表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ネットショップマスター  作者: グランクリュ
第一章 夏祭り屋台編
44/207

第三十七話 ロールケーキタワー

 今日はたくさん汗をかいたから、ハングリーベアーに戻ったらすぐに水浴びをする。

クリーンの魔法は覚えたけど、やっぱり水浴びをした方が気持ち良い。



 クラーラさんに今日は四人で食事をするので、席を予約してもらった。



「予約するって事は女の子と食事?」



クラーラさんには商業ギルドの女性で、お仕事ですよと伝えといた。

デートじゃないけど、女性との食事なのでデザートは用意しておく。



「食後にこのデザートを出してもらっていいですか?」



 クラーラさんにデザートと食事代の前払いを渡してから、ハリーと商業ギルドに向かう。

外はまだ暑かったが、ハリーが馬車を手配したので汗をかかなくて済みそうだ。

別に歩いて迎えに行けばいいのにと思ったけど、馬車で女性を迎えに行くのは男の嗜みらしい。

ハリーの家は男爵家なので、こういったところの教育はされているのだろう。

馬車代は結構高いと思うんだけど、ハリーがお金を払ったからまぁいっか。



 商業ギルドに着き扉を開けると、ミリアさんがこっちに気づく。

手をあげて挨拶すると、いつの間にか横には受付の娘が立っている。

怖いよこの娘。



 ここから先は、ハリーにアテンドしてもらう。

だって馬車代を払ってるのはハリーだし、好きな子の前じゃカッコつけて貰わないとね。



「いらしゃいませ。どうぞ奥の席に」



 あらかじめ予約していた席に案内してもらう四人。



「お肉料理が美味しいと聞いていたので、今日は来れて良かったです」



 ミリアさんは髪を耳にかけながら、こっちを見てくる。

その可愛らしさとその仕草は破壊力がある。

ハリーを見ると顔がにやけている。

馬車で迎えに行くのが男の嗜みって言ってたけど、そのにやけ顔は大丈夫なのかと思ってしまう。



「何か苦手な物はありますか? なければ僕のお勧めを頼みますね」



 ハンバーグとおつまみ、そして赤ワインをハリーが注文する。

汗かいたしエール呑みたかったけど、今日の主役はハリーだから任せる事にした。

女性陣もアルコールOKだそうだ。

クラーラさんがすぐに赤ワインの入った木のデキャンタと、コップを人数分持ってきてくれた。



「プロージット!!」



 ハンバーグが出来上がるまでは時間がかかるので、まずはおつまみのナッツとチーズをいただく。

香ばしい香りとサクッとした食感、ナッツの油分がワインを進ませる。

ルッツがこっちを見ていたので、親指を立てて美味しいよと合図する。

ルッツも親指を立てて返してくれる。



 女性陣を見ると美味しそうにワインを呑んでいた。

この呑みっぷりを見るとお酒は好きそうだ。



「もう一杯どうですか?」



 ハリーが女性陣に赤ワインを勧める。



「ありがとうございます。久しぶりのお酒なのでつい嬉しくて、すぐにカップを空にしてしまいました。お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ございません」



 ミリアさんが少し頬を赤らめながら謝る。

隣に座っている受付の娘も、少し目線を下げておとなしくしている。

違和感を感じた銀次郎は、素直に聞く事にした。



「久しぶりのお酒って事は普段は呑まないんですね。遠慮するのもされるのも苦手なので、自分のペースで楽しんでください」



 するとミリアさんの表情が明るくなり、必殺技の耳に髪を掛ける。

無意識でやっているのか、意識してやっているのか分からないがこの仕草は反則だ。



「それでしたら私のことはミリアと呼んでください。私も遠慮されるのは苦手なので」



 商業ギルドというエリート集団の中で、仕事を任されているという事は超一流なのだろう。

そんな人を気軽に名前で呼んで良いのか迷ったが、お互いが仲良くなるチャンスだ。



「わかった。ミリアこれから宜しく。今日は美味しい料理とお酒を楽しみましょう」



「お待たせしましたハンバーグです。パンはこちらに置いておくので足りなくなったら教えてください」



 ルッツとフランツがハンバーグを運んできてくれた。

ミリアがハンバーグを食べて、嬉しそうにハリーと会話をしている。

初めてハリーと一緒に商業ギルドに行った時は全然喋らなかったけど、今日一緒に屋台をやって食事もして二人の距離はだいぶ縮まったみたいだ。



 ハリーはハンバーグが美味しいから毎日食べてるって、それはあまり言わない方がいいんじゃないかなと思う。

変な人って思われるんじゃないかと思ったが、ミリアは気にしていないみたいだ。



受付の娘はハンバーグをおかわり。

近くにこんな娘がいれば、ハリーが毎日ハンバーグを食べようが普通と感じるなと一つ納得。



「それで今日はどうでしたか? 何か指摘する所やアドバイスはありませんか?」



 ハンバーグが焼きあがるまでの間に屋台の事を聞いてみる。



「そうですね。ギンジローさんは人が良すぎます」



 意外な言葉だったが、怒っているわけではないので話の本質を探る。

朝市の屋台としては売上が良かった。

ただ夏場に氷というありえない物を使って商売をしている事。

しかもそれをタダで野菜売りのお婆さんと、果物売りのエデルに提供している事。



 果物のカット売りのアイディアは斬新で、しかも合理的だが氷ありきの話だ。

もし仮に氷魔法の使い手を雇い、夏場にあれだけの氷を用意するなら大金貨1枚くらいは平気で飛ぶだろう。

そもそも氷魔法の使い手は少ないので、野菜や果物を冷やす為に氷魔法を使ってくれと依頼しても断られると思う。



「氷魔法を使える人って少ないんだ」



 どうやらこのマインツの街で、氷魔法を使えるのはソフィアだけらしい。

意外だったが、ソフィアの事が聞けて嬉しかった。

あれだけ果物が売れたのは銀次郎が用意した氷のおかげであり、エデルが氷を用意したらあの売上でも赤字だ。



 よく分析してんなと思うけど、じゃあ氷が貴重ならかき氷はもっと売れていいはず。

何でかなと聞いたらかき氷なんて食べたことがなく、甘いシロップがかかって美味しいなんてパッと見じゃわからない。

隣に美味しそうな果物が冷やされていれば、そっちに目が行く。



 野菜ステックはかき氷と同じで初見は難しいが、そこは氷水に冷やされたスイカを全面に押し出し、果物屋台と一緒で氷の上にカットしたスイカを乗せてお客様の目線を持ってきた。

スイカに塩をいくらでも振りかけて食べて良いと伝えれば、塩も値段は高いのでお得に感じる。



 もちろんスイカに塩をかけるとあんなに甘くなるなんて知りませんでしたが、奇跡を簡単に実感できたのと説明が簡単なのでクチコミが広がったのだと思います。

そこでお客さんの信頼を得れば、野菜スティックが高価でも食べてみようかと思います。



 そしてあのディップですか?

あれをつけて食べる野菜スティックは格別でした。

きっと明日も売れるでしょう。



 そう考えると、失礼ですが黒目黒髪の男性が氷を売っている姿は変に感じます。

かき氷自体は甘くて冷たくて本当に美味しいのですが、隣に行列が並んでいればお客様はそっちに流れてしまいますね。

かき氷もエデルさんに指示を出した通り、試食をしてもらえば話は変わってきたかもしれません。



 結構なダメ出しだった。

ただ正直に言ってくれたミリアは、信頼出来るとも思う。

かき氷自体は良いので、クチコミは広がっていくはず。

明日は今日より売れると思うので、頑張っていきましょうと励まされた。

ハリーは空になったカップに赤ワインを無言で注いでくれた。

ハリーいいやつだな。



「ミリアが私の担当になってくれたので頑張りますが、かき氷を売っているだけじゃ商業ギルドとミリアに対して貢献はできませんよね?」



 銀次郎は、商業ギルドとミリアの利益をどう生み出そうか考えていた。

この世界に来て知らない事を教えてもらい、銀次郎としては助かっている。

しかし、利益貢献といった意味ではゼロだ。

お菓子や紅茶はあげたけどそれ目当てではないはずだし、それの為にエリートのミリアが担当になるはずもない。

WINーWINの関係にならないとダメだと思う。



 しかしミリアは優しく微笑むだけだった。



「ギンジローさんの扱っている物にはとても興味があります。領主の奥様であるエルザ様が、ギンジローさんを守ろうとしているのも聞きました。エルザ様との間に何があるかは分かりませんが、そこに触れてはいけないと理解しています。利益という部分では今は出ていませんがそこは心配していません。ギルド内での実績は、今度の夏祭りで作りますから。レンニューだけではなく果物を乗せて豪華なかき氷にしても良いですか? エデルさんにもお願いするので」



 エデルも喜ぶ事だろうし、そこはミリアの好きにしてと伝える。

夏祭りでミリアの連れてくるお客さんに販売する特製かき氷は、エルヴィスとマリアさんに作ったスタイルで提供する事に決めた。



「分かりやすい所はこれですね。ギンジローさんは私の想像をすぐに超えてくる。一緒に仕事をすれば私も成長出来るのではという計算ですよ」



 そんなもんなのかな? 多くの利益を出す商会の方がミリアにとって良いかと思ったが違うらしい。

まぁそれだけ自分を評価してくれるなら、ミリアに利益が出るように頑張ろうと決意した。



「商業ギルドは、商会同士の顔繋ぎもします。あのヨーカンをギルドの受付の娘達に分けたんです。そしたら懇意にしている商会に話をして、取引が出来ないか私に持ちかけてくる娘もいたの。その行動はギルド員としては当然の事だけど、私は全てお断りしました」



 そんな事があったんだと思ったが、なんで断ったのか興味が湧いた。



「なんで断ったの? もしミリアが望むならそれくらいできない事はないよ」



 ミリアは姿勢を直してハッキリと言う。



「ギンジロー様に商売をしてもらうなら、本当にやりたい事をやって欲しいんです。お金儲けは生活をしていく上で大切ですが、それが全てではありません。今でもギンジローさんはお金には苦労していないと思います。そんな方に商売を楽しんでもらおうと思ったら、やりたいことをやってもらう。私はそのお手伝いが出来れば良いなって」



 なんか感動した。

そして隣でうなずきながら、お代わりしたハンバーグを美味しそうにたべてる受付の娘を見て、絶対そんなこと考えてないだろと心の中で突っ込む。



「ギンジローちゃん、そろそろあれ出していい?」



 クラーラさんが頃合いを見て、声を掛けてくれた。

お願いしますと伝えると、銀次郎があらかじめ手配していたロールケーキタワーを持ってくる。



「おいおい、なんだあれ」



「甘い香りがするわー」



 食堂にいるお客さんが驚く中、クラーラさんとハンツがテーブルにロールケーキタワーと食器類をセットする。



「デザートのロールケーキタワーです。一口サイズのロールケーキを重ねてタワーにしていますので、見た目もいいですし、果物をたくさん使っているのでいろんな味が楽しめますよ」



 ミリアは目の前のロールケーキタワーを見て、驚いている。

どうしたのって聞いたら、こんなの嬉しいに決まっているって。

食べるのがもったいないけど、食べてみたいという欲望には抗えないらしい。



 受付の娘が早く食べたそうにしていたので、みんなで食べる事にした。



 女性陣は幸せそうに食べている。

量は多かったので、クラーラさんや食堂にいるお客さん達にもお裾分けをした。

目の前にいる受付の娘の手は止まらない。

よくこんな食べれるなと思う銀次郎。

ただ幸せそうな顔を見て癒されているのは確かだ。



「ギンジローさん、ハリーさん素敵な食事とデザートありがとうございました。そしてこれから宜くお願い致します。何かお礼をしたいのですが、お困りの事などないでしょうか?」



 銀次郎は別に困った事はないがこっちの食材でハンバーグを進化させたかったので、新鮮な玉子と牛乳あとはチーズやバターを手に入れる方法を調べて欲しいと伝える。



 そんな事で良ければと、農家から買い付けてもらえる事になった。

マインツ家でも玉子や牛乳はあったので、お金を出せば買えるのだろう。

明日の朝商業ギルドに寄るので、その時にクーラーボックスと牛乳を入れるボトルとお金を渡す約束をした。



 楽しい時間はあっという間に過ぎる。

遅くなってきたので、ハリーが自腹で用意した馬車でミリア達を送ってもらう。

タクシー代わりに馬車を使う考えが銀次郎にはないが、女性受けは良いだろう。



 ハリーの恋がうまくいくことを願いながら、銀次郎はハングリーベアーでワインをもう一杯頼むのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] ハリーの恋を応援したいと本当に、思っているのかな? どうみても主人公の方が、魅力的に他者から見たら映ると思うけど… TPOが弁えられない人なのかな? 頑張って高い馬車を用意してるハリ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ