第百八十九話 神の恵
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「ギンジローさん大変です。教会の方が表彰に参加したいと申し出がありました」
別室でレイチェルさん、ミリア、そして銀次郎の三人で特別賞の選考を進めていると、商業ギルド員のナディアが部屋に飛び込んできた。
「表彰に参加?」
銀次郎が聞き返すと、ナディアは何があったのかを説明し始める。
「なるほどね〜。マインツ大聖堂と王都の教会が協賛しているのを知った他の司祭達がぜひ我々もって事か。レイノルド助祭に話を聞いてくるから、レイチェルさんとミリアはこのまま進めて下さい」
特別賞の話は大枠が決まっていたので、後はレイチェルさんとミリアにお願いして部屋を出る銀次郎。
「あっギンジローさん、ギンジローさんが来てくれた!」
顔面蒼白で駆け寄ってくるレイノルド助祭。
お偉いさんが集まっているので大変なんだろう。
銀次郎は早足で駆け寄ると、レイノルド助祭にガッツリと両手を掴まれる。
「ギンジローさん何とかお願いします。お願いします!」
「だ……大丈夫ですよ。何とかしますので、その……手は離していただけませんか?」
動揺しまくっているレイノルド助祭が手を離してくれたので、どんな内容なのかを確認する銀次郎。
「ヴェルナー司祭がポロッと表彰の事を話してしまいまして……これほどの素晴らしい会で、多くの人が集まり熱狂している。我々と王都の教会は協賛するのに、他の教会からは何もないのは問題になるのではと司祭様達から指摘をされまして……」
教会にもいろいろあるのだろう。
こっちとしてはありがたいけど、具体的にどう進めていくかな?
レイノルド助祭にお願いして、司祭達の話を聞く事にする。
「ギンジロー殿ブラボーですな」
「この後のパーティーで表彰するのですよね? 我々からもお願いできますか?」
「一位の組は我が教会でもダンスを踊ってくれないかのう?」
一気に話しかけられて困ってしまう銀次郎。
だが時間はないので、すぐに協賛の話を進めていく事に。
「レイノルド助祭から話を聞きました。この後すぐに表彰式があるのですが、どういった形で表彰しますか? 特定のペアか個人、もしくは全員に表彰という形も出来ますが。 あと申し訳ないですが、ご予算はどのくらいをお考えでしうか? それに合わせて考える事もできますので」
いきなりお金の話をして申し訳ないが、急ぐ話なので大事な事から確認をしていく。
「そうじゃの。ヴェルナー司祭とエカード司祭と同じ金額を各教会で出したいのだが」
「えっ? それだと結構な金額になってしまいますけど大丈夫ですか?」
銀次郎は思わず確認してしまうが、こういったものは横並びの金額の方が良いらしい。
実際には馬車の手配やパーティー用のワインなどの提供も受けているが、そこは入れずに純粋な特別賞の商品代を提示すると、そんなに安くて良いのかと逆に心配された。
「お気遣いありがとうございます。後はどの様にしましょうか。特定の組を表彰したいとかありますか? この金額なら参加者全員にも渡す事はできますが」
「皆はどうする? 何か希望はあるか?」
目の前の司祭さんが他の司祭さんの意見を聞いてくれると、社交ダンスの説明をしてくれたカール夫妻はどうかと話があがる。
「奥様のレーアさんなら、このパウンドケーキがお気に入りですね。一年分にしますか? ただそれだとレーアさんが太っちゃうし金額が余っちゃうな。んーどうしよう」
とりあえずパウンドケーキを出してしまったので、司祭さん達に試食をしてもらう。
「こっこれは神の恵ですぞ。こんなに美味しい菓子は初めてだ」
「そんな大袈裟な。私も少し頂いてみようか……これは確かに神の恵だ」
特別席とはいえ、司祭達が神の恵だと騒いでいるので会場内が少しざわつき始める。
「ギンジロー殿、この神の恵を会場に居る全員に渡してもお金は本当に足りるのかい?」
「はい。計算上はパウンドケーキひとつなら十分に足りますね。贈答品用に袋に入れて渡す事が可能です」
銀次郎の言葉に驚く司祭だが、神の恵を全員で共有できるのならそうしようと話が纏まった。
表彰式の時にマインツの大聖堂と王都の教会を除く全ての教会からという事で発表するので、その時の挨拶を誰か一名決めておいて下さいとお願いする。
「一名ですか? えっ……」
何かレイノルド助祭が言いかけていたが時間がないので後はお願いして、ネットショップでパウンドケーキを仕入れた後、別室に戻る銀次郎。
「ミリアどう? 決まった?」
レイチェルさんとミリアのいる別室に戻り話を聞くと、決まったので最終の確認をお願いされる銀次郎。
手渡された羊皮紙のリストを見ると、参加者三十二組全員が表彰されるように配分されていた。
「良いんじゃない? あとマインツの大聖堂と王都の教会以外の所からは、この会場にいる全員にパウンドケーキを贈る事になったから。袋に詰めてお客さんが帰る時に渡せる様に準備するから、先にパーティーを始めて欲しい。準備が終わったらパーティー中断して表彰式の流れに変更しよう」
ミリアにお願いして銀次郎はネットショップでパウンドケーキ、表彰式とパーティー開始の順番を変更する事をオリバーに伝える。
「こっちは準備ができているから問題ねぇが坊主、ハートマンさんはどうするよ?」
厨房の休憩スペースを見ると親方とお弟子さん、そしてお婆さんとハリーがテーブルを囲んでいた。
「まだ呑んでるんですか? そろそろパーティーが始まりますよ?」
確か業務用のウイスキーを渡したはずなのに、もう残りわずかになっている。
親方は酒さえあればいいと言ってこの場を離れようとしない。
「親方ちょっと手伝って下さいよ。みんなでやればすぐに終わるんだから」
銀次郎はアイテムボックスから、パウンドケーキが入った大量の段ボール箱を出していく。
「親方とアントニオさん達はこの袋を広げて、パウンドケーキを入れていって下さい。ハリーはこのカッターでダンボールを開けていって。お婆さんはもうパーティーが始まるので、野菜スティックをパーティー会場に出して下さい」
「坊主、そのお婆さんの野菜スティックはこっちでやっとくぞ。料理の準備は出来てるから、何人か若いのを連れてくるか?」
オリバーの申し出に甘えて、何人かの料理人にパウンドケーキの袋詰めを手伝ってもらう事に。
「おい。こんなペラペラの刃では切れんぞ。ここは欠けておるし」
いつの間にかハリーからカッターを奪って、文句を言ってくる親方。
職業柄気になるのかなと思ったけど、刃が欠けたり切れ味が悪くなったら、このカッターは刃をひとつ折って使うものだと説明し実践してみせる。
「おい今何やった?」
「親方が文句言ったから、刃を折って新しい刃を出したんですよ」
「そんなの聞いた事ないぞ。仕込み刃か?」
「仕込み刃が何だか知りませんけど、これはカッターです。紙を切るならこれで十分なんです。安いし長く使えるし」
「安いっていくらじゃ。紙なんて高級品を切る刃なら高いじゃろ? 仕込み刃じゃし」
「仕込み刃に拘りますね。親方だったらすぐに作れるでしょ? ちなみにこれは故郷で銅貨一枚です」
親方はカッターを持って動きが止まってしまった。
急いでるのに困った人だ。
銀次郎は親方に手伝ってもらうのを諦めて、パウンドケーキを袋に詰めていく。
「ギンジローさんこっちは終わったよ」
「こっちもこれで終わる」
「こっちも終わるよー」
急遽依頼を受けた各協会からの表彰の品も、みんなの協力で準備が完了した。
「よーし。それじゃ会場に向かいますか」
銀次郎は参加者全員に贈るパウンドケーキをアイテムボックスに収納して、パーティー会場に向かうのであった。