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異世界ネットショップマスター  作者: グランクリュ
第二章 ダンスホール編
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第百八十六話 森の妖精

「じーじ、ばーば、あはは」



 第一組目のダンスが終わるとダンスホール内は静かだ。

母親に抱かれた子供の笑い声だけがホール内に響いている。

家族や親友が初めて目の前で社交ダンスを踊り、演奏が終わったがどう反応して良いか分からない。



「カールさん、レーアさんサイコーだったよー。レーアさんは森の妖精かと思ったぐらい綺麗ですよ。他のみんなもサイコーだー」



 時間にしては二、三秒くらいだと思うが沈黙に耐えきれなかった銀次郎は、大声でカールさんご夫妻を称える。

咄嗟に出てきた言葉に自分自身何を言っているんだろうと思ったが、社交ダンスは堅苦しいものと思っていた観客達は、声に出して称えて良いと分かり後に続く。



「若い頃のかぁちゃん思い出したー」



「お父さんの踊りカッコよかったよ。今度私にも教えて」



「そのドレス姿に恋したー」



「先生今度は私をエスコートしてー」



「もう一曲!もう一曲!」



「あそーれもう一曲!もう一曲!」



 いつの間にかアンコールになって、会場が盛り上がる。

司会進行役のミリアが発表会は三回ずつ踊って審査をして、最後に上位三組だけが最後にまたダンスをしますのでと説明をしている。

ごめんミリア、なんか騒いじゃって……



 お祭り好きの人たちが楽しみ方を覚えたら、後は止まらない。

自分達の家族や友人がダンスを踊る時には、観客同士で譲り合ってフロアの最前列で応援。

社交ダンスは優雅に見えて、実際は格闘技みたいなものだ。

姿勢を保つだけでも相当苦しいのに、常に笑顔で踊っている。

苦しくなった時に応援があると、人は持っている以上の力を発揮する事ができる。



 競技者と家族や友人との絆、そして観客同士の絆が生まれながら、二組目、三組目、そして最後の組のダンスが終了したのであった。



「それでは小休憩を挟みたいと思います。各入り口付近には、冷えた果物と飲み物を用意してございます。準備が整い次第、二回目のダンスを開始致しますので、しばしお待ち下さいませ」



●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●●



「1・2・3・4・1・2・3・4」



 控室に行くと、二曲目のダンスの合わせに必死になっているペアの姿が。



「もぉあれだけ練習をしたのに、不安な気持ちと楽しい気持ちが押し寄せてどうしよう」



 そんな言葉が聞こえてきたが、そこも含めてこの社交ダンスの発表会を楽しんでもらおう。

飲み物とタオルを配っていると、レイチェルさんとエルザさんが控室にやってきた。



「みんな素敵だわ。体力は大丈夫? 次も頑張ってね」



 レイチェルさんが生徒さん達に声を掛ける。



「ねぇギンジローさん。舞踏会とは違って楽しいわね。私も社交ダンスを習おうかしら?」



 エルザさんも楽しんでくれているみたいだ。

パートナーに誘われたので、そこは謹んでご遠慮させていただく。



「ギンジローさん、ダンスを褒めてくれてありがとうございます。レーアが森の妖精って言われてから、顔がずっと真っ赤なんですよ」



 カールさんに言われてレーアさんの顔を見ると、確かに少し顔が赤い様に見える。

なんであんな事を言ってしまったのだろうと思ったが、自分の発言には責任を持つ銀次郎は本当に妖精に見えたと念押しする。



「森の妖精ね……今度は緑色のドレスを新調しようかしら?」



 レーアさんはまんざらでもない様子だったので、後でエルヴィスに伝えておこう。

エルヴィスはドレスの手直しに追われていたので、ダンスホールに戻る銀次郎。



「ギンジローさん。あの人たち全員司祭さんだって知ってましたか?」



 エデルから声を掛けられて教会関係者の席を見ると、レイノルド助祭が忙しそうに走り回っていた。

教会関係者の席には、シルバーのプレートに乗せられているフルーツの盛り合わせがいくつも置かれており、ヴェルナー司祭の好きな完熟マンゴーもおいしそうだ。



「おい。酒はないのか?」



 振り返ると親方とお弟子さん達の姿が。



「いや、まだ早いですよ。パーティーで出ますから待ってくださいって」



 話を聞くとやはり親方はダンスに興味は薄く、お酒目当てのようだ。

駄々をこねる親方を見かねた銀次郎は、まだ休憩時間があるので厨房へと連れていく。



「オリバーごめん。サンドイッチとナッツを少し出せる?」



「どうした坊主って……ハートマンさんじゃねぇか」



 突然連れてきた親方に驚くオリバー。



「呑み友達がお酒呑みたいってうるさいんで連れて来ました」



 オリバーに親方を紹介して、おつまみを用意してもらった。

すると野菜屋台のお婆さんも来て野菜スティックを出してくれた。



「生ハムはないんか?」



 相変わらず親方は生ハムを要求してくるが、三十六ヶ月熟成の生ハムは売れ切れなんですよ。

いつもうるさいので生ハムの件は無視することに。



「今日はパーティー用に泡ボトル仕入れましたけど呑みます?」



「いらん。ウイスキーじゃ」



 銀次郎はもうすぐ戻らないといけないので、いつもの亀甲ボトルではなく、業務用の五リットルボトルを親方に渡す。



「これ業務用のボトルですけど中身は一緒ですから」



 親方をオリバーとお婆さんに預けて銀次郎がダンスホールに戻ると、もうすぐ休憩が終わるようだ。

弟子のアントニオさんに親方の事を聞かれたので、たぶん厨房から戻ってこないと伝える。



「なんかすいません。様子を見に行ってきます」



 近くに待機していたメイドさんに、アントニオさん達を厨房に連れて行ってもらった。



「皆さま、間もなく社交ダンスの発表会を再開致します。第一組のペアが入場致しましたら、大きな拍手で迎えて下さい。宜しくお願い致します」



 ミリアがアナウンスを入れると、観客達がダンスフロア横に集まるのであった。

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