第五十一話 三十六ヶ月熟成の生ハム原木のお値段は
夏祭りは秋の豊作を願う祭りであり、夜は人々が踊りながら大通りを練り歩く。
商業ギルド前の庭にはその踊りを見れるように、木で出来た椅子とテーブルがいくつも並んでいる。
観客席みたいな物だろうか? 今日はこの招待客相手にゴージャスかき氷を売っていく予定だ。
ミリアが指定した場所に屋台と長テーブル、そしてゴミ箱を設置。
観客席からは少し離れているが、まぁ大丈夫でしょ。
ハリーとエデルは、トーマス商会に果物を取りにいく。
トーマス商会に良い印象を与える為にも、持ってこれるだけ果物は注文しておいた。
余ってもアイテムボックスに入れれば良いだけだしね。
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三つ目の鐘が鳴る。
日本だったらおやつの時間だが、さっきたべたのでお腹は減ってない。
夏祭り本番はもう少し遅い時間らしく、招待客は少ししか集まっていない。
ハリーとエデルが戻ってきたので準備していた氷水に果物を入れていくが、また大聖堂から注文が入ったらしい。
エデル一人だと大変だろうから、ハリーにも一緒に行く様伝える。
「この暑い時期に氷とは珍しい」
お客さんから急に話しかけられたのでビックリしたが、暇だったのでかき氷を試食として提供。
これは素晴らしい、ぜひ我が商会にも氷とシロップを売って欲しいと言われたがそこは丁寧にお断りしておいた。
その後、夏祭りのメイン会場に向かう子供達にゴミ拾いをしてもらってかき氷を作ったが、ここでの商売はゴージャスかき氷の販売なので招待客がいないと暇だった。
しばらくするとミリアが屋台に来たが、ハリーとエデルはまだ戻っていない。
やることもないので木陰にシートを敷いて休む事にした。
「やっぱりここに居た。そうじゃと思ったわい」
やたらとでっかい声だが、聞き覚えのある声だ。
その声の方向を見るとハートマン親方とお弟子さん達、あとは商業ギルドのお偉いさん方だろうか? 屋台の前に立っていた。
「親方何やってんですか? そう言えば伝えるの忘れてましたけど屋台すごく良いですよ」
「屋台は当たり前じゃろ、わしが作ったんだぞ。しかしお前さんの顔を見ると、一杯呑りたくなるな」
親方はガハハと豪快に笑ってる。
だが周りの大人達は笑っていないので、なんか変な感じがする。
親方に何しに来たのか、ちゃんと聞いてみた。
「わしに剣を作れとこやつらが言うんじゃ。冒険者が使う剣なら良いが王族に贈る為の剣なんざ気持ちが入らなくてな。何度も断っちょるんがしつこくてのぅ。今日ここで酒やつまみ、あと屋台で氷菓子が食べれるから、祭りでも気分転換に見ませんかって。いつもは断るんじゃが氷菓子ってもしかしてと思って来てみたんじゃよ」
お偉いさん方がこっちを見る。
そんな目で見られてもと思ったが、ミリアの株が上がるかもしれないのでちょっと協力しますか。
「親方作ってあげたら? 周りの方々困ってますよ。まぁこっちは関係ないけど、親方にうまい酒呑ませてあげますから考えてみて下さい」
銀次郎は氷水にウイスキーのボトルを入れて冷やす。
親方が好きな亀甲ボトルのウイスキーだ。
あっちの席で待ってて下さいと伝えたが椅子とテーブルをお弟子さんに持って来させて、屋台前に特等席を作るお茶目な親方。
「生ハムが食べたいのう」
このジジイと思ったが、お偉いさん方の強い眼差しに負ける銀次郎。
ミリアを見ると頷いている。出してくれの合図だろう。
まぁ後でしっかりと請求するけどね。三十六ヶ月熟成なんだから高いよ。
まずはミリアにお願いしてエールを持ってきてもらう。
お偉いさん方、いきなりウイスキーじゃキツイでしょ。
エールが届くまでの間、おつまみを作る。
生ハムの原木は肉磨きをして、後は自由に切ってもらうようにした。
そのくらいお偉いさん方やって下さいね。
ナッツやチーズも用意して皿にのせる。
親方はまだかと言ってるが、面倒なのでスルーだ。
しばらくすると、ミリアが何人か連れてエール樽を持って戻ってきた。
その中には見た事のある女性達も居たので、手伝ってもらう事にした。
あまり話した事はないのだが、なぜだか受付の女性達の反応は良い。
毎回お土産を持ってきているのでその効果かなと銀次郎は思いながら、制服姿では汚れるのでエプロンをみんなに渡す。
「ミリア、ウイスキーはボトルで銀貨5枚。コーラは銅貨3枚。全て氷代込みだけど良いかな?」
ミリアはお金は構いませんが、迷惑をかけて申し訳ございませんと謝ってくる。
しっかりと商業ギルドに請求するから、全然謝らなくて良いよと伝える。
親方は量も呑むし、さっきの生ハムは三十六ヶ月熟成でとっても値段が高いけど大丈夫?」
「ギルド長案件なので大丈夫です。これで纏まるなら安いくらいですよ。たっぷり色をつけてギルド長に請求しましょう」
さっきは申し訳なさそうな顔をしていたミリアだが、意外とお茶目な所もあるみたいだ。
良い意味で悪い顔をしている。
こっちもお偉いさんだとは思ったが、親方を接待しているのがギルド長だとは思わなかった。
ギルド長なら取りっぱぐれは無いだろうと判断し、親方の接待を手伝う事にした。
「親方お待たせしました。キンキンに冷えてますよ」
親方の前にウイスキーのボトルと、ロックアイスの入ったプラスチックカップを置く。
親方は嬉しそうにウイスキーボトルを取り、カップに並々注いでいく。
ギルドのお偉いさん方には、エールが注がれたカップを置き、お弟子さん達にはコーラを置く。
「親方もう良いですよね? みんな困ってるんで剣は作ってくださいね」
宴会が始まる前に確認をすると、親方はわかったわいと頷く。
ギルド長とその取り巻きの方々は、安心した様子だ。
「そんな事より早く呑るぞ。美味い酒にプロージット!」
のちに語り継がれる事となる、大宴会が幕を開けたのである。
商業ギルドの受付けの娘、名前はエミリア。
本当はもっと早い段階で閑話を投稿する予定でしたが、やっと紹介出来て良かったです。
エミリアは本能で動く人物なので、個人的に好きで憧れもあります。
近くにいたら大変な娘かもしれませんが、暖かく見守ってあげて下さい。