第二十六話 金平糖
「こんにちは。執事のセバスチャンさんを呼んでもらえますか?」
門番さんに声を掛ける銀次郎。
銀次郎の顔は覚えているみたいで難なく話は進む。
しばらく待っていると執事のセバスチャンとメイドのアメリー、そしてソフィアが馬車に乗って門まで迎えに来てくれた。
「ギンジロー連絡ないから心配してたのよ。隣の方はハリーさんですね」
丁寧に挨拶をするソフィアに少し驚く銀次郎。
ハリーは男爵家の三男で貴族だが、ソフィアと接点があるようには思えなかった。
ハリーからも馬車の中でそんな話は出なかった。
「ハリーの事知ってるの?」
ソフィアに聞くと王都の同じ学校に通っていて、ハリーは首席で卒業した実力で有名だとの事。
意外な事実を聞き驚きは隠せないが、話を進める事にする。
「今日は商業ギルドに行って、こちらのミリアさんに夏祭りで屋台を出店する事と今後の事で相談をしました。マインツ家でお世話になっているって伝えたら、確認する事があるらしいのでそのまま連れてきちゃいました」
するとセバスチャンは段取りを組んでくれる。
「それでは事務的な事は私が伺いましょう。ギンジロー様はソフィア様とお茶を飲んでお待ちください」
よく分からないが、セバスチャンが動いてくれるなら問題ない。
ハリーとミリアさんと別れ、ソフィアとお茶をする事にした。
「この間はありがとね。孤児院のみんなもまたギンジローに会いたいって言ってたよ」
孤児院ではコーラが人気だった。
あの時は冷えていないコーラを出したけど、今日の朝みたいに氷を用意すれば本当のコーラを飲んでもらえるなと考える。
今日あったハングリーベアーでの出来事をソフィアに話すと
「朝からエールを飲むなんて面白いね。ギンジローもお酒は飲むの?」
紅茶やコーヒーを故郷では扱っていたが、お酒も扱っていた事を伝える。
どんなお酒なのかソフィアは飲んでみたいと言うので未成年はダメでしょと言ったが、この世界では15歳からお酒は飲めるらしい。
そしてソフィアは十六歳なのでたまにお酒は飲んでいて、蜂蜜酒みたいな甘いお酒が好きだそうだ。
「お母さんもギンジローに会いたいと言ってたよ」
「エルザ様に宜しくお伝え下さい」
当たり障りのない言葉でお茶を濁そうとすると部屋の扉が開いた。
メイド長のコーエンさんとその後ろには、虎…… ではなくエルザ様のお姿が。
「ギンジローさん、今日はどうしたのかしら?」
お化粧の効果なのかエルザ様のお肌はとても艶々で、ブロンドの髪も輝いて見える。
「今日は商業ギルドに行って夏祭り屋台の話と、マインツ家で商売をさせてもらったという話をしました。いま商業ギルドのミリアさんと友人のハリーが、セバスチャンと話をしていると思います」
「そうなのね。商売の事ってどこまで言いました?」
いくつかの商品を売った事は言ったが、個人情報が伝わらないように誰に何を売ったかは伝えていない。
エルザさんはそれが正解ねと言い、ミリアさんに話があるといって部屋を出て行ってしまった。
その後は紅茶を淹れ直し、ソフィアと最近あった事を話した。
親友ができて一緒に演奏をした事や、その親友は女性にモテるという事。
親友にあげたパワーストーンのブレスレットが、一石のネックレスになって、いつの間にか女性が身に付けていた事。
もしこの女性達が鉢合わせたら修羅場になるだろうと話をすると、ソフィアはそれは大変な事になると思うと笑っていた。
「今日はありがとうございました。この後上司と相談をさせてもらいますが、おそらく私がギンジローさんの担当になると思います。正式に決まりましたらお伝えしますので宜しくお願い致します」
セバスチャンに馬車で送られて、商業ギルドの前で降りるミリアさん。
銀次郎とハリーはミリアさんに手を振って別れる。
「どんな話をしたの?」
ミリアがいなくなったのでセバスチャンに聞く。
「ギンジロー様はマインツ家にとって大事な方だという事。
ギンジロー様が商会を立ち上げるなら、全面的にバックアップする事。
もしギンジロー様が望むなら、商会に関する全てのお金はマインツ家で用意するという事を伝えさせてもらいました。
その後奥様が部屋に来て、ギンジロー様は大事なお客様であり、情報を漏らすことはマインツ家を敵に回すのと同じ事とおっしゃっていました」
セバスチャンの話を聞いて大事になったと思いながら馬車に揺られていると、宿屋ハングリーベアーに着く。
セバスチャンと挨拶をして馬車を降りると、夕方だったがハングリーベアーは妙に静かだった。
受付にいたクラーラさんに聞くと朝から飲んでいた冒険者達はさっきまで飲み続けて、今は部屋で寝ているらしい。
ふらっと立ち寄ってかき氷エールを飲んでいた冒険者達も、そのまま泊まる事になって部屋が満室だという事も教えてくれた。
モーニングとしては過去最大の売上だったが、息子さん達は疲れて部屋で休んでいる。
冒険者達も寝ているので、たぶん夜は暇になりそうだとの事だった。
板氷の代金を支払うと言われたがいらないと伝える。
クラーラさんも疲れていて、かき氷エールはもういいかなって言ってた。
冒険者達がこれからも朝エールを呑んで休むようになったら、色々と不味いと思うので賛成する。
かき氷機を回収し一度部屋に戻る。
ハリーには後で部屋に行くから一緒に夕ご飯をたべようと約束した。
銀次郎はスキルのネットショップを開く。
まず野良猫のアオ用に、焼津産カツオを使用した高級猫缶を購入。
フタを開けてアイテムボックスに入れると、すぐに一個減った。
アオが美味しそうに、猫缶を食べている姿をイメージしてにっこりする銀次郎。
次に最近よく使う、老舗の高級羊羹を仕入れとく。
定番の二本セットを大量購入。
一セット銀貨7枚もするので結構な買い物になったが、必要経費と割り切る。
エルヴィスのお母さんも好きだからな。
次は親方が大好きなウイスキーだ。
亀甲カットのボトルが有名な、日本のウイスキーをまとめ買いだ。
この前たべちゃった生ハムの原木は……
36ヶ月熟成なんて日本ではたべれなかったし、異世界で頑張っている自分へのご褒美でポチっちゃおう。
せっかくだから鮭とばも行っちゃえ。
鮭とば界のスーパースター、とば二郎ブランドをまとめて購入。
これを少し炙ってからたべるとお酒が進むんだよな〜
後は業務用のネットショップでかき氷屋台で必要なものを次々購入。
そういえば商業ギルドへの付け届けも必要かな。
この間買った関西マダムのバウムクーヘンはまだ少しあるけど、これはエルザ様をイメージした物だし他に何か無いかな?
あなたにおすすめの商品を流していくと、カラフルな星型の金平糖が入った小瓶を発見。
キラキラしていて綺麗だなぁ。
和紙で包装されるので、ちょっとしたプレゼントにも良いかも。
金平糖をポチると、あなたにおすすめ商品としてロイヤルブルーサファイアのネックレスが出てきた。
金平糖となんか関連あるのかな?
ロイヤルブルーサファイアのネックレスを眺めていると、さっきまで一緒だったソフィアの瞳と同じ色をしている事に気づく。
お値段は桁違いだったが、今までもらったお金や宿代を考えたらお礼をするのが筋だ。
高額商品を思い切って購入する。
その後最新の化粧品を見たが、エルザ様とコーエンさんがこっちを見ているようで、慌ててネットショップの画面を閉じる銀次郎だった。
「トントントン」
部屋の扉がノックされ扉を開けると、待ちくたびれて呼びに来たハリーの姿があった。
「ごめん」
ハリーは気にしていないと言い二人で食堂に向かう。
食堂はお客さんがいない。
「良かったらこれたべませんか?」
そう言ってさっき購入した金平糖を、少し疲れ気味のクラーラさんに手渡す。
「ギンジローちゃん嬉しいわ。こんな綺麗なガラス瓶に入っていて、これ高い物なんじゃないの?」
袋を開け、ガラス瓶の中に入っているカラフルな金平糖を見つめるクラーラさん。
砂糖菓子なので甘いから疲れも取れますよと伝えると、バーニーさんの肩がピクッと動く。
熊の様に身体が大きくて見た目は怖そうなバーニーさんだが、蜂蜜が好きで可愛いところがある。
砂糖菓子で甘いと言ったら、興味を示したんだろう。
「バーニーさんの分もありますよ」
そう言ってカウンターに金平糖を置く。
隣に座ったハリーも金平糖に興味を示していたので、ハリーにもあげるよといって金平糖を渡す。
「キラキラしていて食べるのもったいないかも」
そんなことを言いながら、瓶の中に入っていた金平糖を一粒出して、口の中に入れるハリー。
「甘い…… お母さんにも食べさせてあげたい」
ハリーはお母さん思いのいい奴だなと思い、それならもう一個あげるよと伝えるとハリーは凄く驚いていた。
「このコンペイトーってのがいくらか分からないけど、大金貨1枚払っても買いたい人はいると思う」
大金貨1枚って日本円だと十万円だ。
故郷ではそんな高い物じゃないよと伝えるが、それはおかしいとハリーに反論される。
クラーラさんは、貴族や一流の冒険者ならそのくらい普通に出すかもねと微笑む。
嘘でしょと銀次郎がバーニーさんを見ると、黙って頷いたので本当らしい。