第四十三話 タキシード
夏祭りまであと3日。
今日も午前中は朝市でかき氷屋台を出店。
野菜売りのお婆さんはハリーと手伝いに来てくれたミリア達に店を任せて、目の前の休憩スペースでくつろいでる。
ハリーはミリアと一緒なのが嬉しいので何の文句も言わない。
お婆さんはハリーの恋心に気づいて、上手い事やっているみたいだ。
出会った頃は孫の服を買う為に稼がなきゃって言ってたけど、もう何着も買えるくらい稼いでるから気楽なのかもしれない。
ミリアには今度エルヴィスとドレスの展示会と社交ダンスの発表会を開催するから、手伝って欲しいと伝えておく。
興味を持ったミリアは、手伝う事を了承してくれた。
果物屋のエデルは今日も元気だ。
高級品のマンゴーは、教会関係者の方が来て全部買って行った。
他にもパイナップルやメロンも持って行くので、それだけで大きな売上になっている。
かき氷屋台の方も、常連さんが増えてきて売上が伸びてきた。
屋台出店初日にコーラを飲んでかき氷の看板を出した方が良いとアドバイスしてくれたお客さんは、今日もコーラが欲しいと言ってきた。
ある意味恩人なので、かき氷を買ってくれたお礼にコーラはサービスしておく。
絶対に売れるのにもったいないとお客さんは言ってたが、お金に困ったらコーラを売って稼ごうかなと思う。
●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●●
「はいコレ、夏祭り仕様のゴージャスかき氷ね。
ガラス製の器にメロンやパイナップル、マンゴーを乗せたかき氷だ。
練乳もたっぷり乗せて、スプーンでたべる小金貨1枚のゴージャスかき氷。
かき氷に小金貨1枚をもらうのは気が引けるがミリアの提案であり、ここでいっぱい儲けて商業ギルドに還元したい。
朝市が終わった後は、ソフィアとダンスの練習だ。
少し上達はしたと思うけど、ソフィアとダンスを踊るのは緊張する。
練習の時間は一時間くらいだったが、足も腕もパンパンになってしまった。
ダンスの練習の後は、従業員用のお風呂を借りた。
やっぱり湯船が一番だな。
身体の疲れがじわじわとお湯に溶けていく。
風呂上がりに牛乳を飲んでると、料理長のオリバー登場。
「うまそうに牛乳飲んでるな」
風呂上がりに牛乳はサイコーでしょと伝えたが、エールの方がうまいぞとオリバーは笑う。
そういえばたまにハングリーベアーで呑むって言ってたから、今度一緒に呑む約束をしておいた。
その後はセバスチャンとコーヒーを飲み、至福の時を過ごす。
夏祭りまであと2日。
今日はエルヴィスが朝市の手伝いに来た。
依頼していたタキシードは完成して暇になったらしい。
屋台を手伝ってよって言ったら、楽しそうだから手伝うって言ってくれた。
やっぱり持つべきものは友だな。
エルヴィスはイケメンだから、すぐに行列が出来る。
でも女性に無料でかき氷をあげちゃうので全然儲からない。
女性しか並んでなくね?
今日はいっぱいかき氷を作ったけど、売上は昨日の半分以下だった……
まぁいいけど。
「ギンジローさんありがとうございました。最初は一人で屋台なんて無理だって思ってましたけど、ギンジローさんに出会えて色々学ぶ事が出来ました」
エデルが涙を流して言うから、俺も泣いちゃったよ。
まだ子供なのにエデルは頑張ってる。
「こっちこそありがとね。あとは夏祭り当日よろしくな」
エデルは夏祭りの屋台出店申請はしていなかったので、今日で最後である。
まぁ実際は夏祭り当日に果物を乗せたゴージャスかき氷を販売するので、エデルにはかき氷屋台を手伝ってもらうのだが、それでも今日で最後なので寂しい。
「お婆さんもありがとうございました。お婆さんがいたから楽しい屋台が出来ました」
野菜売りのお婆さんとも今日でお別れだ。
野菜スティックと冷やしたスイカで、だいぶ稼げたと思う。
思えば随分お婆さんには振り回された気もするけど、これで終わりと思うとやっぱり寂しいもんだ。
お婆さんのとこの野菜は、形は不揃いだけど味が濃くて本当に美味しかった。
個人的に野菜を買いたい時は、お婆さんのところに訪ねるからと約束し別れる事になった。
屋台を始める頃はこんな素晴らしい出会いがあるとは思っていなかったけど、これだけでも異世界に来て良かったと思う銀次郎だった。
●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●●
「最終確認するから合わせてみて」
場所はエルヴィスの店。
朝市が終わった後、一緒に店に戻り仕立てたタキシードのサイズ確認をする。
試着をすると生地はしっかりしているのに、とても軽く動きやすい。
「エルヴィスありがとう。凄く気に入った」
エルヴィスに感謝の気持ちを伝えると、親指を立てて応えてくれた。
エルヴィスに仕立ててもらったタキシードを着たまま、今度はセバスチャンの馬車に乗ってマインツ家に向かう。
「ギンジロー様お似合いですね」
なんかちょっと恥ずかしかったが、セバスチャンにありがとうと伝える。
しばらくしてマインツ家のお城に着き、ソフィアの待つ部屋に通される。
「ギンジロー凄く似合ってるよ。ちょっと待っててね。私もドレスを着てくるから」
ソフィアは急いでアメリーを連れて、奥に引っ込んでしまった。
確かに何も言わないでタキシードを着てきたのはまずかったかなと思ったが、一度この姿でダンスの確認をしたかった。
仕立てが良く動きやすいが、それでもぶっつけ本番は不安だったから。
準備運動をして待っていると薄いピンク色のドレスに、銀次郎が贈ったロイヤルブルーサファイアのネックレスをしたソフィアが現れる。
ドレスの裾を摘み膝を曲げてお辞儀をするソフィアに目が奪われた。
「ギンジロー、どうしたの?」
首を傾げるソフィア。
「ごめん……凄く綺麗だったから言葉が出なかった」
その瞬間ソフィアの顔が真っ赤になる。
銀次郎もソフィアに綺麗だと言ったことが恥ずかしくなり、身体が熱くなる。
銀次郎自身ダンスが上達してきたと感じていたが、この日は緊張のあまり上手く踊れなかったのである。