第十七話 ハートマン親方
「ギンジローちゃんごめんねー」
バーニーさんが作るハンバーグは大好評だったけど、力が強すぎてミンサーの取手の部分を壊してしまった。
そこでバーニーさんが冒険者時代にお世話になった鍛治職人に、ミンサーを直してもらおうという話になり、銀次郎が鍛冶屋に持っていく事になった。
ハングリーベアーを出て、教えてもらった通りいつもとは違う山側の方へ進む。
しばらく歩くと煙が何本も見えて来て何だかワクワクしてきた。
川沿いに立ち並ぶ工房を全て通り過ぎ、一番奥にあるお目当ての建物に辿り着いた銀次郎。
そこは立派な煙突がある大きな建物で、ハートマン鍛冶屋と書かれたシンプルな看板が入り口に掲げられていた。
「すみませーん、誰かいますかー」
銀次郎は人を呼ぶが誰も出てこない。
「誰かいないですかー。すみませーん」
大きな声で何度も叫ぶと、中から職人さんが出て来てくれた。
「すみません。ハングリーベアーのバーニーさんからの依頼でこの調理器具を直して欲しいんですけど」
対応してくれたのはお弟子さんらしく、すぐに親方のところまで案内してくれた。
「なんじゃ?」
親方と呼ばれた男は、髭を生やした無愛想なおっさんだった。
「ハングリーベアーのバーニーさんからの依頼でこの調理器具を直して欲しいそうです」
おっさんはミンサーを奪い取り、ジロジロ見る。
「見た事ない金属じゃし面白い作りじゃな。柔っこいがここをくっつけりゃ使えるようになるじゃろ」
どうやら修理はしてくれるらしい。
「そこで待っちょれ」
しばらく部屋の棚に飾られている剣や槍を眺めて待ってると、親方とお弟子さん達が戻って来た。
「あいつの馬鹿力じゃすぐまた壊すから補強しといたぞ。あとは使って問題ないか確かめるだけじゃな」
そう言ってお弟子さん達に今日の仕事は終わりだと伝え、ミンサーを片手で持って工房を出る親方。
銀次郎はお弟子さん達にお礼を言って、早足で親方を追いかけるのであった。
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「オマエが俺を頼るなんて冒険者の時以来じゃな。こんな嬉しい事があったからには酒じゃ、とびっきり美味い酒をくれ」
さっきまで無愛想だったのに、カウンター席に座った親方は笑顔だった。
隣の椅子に手を置き、銀次郎にこっちに座れと合図。
まだ陽は高く、バーニーさんは夜の仕込み中なんだけどな。
ちなみにクラーラさんは洗濯をしていて、息子さん達は昼寝中らしい。
席に座るとバーニーさんは陶器で出来たボトルをカウンターに置く。
カップは二つ。
親方は自分のカップを取り酒を並々と注ぐ。
ボトルを受け取った銀次郎も自分のカップに酒を入れる。
「これは美味そうじゃな、プロージット」
陶器の酒は蜂蜜酒の古酒だった。
常温なので口に入れた瞬間アルコール分を感じたが、重厚な味わいとそれに反するような飲み口で最後までカップから口が離れない。
「うまい」
銀次郎が無意識に声を出すと親方は少し微笑み、陶器のボトルを銀次郎の方へ差し出してくれた。
親方と楽しく呑んでると、バーニーさんがミンサーを使いハンバーグの仕込みで挽肉を作り始めた。
「あいつの馬鹿力でも大丈夫な様に補強したがうまく力が逃げちょらんな。ミスリルに魔力を通した方が、もっと良いのが出来そうじゃな」
どうやら親方はバーニーさん専用のミンサーを作ろうとしているらしい。
ちょっと見ただけで作れるのかな?
ミンサーの大きさや、取手の太さなどバーニーさんに細かく確認している。
二人はバーニーさんが冒険者を辞めてから一度も会っていなかったらしいが、このやりとりと姿を見ると親子の様な信頼関係が感じれて、銀次郎は良いなと思った。
バーニーさんは無口だが、おいしいつまみを次々出してくれた。
楽しい時間を過ごしていたが、悲しみは急に訪れた。
親方が陶器のボトルを逆さまにして振るが、ちょろっとしか蜂蜜酒は出て来なかった。
「もう一本あるか?」
バーニーさんは首を横にふる。
「そうか……」
親方は寂しそうに陶器のボトルを見つめている。
沈黙…… そして沈黙……
沈黙に耐えきれなくなった銀次郎は、故郷のうまい酒ご馳走すると提案。
アイテムボックスから、亀甲ボトルの国産ウイスキーを取り出す。
キャップをひねりカップに注ぐと、親方はストレートのウイスキーを一気に呑み干す。
「なんじゃこれは。頭をハンマーでガツンと殴られた様な衝撃で美味い」
頭をハンマーで殴られてうまいのかな? と思ったけど、親方が喜んでくれてるから良いか。
銀次郎もぐいっと呑んだが、ストレートのウイスキーは確かに頭をハンマーで殴られた様な衝撃だった。
殴られた事はないけど……