第三話 ワイルド金髪イケメンのエルヴィス
PV・ブックマークがこんなに嬉しいものとは思っていませんでした。
皆様ありがとうございます。
ゴーンという鐘の音で目覚めると、すでに陽は高く昇っていた。
昨日は遅くまでエールを呑んだが、異世界に来て若返った事もあり目覚めは良い。
タオルをアイテムボックスから取り出し、庭にある井戸で水浴びをする。
気持ち良い健康的な朝だ。
日本人なのでお風呂に浸かりたい気持ちもあるが、井戸水を使って顔と頭を洗うのがこんなに気持良いとは知らなかった。
髭はいいかなと小さく呟き、タオルをしまって食堂へ向う。
「おはようございます!あなたがギンジローさん?」
急に話しかけられたが、たぶんこの宿の息子さんだろう。
「そうだよ。君の名前は?」
目の前の子供は元気よく、僕はフランツだよと答えてくれた。
宿屋ハングリーベアーの三兄弟の末っ子らしい。
奥さんのクラーラさんがカウンターから出てきた。
「ギンジローさんおはようございます。この時間は空いていますので、テーブル席に座ってください」
どうやら宿のお客さん達の朝は早いみたいだ。
ゆっくりとテーブル席に座り、モーニングを注文する。
昨日のお酒は美味しかったが、貴族っぽい服を着ているとみんなに揶揄われた。
喫茶店の制服は気に入っていたが、せっかくなんで奥さんのクラーラさんにどこで服が売ってるか聞く。
宿を出て目の前の大通りを歩いて行くと噴水広場があり、そこにある仕立て屋さんを紹介してくれた。
朝ごはんを食べた後、さっそく大通りを歩く。
教えてもらった通り、宿を出て真っ直ぐ歩くと噴水のある広場があった。
周りを見渡すとすぐにその店を仕立て屋さんを見つける事が出来た。
店に近づくと、背が高く胸元のボタンがワイルドに開いている金髪イケメンがこっちを見ている。
「ハングリーベアーのクラーラさんから紹介されて来ました。この服しか持っていないので、オススメの服が欲しいのですが」
このワイルド金髪イケメンは、大袈裟に腕を広げ
「オススメでいいのかい?」
爽やかで笑顔が眩しい。
もし銀次郎が女性なら、この笑顔だけで落とされそうだ。
「はい。私は服のセンスがないので」
「その服を着てるやつがセンス悪い訳ないだろう。まぁわかった任せな」
ワイルド金髪イケメンは、メジャーで手や足の長さ、肩幅のサイズを計り、店の奥に消えていく。
少し待たされる形になった銀次郎は、異世界の服に興味津々で店内を見て歩く。
デザインはシンプルだが、良いものだというのは見てわかった。
既製品は少しだけ飾ってあり、後は高そうな布がいくつも巻かれて保管されていた。
ベルトや財布などの小物も置いてある。
しばらく眺めていると、奥からワイルド金髪イケメンがシャツとスラックスを持ってきた。
「クラーラさんの紹介なら下手なものは出せない。かといって、いま着ているような服は値段が高い。だから昔に俺が作った試作品をやるよ」
銀次郎は試着したが、肌触りの良い赤シャツのサイズはピッタリだった。
聞けばレッドスパイダーシルクという魔物の素材を使っているらしい。
ファンタジーな世界だと感じたが、袖を通してみると着心地が良く肌にとても合う。
そして襟は広くてボタンが大きい。
胸元までボタンをしたが、気付かぬうちに目の前のワイルド金髪イケメンに外されていた。
しかも第三ボタンまで。
恐るべき身のこなしというかテクニックだ。
紺色のスラックスの方は、腰回りが少しきつめだが問題ない。
足の長さも奥の作業場で調整してくれたみたいだ。
普段なら絶対に着ないワイルドな服だったが、これも縁だなと思いもらう事にした。
ワイルド金髪イケメンにお金を払おうとしたが、クラーラさんの紹介だし、試作品だからいらないと。
払う、いらない、払う、いらないと何ターンかして、最終的には左の手首に付けていたパワーストーンのブレスレットと物々交換をする事で話がついた。
何度か視線を感じたから、興味があると感じたのだ。
こんな高価なものは受け取れないと言っていたが、日本円で三千円くらいだ。
一度死んでしまった身だし、パワーストーンを手放す良い機会でもあった。
それぞれのパワーストーンの意味と効果を説明し、
お互い満足の交換だったと思う。
今まで着ていた服を、アイテムボックスに入れると目の前のイケメンはびっくりしている。
「マジックバッグを持っているとは珍しいね」
「そうなんですか?」
「商売をやっている奴らにとっては憧れの物だよ」
実際はアイテムボックスなのだが、説明するのが面倒なので、そのままスルーする銀次郎だった。
ワイルド金髪イケメン改めエルヴィスと、大通りから少し入った花屋に入る。
パワーストーンの説明の後、この後時間あるか? と聞かれて現在に至る。
花屋に入ったエルヴィスは、真剣な顔で花を見る。
横でエルヴィスの事を見てみたが、イケメンは何をやってもイケメンだ。
花屋の娘に顔を向けると、頬がほんのり赤く染まっている。
もちろん俺の事は見ていない。
エルヴィスは花屋の娘に近づき、耳元で囁くように花の注文をした。
銀貨2枚を娘に渡してしばらく待っていると、娘が花束を持ってくる。
白いユリが際立つように作られた花束と、赤い薔薇が一輪。
それを受け取ると、エルヴィスは赤い薔薇一輪を目の前の娘に渡す。
すると花屋の娘の顔が一気に花咲いた。
「君の笑顔には勝てないが、綺麗な花を渡すよ。花束を包んでくれてありがとう。気に入ったからまた頼みに来るよ」
そう伝えるとそのまま花屋を出るエルヴィス。
イケメンのやり口はいつも汚い。
そう思いながら、銀次郎も花屋を出るのであった。
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まだ昼間なので営業時間外だが、豪華な建物の酒場に入る。
ここは裕福な層のお客様がお酒を嗜む場らしい。
銀座のクラブみたいなものかな? 行った事ないけど。
エルヴィスは目の前にいる魔性の魅力溢れ出る女性にハグをしてから、白いユリの花束を渡す。
「麗しのマリア。君にピッタリな花を見つけたから持ってきたよ」
何だこれ? と銀次郎はその場を見ていると
「素敵ねエルヴィス。とっても嬉しい。お花は一番目立つところに飾らせてもらうわ。ユリの花に合うドレスをこの後探さなくちゃ」
「マリア、僕も嬉しいよ。キミに会えて」
イケメンと美女の絵は、見ているだけで飽きないが意味は全く分からない。
「エルヴィス、後ろの方はどなた?」
魔性の魅力溢れるマリアさんがこっちを見る。
「今日出会ったギンジローだよ。何だか気が合いそうなんだ」
「あらそうなの? 嫉妬しちゃうわ。ギンジローさんこれから宜しくね」
深々とお辞儀をするマリアさんの胸元に一瞬目が奪われそうになったが、必死に別の場所を見てお辞儀を返す銀次郎。
「うふふ。ギンジローさんは紳士なのね。その魅力的な瞳で見つめられたら、女性はすぐにとろけちゃうわ」
女性=マリアさんではない他の女性。
そうは分かっていても、嬉しいものは嬉しいのである。
その後たわいも無い話をして、エルヴィスはマリアさんからドレスを受け取った。
細かな傷を直したり、ほつれなどのメンテナンスをするようだ。
ギンジローのお仕事はというと、エルヴィスから受け取ったドレスを、マジックバッグ(本当はアイテムボックス)に仕舞い持ち運びをするだけの簡単なお仕事だった。