第二十一話 ネギ塩牛タン
クレイジーなソルトと蜂蜜を売ってくれないかと、遅めのモーニングの時にバーニーさんが言ってきた。
こっちとしては無料でいいんだけど、バーニーさんがお金は払うと引かなかったので、クレイジーなソルトと蜂蜜をお手頃な価格で売る事にした。
そっちの方がバーニーさんも気が楽でしょ。
「ギンジローちゃん助かるわ〜」
今日もクラーラさんの笑顔に癒される。
蜂蜜のボトルを場所代として一本渡し、厨房を借りる事にした。
「こっちがお金を払わないといけないのに〜」
クラーラさんはそう言うが、銀次郎にとってこの賄いを作る時間は楽しい時間だ。
「今日作るのはネギ塩牛タンです。私の故郷では人気の料理なんですよ」
まずはネギを大量にみじん切りにする。
そこにすり潰したニンニクを少し入れて、クレイジーなソルトを振りかける。
隠し味に蜂蜜を少しだけ投入し、コクと深みを出した。
あとはゴマ油を入れたいけど、異世界には無かったので植物油で代用。
レモンを絞って混ぜるとネギ塩ダレの完成だ。
次は肉屋で買った牛タンをアイテムボックスから取り出し肉磨きをする。
初めてだったので中々うまくいかなかったが、バーニーさんが手伝ってくれて何とか出来た。
牛タンは本能の赴くまま厚切りにする。
日本に居た時には絶対に出来ない贅沢に、銀次郎は幸せを感じた。
オーブンの火が残っているので厚切りの牛タンを入れる。
牛タンが焼けるまでの間、ルッツとハンツと一緒にスープやサラダの準備した。
しばらくして牛タンが焼けたので、お皿に綺麗に並べる。
その上からネギ塩ダレを大量に乗っけてネギ塩牛タンの完成だ。
「牛の舌って食べた事がないわね〜」
クラーラさんは牛タンのおいしさをまだ知らない。
厚切りのネギ塩牛タンを口の中に入れると、柔らかくてとってもジューシーだった。
焼肉屋さんでしかたべた事なかったけど、意外と簡単に作る事ができた。
「ギンジローさんこれ美味しいね」
長男のルッツも気に入ってくれたようだ。
バーニーさんはお店で出すか考えている。
「エールとの相性も良いので売れると思いますよ」
バーニーさんはいつも仕入れてる肉屋さんに、牛の舌を注文出来るか聞いてみるって言ってた。
このネギ塩ダレは他のお肉にも合うので、いろいろ試してみて下さいと提案する。
みんなと話をして面白かったのが、銀次郎は厚切りだと思っていたが、異世界では塊肉で焼くのが普通なので厚切りではないらしい。
そもそも肉をスライスする事も無いので、不思議な見た目なんだそうだ。
あと牛の舌がこんなに美味しいとは知らなかったと言ってた。
お腹いっぱいになったので食後の紅茶を淹れる。
もちろんバーニーさんには蜂蜜をたっぷりと。
次男のハンツと三男のフランツはコーラだ。
長男のルッツは、ハンツとフランツを見ていたが紅茶が良いらしい。
楽しくて優雅な時間を過ごし、みんなで片付けをした後は散歩をする事にした。
今日も特に予定はないので、屋台でリンゴを買ってたべながら歩く。
するとマニーさんの楽器店近くに来たので寄ってみる事にした。
「マニーさんこんにちは。この間は楽しかったですね」
「ギンジロー、今日はどうした?」
特に用事はなかったが、マニーさんも暇だったみたいで話に付き合ってくれた。
「ギンジローってどっかの貴族か?」
マニーさんが急にそんな事を聞いてきた。
「私が貴族に見えます? 故郷で商売はやっていましたけど貴族とは無縁でしたよ。独身なんで既婚者よりはお金が使えたから独身貴族と言われた事はありますけど」
銀次郎は少しボケてみたが、独身の貴族はこの世界ではあまりいない。
妾や愛人がいるのも不思議ではなく、独身貴族なんて面白いなと笑われてしまった。
「また演奏しよう。あとエルヴィスを頼むな。あいつがあんなに気を許すなんて珍しいから」
銀次郎は不思議に思った。
エルヴィスは明るくて誰にでも優しい。
すぐに仲良くなったが、それはエルヴィスがフレンドリーだったからだと思う。
まぁいっかと銀次郎はその事をスルーしてマニーさんと別れる。
しばらく歩いていると、前に入った花屋さんを見つけた。
店に入るとこの前の綺麗な女性が挨拶をしてきたが、その胸元には見覚えのあるパワーストーンが一つのネックレスが付けられていた。
マリアさんとは違う石で出来たネックレスを見ると、その視線に気づいた花屋の娘さんが幸せそうに微笑む。
知ってはいけない? 秘密を知ってしまった銀次郎は、適当に花を買ってその場を逃げるように離れたのであった。