第三十一話 ソーセージとエール
今日は色々あったけどエルヴィスに会いたくなった銀次郎は、噴水前公園で馬車を降ろしてもらう。
「セバスチャンありがとう。明日、孤児院の子供達を連れてきてくださいね。みんなにかき氷をご馳走するので」
セバスチャンと握手をして別れ、そのまま噴水広場に面した場所にあるエルヴィスの店に行く。
「よぉギンジロー、元気だったか?」
店に入るとワイルド金髪イケメンのエルヴィスが、熱烈なハグをしてくる。
「ちょっと報告というか相談というか、後は文句もあって来た」
文句とは物騒だなと言い、ヤレヤレと両手をあげるイケメン。
何やっても様になるなと思いながら笑うと、エルヴィスのお父さんも笑っていた。
「親父もう上がっていいか?」
お父さんからOK出たので、エルヴィスと外に繰り出す。
まだ明るいので、エルヴィスを見つけた女性達はチラチラ見てくる。
イケメンはやっぱり敵だと思いつつ、ハングリーベアーに着いた。
「おかえりーギンジローちゃん、あとエルヴィスちゃんもおかえりー」
クラーラさんに癒されてから、奥のカウンター席に座る。
フランツが注文を取りに来たので、まずはエールを注文する。
バーニーさんには、マインツ家料理長のオリバーから貰ったソーセージを茹でてもらう様お願いした。
ソーセージは焼いても美味しいが、銀次郎は茹でた方が好みだ。
アイテムボックスから粒マスタードを取り出し、本日のエールに合うおつまみ第一位の登場を待つ。
バーニーさんはオリバーの事を知っており、ごく稀にだがハングリーベアーにエールを呑みにくる時があるみたいだ。
銀貨1枚をフランツに渡すとすぐにエールを持って来てくれた。
「プロージット!」
木のカップをぶち当てて乾杯する二人。
「で、今日はどうしたんだ?」
エールを飲み干した後お代わりを注文し、銀貨を親指ではじいてフランツに支払うエルヴィス。
夏祭りに屋台を出店する事と、明日から朝市で屋台を試す事を話す。
エルヴィスは面白そうだと笑ってくれる。
マリアさんと花屋の娘がつけてるネックレスの件も話そうとしたが、急に野暮だなと感じたのでその件はスルーする事にした。
エルヴィスは明日朝市に顔を出すと言っていたし、ハートマン親方の事を知っていた。
親方は気難しいが腕は超一流で、この国の人間国宝にも選ばれた有名人らしい。
人間国宝ってすごいなと思ったが、よく考えたら酒呑みの普段は無愛想なおっさんだ。
人の楽しみにしていた生ハムは奪い取るし、工房の入り口で呼んでも絶対に出てこないし、親方が人間国宝って言われてもピンと来ない銀次郎だった。
そんな有名人に、ゴミ箱やテーブルを作ってもらったって言ったらエルヴィスには本気で笑われたよ。
親方も酒好きだし、今度一緒に呑もうと伝える。
「ギンジローちゃんお待たせー」
皿に乗った二本の立派なソーセージ。
もちろんエルヴィスの皿もある。
「これつけてみなよ」
エルヴィスに粒マスタードをすすめる。
ナイフとフォークでソーセージを切り分け、粒マスタードをつけてから口の中へ。
エルヴィスの優雅な仕草を横目で見ながら、銀次郎はフォークでソーセージをぶっさす。
粒マスタードをワンタッチして、肉汁溢れるソーセージをガブリ。
熱くてジューシーな肉汁を堪能した後、エールで口の中の脂分を一気に流す。
「はっギンジローすげーな。周りを見てみろよ。みんなオマエの美味そうにソーセージを食べる姿見てヨダレ流してるぞ」
エルヴィスがギンジローの背中を叩く。
「もらったソーセージ悪いんだけど、お客さんが食べたいって言うから出しても良い?」
クラーラさんから申し出があったが、さっき渡したのはバーニーさん家族と自分達の分だけだ。
食堂内の冒険者達の胃袋を満たす分はない。
ギンジローはアイテムボックスから追加のソーセージを取り出し渡す。
「これと粒マスタード使って儲けちゃって下さい。お代はエール二杯分で良いですよ」
「ありがと〜ギンジローちゃん。助かるわぁ」
その後は追加のソーセージを更に出し、この日もエールが飛ぶ様に売れたハングリーベアーだった。