第四十四話 エルヴィスのお母さんに貢ぐ銀次郎
夏祭り前日、今日はお昼前まで寝て体力を回復。
目覚めた後は庭に出て井戸水を頭からかぶる。
頭の中をシャキッとさせたが、お昼前なのでハングリーベアーのモーニングは終わってしまっていた。
「あらギンジローちゃん。今日は随分遅いのね」
疲れていたのか寝過ぎた事を伝えると、賄いが少し余っているからと食事を出してくれた。
ただ銀次郎は知っていた。
ハングリーベアーには食欲旺盛な三兄弟とバーニーさんがいる事を。
賄いが余るなんて事は無い。
わざわざ作ってくれたバーニーさんと、気遣ってくれたクラーラさんに感謝だ。
賄いをいただいた後はエルヴィスの店へと向かう。
「よぉギンジロー」
エルヴィスが両手を広げてハグをしてきたので、それに応えると早く連れ出してくれと催促される。
仕方ないなと思いつつエルヴィスのお母さんに老舗の高級羊羹を献上すると、笑顔で送り出してくれた。
老舗の高級羊羹は銀貨7枚もする高級品だ。
エルヴィスを連れ出すのに毎回銀貨7枚って考えると高いと思うが、あの笑顔を見ると高級羊羹を渡したくなってしまう自分がいる。
エルヴィスと一緒に向かった先は、ドレス生地の問屋だ。
レイチェルさんのダンスホールでドレスの展示会を開くので、品揃えを厚くするために生地を見に来たのだ。
ダンスホール経営のレイチェルさんや、魔性の魅力を持つエルヴィスの彼女? マリアさんなど個人的な付き合いのある人にしかエルヴィスはドレスを作っていなかった。
ドレスは販売した後、定期的なメンテナンスも必要なので今まであまり広げてはいなかったらしい。
問屋とはいえ決して安くない生地を、いくつも購入するエルヴィス。
結構な金額を払っているエルヴィスを見て大丈夫か? と尋ねると、問題ないと言っていたが顔にはいつもの余裕がない。
たぶん無理しているのだろう。
お金を援助する事は出来るが、親友なのでそれをしてしまったら関係が崩れてしまう。
銀次郎はドレスの展示会と発表会が成功する為に、どうしたら良いか改めて考えるのであった。
●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●●
「レイチェルさん、まずはドレスの展示会ですが何人くらい集まりそうですか?」
場所はレイチェルさんのダンスホール。
ドレスの展示会と発表会の打ち合わせだ。
「そうね。この間いた方達は全員参加するって言ってたし、この間居なかったお客さんにも声を掛けてるから十人位は来ると思うんだけど」
話を聞くと結構な人数が展示会に来るみたいだ。
いっぱい売れたらいいなと思う。
今回はレイチェルさんのお客さんを紹介してくれるので、ドレスが売れたら紹介料を支払う契約を申し出たが、お金が欲しくてやってるわけではないのでいらないと断られた。
それよりお客さん達とエルヴィスの作る最高級のドレスを着て、早く社交ダンスの発表会をやりたくて仕方ないらしい。
「レイチェルさん、それでは展示会と発表会のお菓子や紅茶は私の方で用意しますね。それと発表会のチケットなんですが、手頃な金額に抑えましょう。きっと自分達のダンスを見てもらいたくて家族や友人の分のチケットを、自分達でたくさん買うと思うので」
「私は社交ダンスの発表会が出来ればいいから、後はギンジローさんに任せるわ」
レイチェルさんはその代わり楽しくて刺激的な発表会と、美味しいお菓子と紅茶をご馳走してねとウインクをする。
意外と情熱的なんだなと思いつつ、細かい打ち合わせもしてからレイチェルさんと別れ次は商業ギルドに向かった。