第三十二話 屋台出店
「行って来まーす!」
モーニングをたべた後、ハリーと二人で朝市の会場に向かう。
一つ目の鐘が鳴る前だったが、すでに様々な屋台が並んでいる。
「このあたりが飲食スペースだから、空いてるところを探そう」
なんか混んでるな〜。
人がたくさん居る事は良い事だが、出店する屋台の数も多い。
大聖堂前広場の一番奥にある人通りの少ない場所にスペースを見つけたので、ハリーと話し合いこの場所に出店する事にした。
「今は夏祭り前で旅行者も多い。その分屋台の数も多いし常連じゃないと良い場所は取れないからしょうがないよ」
確かにハリーの言う通りである。
お隣さんを見ると、野菜を販売している老婆が暇そうに欠伸をしている。
右隣の屋台は少年が果物の入った木箱を取り出している。
ぼちぼち始めるとしますか。
銀次郎はアイテムボックスから屋台を取り出し、店の前には長テーブルと椅子大きなゴミ箱をセットする。
「随分大きな荷物が入っているんだねぇ。良いマジックバッグで羨ましい。」
野菜屋台のお婆さんが、暇つぶしなのか話しかけてきた。
「最近マインツの街に来たんですが、今日から屋台を出店しようかと思って。お婆さんは野菜屋台ですか?」
「そうじゃよ。息子と畑をやっててね。孫に服を買わせたくて屋台をやってみたんじゃが商売は難しいね」
お婆さんは椅子にちょこんと座りながら、困った顔をしている。
人参にじゃがいも、大根、かぼちゃ、スイカにきゅうりと今朝採れたての野菜が並んでいる。
おいしそうですねと言うと、にんじんを一本くれた。
ナイフで皮を取り、齧ってみるとすごく甘かった。
「これすごく甘くておいしいですね」
素直に伝えると野菜を育てるのは得意だが、美味しい野菜を作っても買取価格は一緒だし、形や大きさが揃っていないと安く買い叩かれるらしい。
「お前さん達は何を売るんじゃ?」
お婆さんに聞かれたが、説明が難しいので人参のお礼にかき氷を用意する事にした。
板氷を出しかき氷機でシャリシャリ削っていると、隣の果物屋台の少年が興味津々だったので、せっかくの縁だから作ってあげる事にした。
「この氷を削ったものにシロップをかけてたべるんですけど、何味がいいですか? いちご味、メロン味、あとは普通のシロップがあります」
銀次郎が好きな味はブルーハワイなのだが、何味と聞かれた時にうまく答えられなかった。
異世界にハワイはないからね。
ブルーハワイが、ハワイ味なのかどうかもよく分からないけど。
「私はそのいちご味をもらおうかな」
「僕はメロン!」
二人にそれぞれシロップをかけて、かき氷を渡す。
まるで貴族様になったみたいじゃと言って、かき氷を食べるお婆さん。
果物屋の少年もおいしいと連呼し、こんな贅沢で甘いものをご馳走してくれたからとりんごを一個くれた。
〜1時間後〜
「暇ですね〜」
意気込んでかき氷屋台を出したが、全く売れない。
一度たべてくれれば味は保証できるのだが、人通りが少なく立ち止まった方も首を傾げて通り過ぎてしまう。
右隣の果物屋の少年は、大声を出して呼び込みをしているがあまり売れていない。
暑くて喉が渇いたので、果物屋の少年からレモンを買って、レモン入りのコーラを作る。
やっぱりこれだよな〜と思っていると、果物屋の少年がチラチラとこっちを見る。
せっかくなんでコーラをご馳走すると、左隣の野菜屋台のお婆さんも欲しいと言うので作った。
「しゅわしゅわで甘くて美味しいね」
お婆さんはコーラが気に入ってくれたみたいだ。
果物屋の少年も美味しいと言ってくれる。
たまたま通りかかった男性が、それを飲んでみたいと言ってきた。
売り物じゃないので断ろうかと思ったけど、なんだか愛嬌のある人だったしタイミングも良かったからご馳走する事にした。
「そこで座って飲んでいってください。屋根もあるので涼めますよ。飲み終わったらそこのゴミ箱に捨てちゃってくださいね」
そう伝えると、男性は嬉しそうだった。
果物屋台の少年はありがとうございましたと、銀次郎とハリーにお礼を言ってくる。
いい子だし暇だったので話を聞いてみると、果物屋で修行中で今日は店主に商売を学ぶ為に屋台で売って来いと言われたそうだ。
お母さんに美味しい果物を食べさせてあげたいので、果物屋さんで働き始めたと聞いた時は銀次郎もハリーも涙が出そうになった。
名前はエデルと言うらしい。がんばれエデル!
しばらくすると、先程の男性がコーラを飲み終えてこっちに来る。
「あの飲み物は本当に売り物ではないのかい?」
コーラを気に入ってくれたみたいだが、こっちはかき氷屋台だ。
売り物ではないと伝えると、君は何を売っているんだ? とグイグイきた。
なんだ? と思ったが、かき氷という食べ物を売っていると伝えると、それはどんなものでいくらするかを聞かれる。
ハリーと目を合わせてどうしようと考えていると、お婆さんが美味しいから注文したらどうだと男性に言ってくれる。
銅貨3枚だと伝えるとかき氷を注文してくれたので、お金を受け取りアイテムボックスから板氷を取り出してかき氷機にセットする。
ハリーが氷を削ると、男性は「おぉ」と声をあげる。
「シロップは、いちご、メロン、あとは普通のがありますけど、どれにしますか?」
男性はメロン味を選んだので、シロップをかけて提供する。
男性はその場で一口食べ、これは美味しいと言ってくれた。
やっとかき氷が売れたので、ハリーと喜ぶ。
「この屋台は何を売っているのか分からなかった。氷は珍しいので見せておいた方が良い。値段も分かるように書いておいた方が良い」
男性にアドバイスをされてハッとした。
確かに値段がわからない。
かき氷の看板は置いてあるが、日本語なのでこっちの人は読めないし。
氷もお客さんがいないので、溶けるのを防ぐ為にアイテムボックスに入れていた。
これじゃ目の前を通ったお客さんが、首を傾げて通り過ぎるのも分かる。
商売は難しいが、だからこそ楽しい。
男性のお客さんにお礼を言って、氷と値段を見える等にセットし直す銀次郎とハリーだった。