閑話 エデル
木箱を積んだリヤカーを、裏にある倉庫置いて店に戻る。
このマインツの街でも一番大きな果物専門のトーマス商会は、飲食店への配達も多い。
先輩達は配達で出かけていて、店には店主のトーマスさんと奥様しかいなかった。
「エデルお帰り。ちょっと店が忙しいから手伝って」
奥様に言われて、果物を並べる。
常連さんが今日のおすすめを聞くので、今日屋台でよく売れた洋梨を勧めた。
「井戸水で少し冷やしてから食べると、今日みたいな暑い日には美味しいですよ」
いつもだったら、お客さんに聞かれて答えても商品は売れないのに、なぜだか今日はよく売れた。
本当は氷水に冷やしてから食べると、もっと美味しいんだけどな。
りんごや葡萄もよく売れた。
全部井戸水に冷やしてから食べると美味しくなると言っただけなのに、不思議と売れていく。
「今日は忙しかったな。エデルもよくやった。りんごと洋梨は完売だぞ」
店主のトーマスさんが褒めてくれたので、なんだか嬉しかった。
「そういえばエデル、朝市に行って残った果物持ってきなさい。忙しくてすぐに店を手伝わせちゃったから、まだ倉庫でしょう」
奥様は今日の売上を数えながら、エデルに指示を出す。
「奥様、今日持って行った果物は全部売れました」
事実を伝えたのに、奥様は怒らないから正直に言いなさい。
あなたに商売を学ばせたくて、みんなで送り出したのよ。
だから売れなくても良いのよ。
「これ今日の売上です」
お金を全部渡すと奥様は驚いている。
どうしたんだ? と店主のトーマスさんも聞いてきた。
「今日知り合ったギンジローさんっていう、黒目黒髪の不思議な男の人とローブを着た魔法使いのハリーさん、後は野菜売りのお婆さんと一緒に売ったんです」
僕は正直に今日あったことを伝えた。
意味が分からないとみんな言ってる。
果物は多く持って行ったけど、全部売れてもこんなお金には成らないと。
でも僕が嘘をついていないと分かると、奥様は疑ってごめんねと何回も謝ってくれた。
僕だって信じられないことばかりだったから、仕方ないと思う。
明日も屋台に行っていいかと聞いたら、頑張ってと背中を押してくれた。
トーマスさんからお小遣いをもらった。
銀貨1枚の大金でとっても嬉しかった。
このお金でお母さんの為に高級な果物のパイナップルを買いたいって言ったら、タダでもらえた。
パイナップルは仕入れ値が銀貨1枚する高級品なのに、すごく嬉しかった。
トーマスさんに、このパイナップルも明日は持って行っていいか聞いたら悩んでる。
高級品だから、売れなかったら大赤字だもんね。
ダメかなと思ったけど、しっかり売るのよと背中を押してくれた。
奥様ありがとうございます。
僕、明日も頑張ってきますから。
今日は早く家に帰って、お母さんとパイナップルを食べるんだ。
お母さん喜んでくれるといいな。