第十八話 記憶がない
「ギンジローちゃんおはよー。昨日は楽しかったねー」
昨日は楽しかった? 親方と呑んで…… あぁ昨日どうやって部屋に戻ったか覚えてないや。
酒癖は悪くないと思うが、粗相がなかったかクラーラさんに確認する。
「お酒を呑み過ぎて昨日の記憶が飛んじゃってるんですが、ご迷惑を掛けていませんか?」
するとクラーラさんは、申し訳なさそうにこっちを見てくる。
「いつから記憶ないの? あんなに楽しかったのに。ギンジローちゃん自分のお酒何本も出して、みんなにご馳走していたけどそれも覚えてないんだ。あのお酒ってとっても高いんじゃないの? 他のお客さんの分のお金も払ってたし、酔っ払ってるなとは思ったけど、そこまでだとは思わなかったわ」
お金やお酒は自分自身の事だから大丈夫。
とにかくお店や周りに迷惑を掛けていなかった様で少し安心する。
バーニーさんに特製スープを作ってもらい、食堂でゆっくりするが、昨日の事は思い出せない。
どんな事があったか聞くと、銀次郎がお金を出して宿泊客にハンバーグをご馳走していたらしい。
お酒って怖いな……
賄いの時間になり、ハンツとフランツがコーラをせがむので一緒に飲んだ。
二人はご満悦の表情だが、長男のルッツはコーラを飲まなかった。
ハングリーベアーを出て、今日もエルヴィスの店に行こうか迷ったが、夏祭りの屋台を何にするか決めていないので、散歩しながら考える事にした。
「ギンジロー何やってるの?」
振り向くと豪華な馬車から、ソフィアが顔を出す。
こんなところになぜと思ったが、話を聞くとこれから孤児院に行ってボランティアをするらしい。
一緒に行こうと誘ってくれたので、銀次郎もボランティアに行く事にした。
着いたのは街外れの孤児院。
馬車が停まると、孤児院からシスターらしき人物と子供達が出てきた。
「ソフィア様、皆様いつもありがとうございます」
シスターがお辞儀をすると、子供達は「いつもありがとー」と合わせてお辞儀をする。
無邪気に笑う子供達を見て、何だかほっこりする。
今日は畑の雑草取りと、夕ご飯の炊き出しを行うそうだ。
もちろん資金援助も行う。
子供達に見えないところでソフィアがシスターにお金の入った袋を渡していたので、銀次郎も小金貨を渡す。
ソフィアは貴族のお嬢様だが、定期的に孤児院のボランティアをしているそうだ。
ただお金を出すだけではなく、こうやって一緒に労働もする。
貴族のお嬢様が雑草取りをしている姿に、感心する銀次郎だった。
「休憩しましょー。みんな手を洗ってねー」
シスターが声を出し、子供達は井戸から水を汲み手を洗う。
年長者がちっちゃな子供達の面倒を見ていて、逞しく感じる。
「ご褒美にジュースだー」
銀次郎はアイテムボックスから、林檎ジュースを取り出す。
銀次郎が大好きな青森の林檎ジュースだ。
添加物は入っていなく、農家の方が林檎を絞って作る手作りだ。
それぞれ持ってきた木のコップに注いでいくと、子供達の目が輝く。
みんなにジュースが行き届いてから一緒に飲む。
子供達は「おいしーおかわりー」の大合唱。
アイテムボックスから林檎ジュースを取り出して、空になったコップに注いでいく。
ソフィアとメイドのアメリーも、「おかわりー」と子供たちに混じって言っていたので、仕方なくおかわりを注ぐ。
ソフィアは「やったー」と言って笑顔だ。
まぁその笑顔が見れれば林檎ジュースくらい問題ない。
その後も子供達からジュースのおかわりコールが続いたのであった。
休憩の後はまた雑草取りをして畑仕事は終了。
シスターとソフィア、アメリーが子供達に水浴びをさせて、セバスチャンと銀次郎は夕食を作る事になった。
せっかくだから楽しい食事にしようと考え、サンドイッチパーティにする事にした。
ネットショップで、日本の食パンを購入。
パンの耳をカットして、サンドイッチ用のパンにする。
木のお皿には、ツナやタマゴをそれぞれマヨネーズで和えたもの。
他にはハムやチーズ、レタスやきゅうりトマトなどの野菜を並べて、自分の好きなサンドイッチを作ってたべれる様にした。
林檎ジュースは無くなってしまったので、オレンジジュースとミルクを用意。
好きな具を選んで自分で作るサンドイッチパーティーは、子供達に大好評だった。
パンもふわふわで、ちっちゃい子供でもたべれた。
もちろんソフィアもアメリーも美味しそうにたべている。
銀次郎はみんなと楽しい時間を過ごし、異世界で生きているという事を実感するのであった。