第四話 エルヴィスナイト
「やっぱりこれは貰いすぎだな」
エルヴィスと一緒に店に戻ると、腕につけたパワーストーンのブレスレットを見せる。
俺の生まれ育った場所では、割と手に入りやすいものだと伝えたが、それでも釣り合わない。
貰いすぎだという事で、今夜ハングリーベアーでエルヴィスがお酒をご馳走してくれる事になった。
預かってたドレスを渡し、エルヴィスとはまた後で会う約束をする。
行く宛もなく歩いていると、噴水広場の奥の方で、モクモクと煙が出ている屋台があったのでおすすめの肉串を一本頼んだ。
割と大きめの肉串だったが、銅貨1枚と安い。
味の方は、塩っけが無く物足りない感じだが、お腹も空いていたので肉串を一気にたべる。
一息ついた後、噴水広場を歩いて回ったが、この街は野菜類が豊富で安く、りんごや葡萄と言った果物も売っていた。
ちなみにりんごは2個で銅貨1枚だった。
りんご1個だけ手に取り、後はアイテムボックスに収納したが屋台のおじさんにビックリされた。
そんな感じで街をブラブラして過ごし、夕方になったのでエルヴィスの店に行く。
お店に着くと、エルヴィスのお母さんがいたのでエルヴィスを呼んでもらった。
しばらくすると、店の奥からエルヴィスがギターを抱えて出て来た。
「お待たせ、さぁ行こう」
市場で何をしていたかとか、エルヴィスのお母さんは若いだとか、そんな話をしながら大通りを歩き宿屋ハングリーベアーに着く。
食堂にいたクラーラさんがこっちに気づいたので
「クラーラさんありがとうございました。良い服が手に入りました」
そう言ってワイルドに開いた襟をちょこっと摘む。
「あら、それは良かったわね。その服似合っているわよ」
今までこんなワイルドな服は着たことがなかったが、褒められるのは素直に嬉しい。
ありがとうございますと返事をした。
「エルヴィスは久しぶりね。ギターを持っているという事は、今日は弾くの?」
するとエルヴィスは左手でギターを持ち、右手を胸の前に持ってきてお辞儀する。
どこかの映画で見たような、優雅なお辞儀だ。
「はい。楽しい夜にしようかと」
すると、すでに食堂で一杯呑っていた冒険者達がエルヴィスに話しかける。
「今日はエルヴィスナイトかい? それじゃ景気づけにエールを!」
「こっちは一皿だして!」
「こっちもエールだ!」
周りから次々に声がかかる。
いつの間にか宿屋の息子さんである、長男ルッツと次男のハンツは木製の扉を開け、食堂をオープンスタイルにする。
外には立ち飲み用のテーブルをセット。
そしてエルヴィスと銀次郎の前には、エールとおつまみが用意されるのであった。
エルヴィスは木樽のジョッキを手にし、食堂にいるお客さん達を煽る。
「まずは乾杯だ!プロージット!」
「プロージット!!」
それぞれジョッキをぶつけ合い、喉をゴキュゴキュ言わせる。
隣を見ると、エルヴィスは木のジョッキをカウンターに置きギターを構える。
すると奥の席にいる、恰幅の良い客の男から曲のリクエストだ。
エルヴィスはギターを鳴らし、銀次郎の空になったジョッキを指さす。
「エルヴィスもちろんだ!エールを二杯頼む」
注文を見届けた後、エルヴィスはギターのボディを叩きリズムを作る。
客の冒険者達を掛け声で煽り、冒険者達も掛け声を返す。
銀次郎の元に二杯目のエールが届くと、エルヴィスのギター歌いだす。
アコースティックギターの音色と、エルヴィスの歌声は、人をひどくを惹きつける何かがある。
サビはほぼ全員で大合唱。
歌の内容は、敵国に攻められて防戦一方だった皇帝ベッケンバウアー三世が、一夜にして最前線まで単騎で駆け上がり、敵に囚われていたお姫様を救うという物語だった。
曲の終盤は、エルヴィスの少し儚げなギターが繰り返し奏でられて心に刺さる。
急遽できたはずの外の席には、いつの間にかお姉様方が陣取り、お酒を飲みながらうっとりしてエルヴィスを見つめていた。
一曲目が終わると、拍手と口笛そして掛け声が入り混じる。
エルヴィスは歓声を一通り受け止めた後、客からのエールで喉の調子を整える。
店内の客達からは、エールやワインの注文コールが始まった。
嵐のような注文を、奥様のクラーラさんは見事に捌いていく。
長男のルッツは、エールとワインの樽を次々と店内に運び入れる。
次男のハンツは、外に用意されたテーブルにいるお姉様方からの注文を受けている。
三男のフランツは、大皿に入った料理を注文に合わせて取り分けていた。
エルヴィスが二杯目のエールを呑み干すと、今度は白ワインが運ばれくる。
外の席にいるお姉様からの注文だ。
エルヴィスはまた左手でギターを持ち、右手を胸の前に持ってきて、優雅なお辞儀をするのであった。
何曲か終わった後、楽しく酔っ払った銀次郎は一度部屋に戻った。
理由は、ネットショップでタンバリンとマラカスを購入する為だ。
人には見せられない銀次郎のスキルで購入し、すぐさま食堂に戻る。
宿屋の外には更に客が増え続けた。
この増え続ける客達の中心にいるのは、ワイルド金髪イケメンのエルヴィスだ。
ちょうど曲が終わったので、銀次郎はエルヴィスの隣に戻る。
「なぁエルヴィス。俺も参加していい?」
タンバリンを鳴らしながら、エルヴィスにお願いしてみる。
「あぁもちろん良いがそれは何だい?」
「これはタンバリンと言って、叩いたり振ったりして音を出すんだ。ちょっとやってみるよ」
銀次郎はそう言って少し前に出た。
店内の冒険者達は酔っ払ったのか? と次々ヤジを飛ばしてくる。
コップに注がれた白ワインを一気に煽ってから、
学生の頃カラオケで鍛えたタンバリン芸を披露した。
最初は物珍しそうに見ていた客達が、手のひらだけではなく肩や腕、更には足を使って音を出すとみんなノリノリだ。
笑って掛け声をかけてくれる。
エルヴィスもアドリブでギターを合わせてきた。
タンバリン芸から始まったセッションが終わると、最初にヤジを飛ばしてきた冒険者から二杯のエールをもらう。
「あっ、ありがとうございます」
そう伝えると冒険者の男がジョッキを出してきたので、慌ててジョッキをあてる。
「プロージット!!」
エールをご馳走してくれた冒険者は、タンバリンに興味津々だったので使って良いよと言ってタンバリンを渡す。
ご馳走してもらったもう一杯のエールは、エルヴィスに渡す。
「エルヴィス、これで一曲いいかな?」
「もちろんだ」
エルヴィスと今日何回目かの乾杯をして笑い合った。