第三十四話 屋台初日の報告
さて帰るかと思ったがハリーがこっちを見てくる。
「ハリー何かあった?」
「うん。かき氷は少しだけ売れたけど、人の屋台ばっかり手伝ってたから今日全然売れてないよ」
「あっ……」
今日の売り上げは、かき氷十六杯で銅貨48枚だった。
しかもエデルにはコーラ用のレモンをニ個買って銅貨1枚払ったし、あのお婆さんには子供達の野菜代で銀貨1枚払った。
商売は学べたがこれだけじゃ赤字だ。
ネットショップで買ったものとはいえ、氷代もあるしカップなどの備品代もある。
ディップの味噌とマヨネーズ代も考えたら、こりゃ赤字だな。
これに人件費も入れたら商売としては成り立っていない。
野菜スティックやカットフルーツはよく売れたので楽しかったのだが、かき氷屋台を何とかしないとな。
今日の反省点をハリーと話し合いながら、初日の報告をしに商業ギルドに向かう二人だった。
「紅茶を淹れてくれてありがとうございます」
場所は商業ギルド内の別室。
目の前には銀次郎の担当になった、商業ギルドのミリアさんがいる。
紅茶を淹れてくれたのは、この間も会ったカウンター受付の女の子だ。
立ったままこっちを見てなかなか帰らないので、お茶請け用に関西マダムのバウムクーヘンを渡す。
さっきまで無表情だったのに、バウムクーヘンを受け取る時だけ笑顔になった。
商業ギルドの事よく分かってないけど、もしかしたらそういったシステムなのかな?
「本日は、わざわざお越し頂きありがとうございます。所用により行けませんでしたが、明日はお手伝いをさせてもらいます。先程のエミリアと二人で伺いますから」
深くて綺麗なお辞儀をするミリアさん。
うーん、なんとなく気まずい。
隣に座っているハリーは、ミリアに会えて嬉しそうだけど。
さっき出て行った受付の子が、バウムクーヘンを切って持ってきてくれた。
あれ? なんかこの子の口になんかついてるけど……
「良かったら一緒にたべませんか?」
声を掛けるとニヤリと笑う。
なんかちょっとこの子怖いな。
そう感じながら紅茶とバウムクーヘンに手を伸ばす。
紅茶は香りがしっかり出ていて美味しく、バウムクーヘンはしっとりとしている。
この子紅茶を淹れるのは上手だなと思いつつ、ミリアさんの方を見る。
ミリアさんはニコニコしているが、こちらが話し出すのを待っていた。
「今日は初めての屋台出店でしたが、色々と学ぶことが多かったです。屋台仲間も出来て楽しかったですよ。ミリアさん達が明日来てくれるのなら、一つ目の鐘が鳴る頃に商業ギルド前まで迎えに行きますよ」
銀次郎のちっちゃなプライドが、赤字だったと正直に言えないでいた。
「ありがとうございます。銀次郎さんがどのように商売をするのか知っておきたいですし、久しぶりの現場なので楽しみです」
ミリアさんは商業ギルドのエリートだ。
この人が直接きて屋台を見るという事は、明日力量を測られるという事だ。
かき氷は売れると思うが、心配になってきた銀次郎だった。
「ギンジローさん、このバウムクーヘンという物はとても素晴らしいですね。この間のコンペートーもそうですが、こちらを売る事は考えていますか?」
「個人的に売って欲しいと言われたら考えるけど、商売としては今のところ考えていないかな」
ミリアさんに正直に伝えると、それ以上は何にも言ってこなかった。
自分の担当なので、良い関係を築きたいと考えている銀次郎は提案をする。
「ミリアさん良かったらこの紅茶とクッキー、商談で使ってください」
缶に入った紅茶の葉とシュガースティック、そしてお茶請け用のクッキーをテーブルの上に置く。
遠慮されたが強引に受け取ってもらい、これで二杯目の紅茶を淹れてもらう。
砂糖は高価なのにこんなに良いんですかと聞いてきたので、問題ない事を伝えた。
「先ほどから気になっていたのですが、ハリーさんのそれって何ですか?」
眼鏡の事が気になったみたいだ。
目が悪い人がつけるとよく見えるようになると伝えたが、ミリアさんは目が良いのか眼鏡をすると逆に見えなくなると言っていた。
「ハリーさんがカッコ良くなっていたから気になっていたんですよ」
眼鏡が気になっていたのか、カッコ良くなったハリーが気になったのか聞いてみたかったが、たぶん眼鏡だと思うのでやめとく。
「紅茶は足りなくなったら言って下さい。すぐに用意できますので」
そう伝えて商業ギルドを出る二人。
その後はエルヴィスの店に行き、ハリー用のエプロンを受け取った。
追加で二人分のエプロンも作ってもらった。
商業ギルドの二人分だ。
エルヴィスに今日も呑むか? と聞かれたが、今日はいいやと断る。
明日も屋台に顔を出すと言っていたので、エルヴィスとはハグをして別れハングリーベアーに帰るのであった。