第三十六話 暑い時に飲む熱いお茶
「ギンジローさん追加の氷と、野菜につけるアレもらえますか?」
野菜屋台のお婆さんとミリアさんは、昨日買ったお客さんがリピーターになり、更には口コミでお客さんを連れてきてくれたおかげで朝からフル回転だ。
商魂逞しいお婆さんは、カットスイカもバンバン売ってる。
まぁこの暑さに冷えたスイカは鉄板だからね〜。
普通のスイカの他に、中身が黄色のスイカを今日は持ってきてた。
どうやら黄色のスイカの方が、甘くて値段も高いらしい。
果物屋台のエデルは今日も絶好調だ。
りんごや洋梨は、一人のお客さんがいくつもたべていくので冷やすのが追いついていない。
高価なマンゴーは、大聖堂の人が気に入って全部買って行っちゃった。
パイナップルの試食販売は、この世界に試食という考えがなく珍しいので多くのお客さんが集まっている。
エデルが言うには前列で説明を聞いてるお客さんより、後ろで冷静に聞いているお客さんの方が買ってくれる事が多いそうだ。
お客さんが集まればたくさん売れるので、りんごと洋梨も試食に出して常に人だかりになっている。
さて肝心のかき氷だが、昨日より売上は伸ばしている。
ただ両隣にお客さんが多いので、真ん中のかき氷屋台は通り過ぎて行ってしまう。
「よぉギンジロー」
エルヴィスが今日も差し入れを持ってきてくれた。
まだお昼には少し早いが、美味しそうな肉串を買ってきてくれた。
エルヴィスありがとう。
隣にいるのは、魔性の魅力を持つマリアさんだ。
胸元には、パワーストーンで出来たネックレスが目立つ。
パワーストーンの種類は違うけど、もしあの花屋の娘と鉢合わせたらどうするんだろう。
自分はそんな事しないけど、もしそんな状況になったらと思うと冷や汗が出てくる。
エルヴィスとマリアさんにかき氷をサービス。
「ギンジローさんこんにちは。またお会いしたかったのよ」
営業スマイルだとは思うのだが、悪い気はしない銀次郎。
「氷を薄く削って甘いシロップをかけるのが普通なんですけど、ちょっと豪華にたべてみますか?」
見た目がゴージャスなマリアさんが来たので、豪華バージョンのかき氷を作る事にした。
アイテムボックスからガラス製の器を取り出し、まずはかき氷を作る。
エデルから買ったマンゴーをかき氷に乗せて、その上に練乳をたっぷりと。
「これだけで美味しいですがもし他に果物が欲しいなら、隣で買って乗っけてみてください。自分だけのオリジナルかき氷が味わえますよ」
喫茶店で使っていたトレーに、かき氷を二つとスプーンを乗せる。
エルヴィスにそのまま渡すと、隣のエデルの屋台で
パイナップルとチェリーをそれぞれトッピングしていた。
なんか商業ギルドの受付の娘、ずっとトッピングしたかき氷見てんな〜
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「全部売れましたね」
お婆さんの野菜スティックは完売したようだ。
エルヴィスからもらった肉串を渡すと、テーブル席に移動するお婆さん。
ずっとお客さんがいて忙しかったから、ゆっくり休んでください。
ミリアさんにもたべます? って聞いたけどかき氷を手伝うと言って隣に立つ。
喉が渇いてると思うので、コーラだけは作って渡した。
「あのディップですか、アレが野菜を美味しくさせますね。昨日食べたというお客さんも、これが良いんだよと言って今日も買われていきました」
確かに味噌&マヨネーズは最強だもんな〜
個人的には七味唐辛子を入れた方が好きだが、説明するのが難しいので黙っとく。
「氷やこちらの道具、そしてその柔軟な考え方が私が出会ってきた方々とは全く違います。ギンジローさんの担当になれて良かったです」
嬉しい事を言ってくれる。
私もミリアさんが担当になってくれて良かったと伝えた。
エルヴィスとマリアさんを見送った後、少し経ったらエデルの果物も完売したのだった。
昨日より多く果物を持ってきて、パイナップルやマンゴーといった高級品もあったのに完売は凄い。
今日の売上は昨日の三倍だったと喜んでた。
あっ、受付の娘が物欲しそうに見てたので、果物トッピングの豪華バージョンかき氷はご馳走したよ。
もちろん練乳たっぷりで。
強気に価格設定したパイナップルとマンゴーも、何の問題もなく完売だった。
数があったら、もっと売れてただろう。
そう考えると、あの娘の値付けは間違っていなかった。
あと意外だったのが、今日の一番人気は葡萄だった事だ。
高いのがパイナップルとマンゴーで銅貨5枚。
葡萄は銅貨2枚、カットしたりんごや洋梨などは銅貨1枚で販売していたので、真ん中の価格帯が売れたのかもしれない。
思ったよりも早く屋台が終わったので、ミリアさん達は商業ギルドに戻る事になった。
日当を渡そうとしたが、受け取ってもらえなかった。
代わりに夕食をご馳走すると誘うと、OKが出たので夜にハングリーベアーで食事をする事になった。
ハリーが凄く喜んでたので、何か進捗があればいいなと願う銀次郎だった。
野菜売りのお婆さんは、息子さんが迎えに来るまでここで待つとの事。
銀次郎はかき氷屋台の売上半分をハリーに渡して、商業ギルドまで二人を送ってとお願いする。
エデルにまた明日と手を振って別れて、銀次郎はお婆さんと二人だけになった。
「いっぱい売れましたね? 明日も屋台出しますか?」
お婆さんの目的はお孫さんの服代を稼ぐ事。
もう十分稼いでいるので聞いてみたが、また明日も野菜を持ってくると意気込んでた。
若い我々と一緒に商売が出来る事が嬉しいそうだ。
じゃあ息子さんが迎えに来るまで、お茶でも一緒に飲んで待ってましょうか。
銀次郎はアイテムボックスから、お茶っ葉と老舗の高級羊羹を取り出す。
カセットコンロでお湯を沸かし、渋茶を淹れた。
「暑い時に飲む熱いお茶はいいんだよな〜」
お茶請け用の羊羹を切って、残ったものはお婆さんにあげる事にした。
今更だが名前を聞いてみたけど、ただの野菜ババァじゃと教えてくれなかった。
さすがに野菜ババァとは呼べないので、お婆さんとこれからも呼ぼう。
さっきまで忙しかったのに、今はゆっくりと時間が流れる。
銀次郎にとってこの時間は幸せな時間だった。