第四十九話 エデル商会(仮)
「ギンジロー遊びに来たよ」
大きな麦わら帽子に、薄いブルーのワンピースを着たソフィアだ。
孤児院の子供たちを連れて、かき氷屋台に来てくれた。
「コーラ!コーラ!」
子供達は笑顔でコーラの大合唱だ。
「よーしみんなゴミを拾ってこの辺をキレイにしてくれたら、コーラをご馳走するぞー」
そんなのいつもやってるから簡単だよと言い、ゴミを拾ってくれる子供もいれば
まだよく分かっていなく見よう見まねでゴミを拾うが、拾ったゴミをすぐに投げちゃう子供もいる。
そんなちっちゃい子供を、年長者がフォローしながらゴミや木の枝を拾ってくれた。
「じゃあみんなこの水で手を洗ってね。そしたらコーラ飲んでいいよー」
長テーブルの上におやつのクッキーと氷の入ったコーラのカップを置くと、手を洗った後それぞれがコーラを堪能している。
一気に飲もうとする者、おいしいのが無くならない様にチビリチビリと飲む者、炭酸を眺めてまだ口をつけていない者など様々だ。
「ハリー、エデルごめん。屋台お願いね」
二人にかき氷屋台を任せて、ソフィアとセバスチャンと話をする。
メイドのアメリーは、子供達に出したクッキーに夢中だ。
「ねぇギンジロー、ハンカチ持ってる?」
ソフィアに聞かれたので、この間もらった刺繍入りの白いハンカチを渡す。
汗を拭いたハンカチを渡すのはアレだったので、覚えたクリーンの魔法を使ってからソフィアに渡す。
「そんなの大丈夫なのに。ギンジローは優しいね。ちょっと待っててね」
そう言ってソフィアは両手でハンカチを持つと、何やら魔法を唱える。
「はいこれ。ハンカチ冷やしたから気持ちいいと思うよ」
ソフィアは冷えたハンカチを、銀次郎の首筋にあてる。
冷たいハンカチにヒヤッとして、ソフィアの仕草にはドキッとさせられた。
「今の魔法?」
ソフィアはそうだよと答える。
そう言えば氷魔法は限られた魔法使いしかできない、上位魔法だと聞いた事がある。
このマインツではソフィアしか出来ない魔法だとも。
ソフィアは王都の魔法魔術学校に通っており、首席で卒業したハリーでも出来ない魔法が出来るのは凄いのかもしれない。
もしエデルが氷魔法を覚えたらと思ったが、上位魔法で魔力も多く使うので難しいだろうとの事だった。
「ギンジローはなんで氷を出せるの?」
ネットショップで買った板氷なのだが、そんなスキルは話す事ができない。
ソフィアに内緒事はしたくないけど、こればかりは仕方がない。
せっかくソフィアとの楽しい会話だったのに、少し落ち込んでしまった銀次郎だった。
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「ギンジローさん、ハリーさん、エデルさんこっちです」
商業ギルドに到着すると、担当のミリアとカウンター受付の娘が手を振っている。
「ちょっと話したい事があるんだけど良いかな?」
ミリアにエデルの事を相談したかったので少し時間を貰った。
受付けの娘には迷ったけどカステラを渡した。
今日はカステラに牛乳で決めたい気分だったが、アイテムボックスに入ってる牛乳は時間停止機能がついていて劣化していない。
この事はまだミリアには内緒にしておきたいので、今日は紅茶で我慢しよう。
今日たべるカステラは、贈り物でも有名な人気のカステラだ。
銀次郎が子供の頃から好きだった物なので、なんだかテンションが上がる。
カステラの上面には紙が貼ってあるから、それは剥がしてねと伝える。
そうしないと受付けの娘、紙ごとたべそうだもんな。
ミリア専用の部屋に入り椅子に座る。
「ギンジローさんどうされましたか?」
急に話があると言われて、何事かと心配するミリア。
「エデルの事について、ミリアに相談したい事があって」
エデルの独立、商会を立ち上げたい事について相談する。
エデルは今、トーマス商会で修行をしているが不義理をする事なく、お互いが得をする状態で独立をさせたい。
商会としては、しばらくはマインツの大聖堂に冷やしたマンゴーを納品して稼いでいく事。
エデル商会(仮)は、銀次郎がしばらくサポートする事を伝える。
「そうですね。エデルさんはすでにマインツ大聖堂という大きな顧客を抱えています。ギンジローさんがサポートすれば、氷は手に入るわけで問題は無さそうですね」
ミリアにはエデルの担当になってもらう様お願いした。
エデル頑張れ!ミリアがいれば上手くやってくれるでしょ。
「トーマス商会からの独立ですが、エデルさんは果物農家の方や市場との付き合いがまだ少ないと思うので、手数料を払って任せてはどうでしょうか? しばらくは一人で商売すると思うので、手数料を払ってでも任せる方が良いかと思います」
トーマス商会に話をしないといけないが、エデルの商売が大きくなればトーマス商会にも利益は十分にあると思う。
そんな事を考えてると、受付けの娘が紅茶とカステラを持ってきてくれた。
ちゃんと上面の紙も剥がしてあるが、口元にカステラが付いているのはご愛嬌だろう。
「紅茶とカステラありがとう。少し話を聞きたいんだけどいいかな?」
何も考えてないように見えるが、エデルの果物の値付けをしたのはこの娘だ。
エデルの独立をどう思うか聞いてみる。
「ん……大丈夫だと思う。大聖堂の方から求めてくるなんて普通じゃ考えられない」
そう言ってカステラに手をつける受付けの娘。
エデルが手を伸ばしたカステラを奪い取るのは、如何なものかとは思うが……
「それよりエデル商会(仮)で何やってもらいたいの?」
この娘は食いしん坊だが考えは鋭い。
カステラが無くなる前に自分の分を確保しておく。
ハリーはミリアの分のカステラを取り分けた。
最初の頃は緊張して何も出来なかったのに、いつの間にか動ける男になってる。
「ちょっと整理出来てないけど、頭の中にある考えを話すね」
まずは純粋に頑張っているエデルを応援したい事。
今の屋台を続けても儲かるが、エデルには屋台という枠に収まらない商売をして欲しいと思ってる。
例えば今度、エルヴィスとドレスの展示会をするのだが、そこでも冷やしてカットした果物をエデルに出して欲しい。
ダンスの発表会でも出して欲しいし、もっと言えばマインツ家で銀次郎が依頼されるお茶会でもエデルには手伝ってもらいたい事を伝える。
エデルは頑張りますとキラキラした目でこっちを見る。
受付けの娘は、最後のカステラをハリーに取られて睨んでいる。
仕方ないのでアイテムボックスから贈答用に購入していた、粒あんとこしあんのどら焼きをテーブルに置く。
個人的には粒あんの方が好みだ。
はみ出る程の粒あんを見ただけで幸せになれる。
こしあん派は、上品な滑らかさを求めるらしい。
まぁどら焼きは美味しいから、どっちも好きなんだけど。
受付けの娘は右手に粒あん、左手にこしあんを持って食べ比べている。
この娘は本当に変だけど、本能にしたがって生きているのは羨ましいと思う。
ミリアは上司だが、この娘の変な行動を決して怒らない。
そんなミリアだからこそ、銀次郎はミリアに気軽に相談出来るのかなと思ってる。
「悪いけど、これをカットしてきてもらえるかな?」
フルーツタルトをアイテムボックスから取り出し渡すと、受付けの娘は笑顔で部屋を出たのであった。
「ミリア、商売のアイディアは他にもたくさんある。成功するイメージはあるけど円満な独立が、俺に出来るか分からない。だからミリアに助けて欲しいんだ」
「私はギンジローさんの担当ですよ。私が話をしますので任せて下さい」