第三十八話 お菓子王子
「昨日はありがとうございました。素敵な夜になりました」
深々とお辞儀をする商業ギルドの二人。
また行きましょうと伝え、そのままミリア専用の部屋に行く。
「このボトルの中に牛乳を入れて、氷が入っているこの箱に保管して運んできて下さい。玉子の方はこっちの箱に入れて下さい。この窪みの所に玉子を一個づつ乗せていく形で」
使い方を説明してクーラーボックスを渡す。
牛乳のボトルは十二本だが、氷を入れても楽々入る大型のクーラーボックスだ。
もう一つのクーラーボックスは中型で、クッション材も多く入れておく。
もし玉子が割れても、こっちの責任という事で大丈夫ですと約束しお金を払う。
もし足りない場合は、後で請求してもらうようにも伝えた。
商業ギルドでの依頼が終わったので大聖堂前広場に向かい、野菜売りのお婆さんとエデルと合流して屋台を始める。
お婆さんは昨日の娘さんはいないのかねと言っていたが、絶対に自分が楽する為だと思う。
あの娘達は今日は来ないと伝えると、ハリーがお婆さんに捕まってた。
ハリーから助けての目線が飛んできたが、めんどくさいんでスルーだ。
●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●●
「今日もすごかったですね」
果物屋台のエデルが言うが、それもそうだろう。
昨日より多くの高級品の、パイナップルとマンゴーを持ってきたが今日も完売だった。
特にマンゴーは、教会関係者がオープンしてすぐに買い付けに来るほどだった。
あばあさんの野菜スティックも売れ行きは良いが、昨日よりは売れていない。
やっぱりミリアがいたから昨日はよく売れたんだな。
がんばれハリーと心の中で思う。
本業? のかき氷はよく売れたよ。
昨日のクチコミと通りかかった子供に無料でかき氷をサービスし、大人に買ってもらう作戦を継続。
この暑さの中でのかき氷はサイコーだ。
行列が人を呼び、売れに売れまくったのである。
エデルもお婆さんの野菜スティックを手伝う。
かき氷は売れたが、銀次郎一人で回すのには忙しすぎた。
行列が途切れた所で今日はもう営業終了とした。
お婆さんの野菜スティックも完売し、息子さんが迎えにきたので別れる。
明日は屋台を休むと伝えると、お婆さんもエデルも休むとの事だった。
また明後日と伝えて帰ろうとすると、商業ギルドの受付の娘が屋台に現れる。
「ギルドに来て。依頼のモノが届いたので」
意外と早く手に入ったなと思いながら、三人で商業ギルドに歩いて向かう。
ハリーはミリアに会えるのが嬉しいみたいだ。
ふと受付の娘を見ると、ケーキケーキと呟いてる。
もしかして呼びにきてくれたのはケーキが目当て?
その疑いが消えないまま三人は商業ギルドに着き、ミリアがいる専用スペースに向かう。
ミリアがこっちに気づいて、そのまま専用の部屋まで案内された。
部屋にはクーラーボックスが置かれており、牛乳も玉子も手に入れることが出来ていた。
「これどうぞ。シュークリームって言って、中のクリームが美味しいですよ」
受付の娘に、シュークリームが大量に入った紙袋を渡す。
ケーキって呟いていたから、あえてケーキではなくシュークリームで攻めてみる。
ミリアが言うには今日依頼された玉子や牛乳は、近くの村の商人が買い付けてきてくれたそうだ。
いつもはチーズやバターといった加工品をマインツまで売りに来てるので、また欲しい時はいつでも声を掛けて下さいとの事だった。
今日の屋台の話などをしていると、受付の娘が紅茶を持ってきてくれた。
なんか口元にクリームがついているけど、気にしたら負けだと思う。
ちょっと前に渡した紅茶セットだがまだ在庫があるか聞くと、他の受付の娘達にせがまれたりお客様が美味しくて何杯もお代わりしたのでもう在庫が少ないらしい。
ある商人はシュガースティックを持ち出そうとしたのでそれは禁止にしているが、この紅茶を出すと商談が進むので助かってると感謝された。
「足りなくなったらいつでも言って下さいね」
アイテムボックスから缶に入った紅茶の葉とシュガースティックを取り出し、テーブルの上に置く。
最近良く銀次郎は商業ギルドに来ているが、ギルドでの銀次郎の評価は、理由不明だがミリアが担当についている黒目黒髪の人。
だが受付の間では、今一番の注目を浴びている人物であることを聞いた。
理由は銀次郎が持ってくるお菓子だ。
羊羹やバウムクーヘン、そして今回のシュークリームなど見た事もないお菓子を持ってきてくれる事が、受付の中では最近の楽しみらしい。
また美味しいの持ってきますよと伝えたが、受付の間ではお菓子王子と呼ばれている事を銀次郎はまだ知らない。