第二十五話 商業ギルドのミリア
扉を開けて、商業ギルドに入る銀次郎と魔法使いのハリー。
建物の中は銀行の様な作りで、受付カウンターがいくつも並んでいた。
商業ギルドというだけあって、商人達が商談をしたり、商品を収めたりしている。
ハリーはこっちだよと言って、離れた場所にある専用スペースに向かう。
「お…… お元気ですか? ミリアさん」
えっ急にどうしたのと思いハリーを見ると、顔が真っ赤だった。
気の良い青年だと思っていたが、女性には疎いらしい。
ミリアと呼ばれた商業ギルドの女性は小柄で可愛らしく、そして顔に似合わない立派な武器をお持ちの方だった。
受付の女性達は制服を着ているが、ミリアさんはスーツを着ている。
「元気ですよハリーさん。今日はどうしたのかしら?」
立ち上がりお辞儀をするミリアさん。
ハリーの幸せそうな顔と笑顔を見るに、ミリアさんの事が好きなんだと思う。
相談と挨拶そして女性と言ったら甘い物なので、老舗の高級羊羹をアイテムボックスから取り出しハリーに渡した。
ハリーは何だか分からず混乱していたが、とにかく渡してと合図しミリアさんに受け取ってもらう。
「これは何かしら? 嬉しいです。ありがとうございます」
完全なる営業スマイルだが、悪い気はしない。
可愛いは正義なのである。
「銀次郎と申します。夏祭りでの屋台出店に関して教えてもらいたくて、ハリーさんにお願いして商業ギルドに連れてきてもらいました」
好きな娘の前でカッコつけさせようと、ハリーに連れてきてもらった事にする。
魔法を教えてもらう約束をしたので、このくらいはサービスだ。
せっかくだから、別室で羊羹を頂きながら紅茶を飲んで話をしましょうという事になったので、ミリアさんの後ろをついて行く二人。
何だか良い匂いがする。
そう思って隣を見ると、ハリーは手と足が一緒に出ながら歩いていて笑いそうになった。
心の中で頑張れと思いながら部屋まで案内された。
「お座りになってお待ちください。頂いたお菓子と紅茶を用意しますね」
そう言って笑顔のミリアさんに、銀次郎は緑茶の葉を渡しこれでお茶を作って欲しいと伝える。
「故郷で人気のお茶で羊羹によく合います。ちょっと渋めですが、その分羊羹の甘さが際立って美味しくなりますよ」
見た目は可愛らしいミリアさんだが、商業ギルドでもそれなりの位置にいる方だと思う。
知らない事に対して貪欲に食いついてきた。
「それは楽しみですね。少しお待ち下さい」
そう言って部屋を離れるミリア。
「もしかしてだけど、ハリーってミリアさんのこと好き?」
聞かなくてもわかるが、一応確認する銀次郎。
隣に座るハリーの顔が更に赤くなったので、間違い無いと思う。
「うん…… ミリアさんは素敵な人だと思ってる。たまに薬草採取の依頼をされるので、その期待に応えてきた。好きだけど、これが恋かどうかは分からない……」
それは間違いなく恋だよと言い掛けたが、応援するとだけ伝えて、緑茶を入れる準備をした。
「お待たせ致しました。この部屋暑かったかしら窓を開けて風を入れますね」
銀次郎はミリアさんが窓を開けている間に、持ってきてもらったお湯を使い緑茶を淹れる。
勢いよく風が入ってきて、髪を抑えるミリア。
そんな仕草にますます顔が赤くなったハリーをスルーして話しを進める。
「お茶とお菓子ありがとうございます。では話を聞かせてもらえますでしょうか?」
銀次郎は久しぶりに緑茶の口にして、喉を潤してから話を始める。
今回の話は二つあります。
一つ目は今度の夏祭りで屋台を出店したい事。
二つ目はこの街で商売を始めたいと思っているので、どうすれば良いのか聞きたいという事を伝える。
「夏祭りの屋台に関しては、事前に申請さえすれば夏祭りの前日、当日は無料で出店可能です。街全体で夏祭りを楽しむ為、家の前で屋台を出す方が多いですね。ただそれ以外の日に関しては、朝市専用の広場のみ屋台出店は可能で、出店料は一日銀貨1枚となっています」
どうやら意外と簡単に出店できるらしいので、そのまま申請をする事にした。
揉め事は起こさない事と、もし何かあっても責任は自分達で取るという事。
説明を受けて商業ギルドにお金を払う。
屋台のお金は前払いしておく。
ある程度の話は終わったが、隣にいるハリーは緊張しっぱなしだ。
もちろん目の前の女性にだが、銀次郎も最初に緑茶に口をつけた後は聞いてばかりだった。
「すみません。話に夢中で忘れていました。良かったら羊羹をたべて下さい。豆を甘く煮て固めた物ですが、塩も使っているので夏の暑い日にたべると、汗で失われた成分を補う効果もあり良いんですよ。こちらのお茶は緑茶と言って、渋いのですが暑い日に熱いものを飲むと、身体にも良いと言われています」
するとミリアは、羊羹を切っている時にギルド員の女の子達と一口味見をした事。
甘くてこんな美味しいものは初めてで、女の子達が騒いで、部屋に行きたいと言われたが断った事。
羊羹は2本入っていたが、1本はみんなにあげた事を笑顔で教えてくれた。
「このお茶とも合いますね。とっても美味しいです」
そう言って髪を耳にかけるミリア。
破壊力満点の可愛らしさで、これが自然と出来るのならハリーの敵は多いかもしれないと心配する銀次郎だった。
「二つ目は商売の事です。この街に来てマインツ家にお世話になっています。お茶会の段取りをしたり、いくつかの商品を個人的に売りました。税金はマインツ家で払ってくれたらしいのですが、今後どうしていけば分からなくて」
少し考えるミリア。
「マインツ伯爵家ですか…… この件に関しては少しお時間を頂けますか?」
商業ギルドは独立した組織だが、マインツ伯爵家の話となれば慎重に進めざるを得ない。
ミリアが確認してくれる事になった。
「もしこの後お時間があるのなら今から行きますか? いつでも来て良いと言われているので、今から行けば話が早いですよ」
隣に座っているハリーが、何言ってんだといった感じで見ているが事実だ。
「私は自由に動く事を許されていますので問題ないですが、先触れもなく伯爵家へ行くのですか?」
心配そうにミリアさんが聞いてきたので、大丈夫ですと答えた。
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