野菜スティックの完成だ。
何かあったかな? 銀次郎がアイテムボックスを確かめると、以前料理長のオリバーさんから貰ったソーセージが入っていた。
銀次郎自身はボイル派だが、時間がもったいないので七輪で焼く事にした。
「親方、ここにソーセージ置いとくのでみんなで焼いてたべて下さいね。あとこれ野菜スティック。これをつけると美味いですよ」
牛タンはすでに無くなっていたので皿を回収し、七輪の網も交換しておく。
ソーセージはそのままでも美味しいが、一応粒マスタードも置いておく。
「ギンジローさん、あちらのお客さんもソーセージを食べたいと言っています」
「分かった。七輪の火を熾すからちょっっと待ってて」
「ギンジローさん、ウイスキーというお酒を飲みたいと言うお客様がいるのですが……」
「一杯銀貨1枚で良いなら作るよ」
「おーいギンジロー、ウイスキーがなくなったぞい」
「こっちはエールをくれー」
「ハリーさんエデルさん、ゴージャスかき氷をお願いします」
「エールがもうなくなりそうです」
「エミリアつまみ食いしすぎ」
「エールおかわりください」
「野菜のあれこっちにも」
●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●●
商業ギルドの庭に、多くの招待客が集まり夏祭りの踊りを楽しんでいる。
親方の接待というか宴会が始まってから三時間くらい経ったが、やっと落ち着いた。
ゴージャスかき氷の方は、果物が完売で終了となった。
単価も高いので少し売れれば良いかなと思っていたが、なんと八十四杯も売れてしまった。
忙しすぎて洗い物をする時間が無かったので、ガラスの器をネットショップでたくさん仕入れて対応した。
余計な経費はかかったが、小金貨八十四枚の売上はとてつもなく大きい。
あんなに仕入れた果物が売り切れたのでネットショップでの購入も考えたが、果物は今後もエデルに任せるので自重した。
その分ネットショップで鉄板を購入し、焼きそばを作って売りまくった。
ハリーは焼きそばのソースでハンバーグを作ったら美味しそうだと言っていたので、ハリーのハンバーグ愛は中々のものだと改めて実感する。
その後もエールとウイスキーは飛ぶ様に売れた。
焼きそばをハリーと一緒に作り、エデルには食材の下拵えをお願いした。
お婆さんのところで買っていた野菜を使ったが、焼きそば屋台をやるんだったらお婆さん一家にも手伝ってもらったら良かったなと少し後悔。
まさか焼きそばを作るとは思っていなかったので、仕方の無い話ではあるが……
「みなさん食事を取って下さい。この踊りが終わったら片付けをしますので」
手伝ってくれている商業ギルドの女性達に焼きそばを作ったが、甘いものも良ければ頂けないでしょうかって。
こんなに忙しくなると思わなかったのに、嫌な顔をせず手伝ってくれたみんなに羊羹やシュークリーム、金平糖などアイテムボックスにある物をたくさん渡した。
余ったら持ち帰って構わないと伝えたら、みんな喜んでくれたよ。
受付の娘にも感謝の気持ちを伝えると、今度またハングリーベアーでみんなにご馳走してくれとお願いされた。
ハンバーグとロールケーキタワーの事を自慢したら、みんなもたべたくなったらしい。
近いうちに打ち上げをしようと約束をする。
「ギンジロー様、この度はご協力ありがとうございました。担当のミリア共々、今回の件お礼を申し上げます」
ギルド長からは、親方に贈答用の剣を作ってもらう約束を取り付けた事に感謝された。
別に親方なら作ってもらえるとは思っていたが、結構大変な交渉だったらしい。
「お前さんも呑まんか?」
「片付けもあるんで1杯だけですよ」
忙しくて疲れたけど凄く楽しかった。
ウイスキーと氷が入ったカップを軽くぶつけて、疲れが取れる魔法を唱える
「プロージット」