第百八十話 しゅわしゅわしゅわしゅわ♪ゴキュッゴキュ♪
誤字・脱字報告いつもありがとうございます。
「助けが欲しい。不安なんだ」
「どうしたギンジロー?」
エルヴィスに助けを求めた銀次郎。
ただ事ではないと感じたエルヴィスは、仕事を中断して相談に乗ってくれた。
尚、エルヴィスを連れ出した事により、エルヴィスのお母さんから老舗の高級羊羹を要求された模様。
「とりあえずおやっさんの所に行こう」
こうしてマニーさんの楽器店へと向かう二人だった。
「おやっさん少しいいか?」
何かを察したマニーさんは、扉の看板を閉店にし話を聞く事に。
銀次郎は女性用の下着をアイテムボックスから取り出して、実物を確認してもらいながら不安を打ち明けた。
「下着の説明をしていると、どうしてもいやらしい事を考えてしまって……」
マニーさんはブラジャーを手に取り、胸にあてている。
エルヴィスは真面目な顔で、パンティーを引っ張っている。
この二人に相談して良かったのかなと、一瞬後悔する銀次郎。
「ギンジローはいやらしい事を考えるのが、いけない事だと思っているんだな」
「そうだね。相手に失礼かと……」
「なるほど。それで相手の女性は嫌な顔をしていたか?」
これは自信を持って言える。
「嫌な顔はしていなかったと思う。試着の時は席を外したし、どうしても確認して欲しいって時しか下着姿を見ていないから」
エルヴィスの目を見てしっかりと伝える銀次郎。
「それは良かった。だがなギンジロー。下着姿を見れば、どんな男だっていやらしい事は考えるぞ。大事なのは相手を嫌な気持ちにさせない事。話を聞く限り、ギンジローはそれが出来ているから大丈夫だと思うぞ」
話を聞いてもらい、何だか気持ちが落ち着いてきた。
エルヴィスがドレスの寸法を取るのに、嫌な顔をされた事があるか聞いてみると、嫌な顔なんてされた事がない。
それどころか裸になる女性がいて、困った事があったよと笑っていた。
うーん……相談する相手がやっぱり間違ってたかも。
「よーしギンジロー。少し早いが呑みに行こうぜ。あの冷えたエールな」
今日は呑みたい気分だったので、マニーさんの誘いに乗りハングリーベアーに向かう三人だった。
●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●●
「ゴキュッゴキュッゴキュッんはぁあぁ」
冷えたエールを豪快に呑み干すマニーさん。
そしておかわりのエールを三杯注文し、おつまみのナッツをボリボリと頬張る。
「マインツの街でしか味わえない♪」
マニーさんが急に言い出したので、もう酔っ払ったのかと心配する銀次郎。
するとマニーさんのに続いてエルヴィスも。
「冷えたエールを知ってるかい?」
なんか始まったな。
即興で歌を作ってると認識した銀次郎は、頭ん中をフル回転させる。
「しゅわしゅわしゅわしゅわ♪ゴキュッゴキュ♪」
語彙力に乏しい銀次郎は、エールを呑み干す時の事を言葉にするしか出来なかった。
「しゅわしゅわしゅわしゅわゴキュッゴキュ……」
マニーさんがそう呟きながら、指でテーブルを叩きリズムを取る。
「王様でも呑めないエールが♪ここハングリーベアーでは呑めるぞ♪」
歌っぽくなったな。
するとマニーさんが注文してくれた二杯目のエールが届く。
「しゅわしゅわしゅわしゅわ♪ゴキュッゴキュ♪」
エルヴィスがジョッキをぶつけながら、即興を続けた。
冷えたエールを呑みながら次の言葉を考えるが、語彙力が乏しい事に定評のあるギンジロー。
何も思い浮かばないまま、二杯目のエールを呑み干してしまった。
(ヤバイ何も浮かばなかった。とりあえず呑むか)
「王様のエールをもう一杯」
すると隣の席に座る顔馴染みのお客さんが
「しゅわしゅわしゅわしゅわ♪ゴキュッゴキュ♪王様のエールをもう一杯♪」
まさかの飛び入り参加での注文。
何も思い浮かばなくて時間稼ぎで王様のエールを注文したのだが、これが見事にハマった。
「王様のエールおかわりよ〜」
クラーラさんも合わせると、聞き耳を立てていた他のお客さんも合わせてくる。
「王様でも呑めないエールが♪ここハングリーベアーでは呑めるぞ♪」
「しゅわしゅわしゅわしゅわ♪ゴキュッゴキュ♪」
「王様のエールをもう一杯♪」
こうなると止まらない。
店内のお客さんが騒ぎ出し、王様のエールを次々と注文。
常連のお客さんから一曲演ってくれとリクエストされるが、ギターも太鼓もない。
「タンバリンあるか?」
タンバリンはアイテムボックスにあるので取り出すと、マニーさんがリズムを作り始めた。
このリズム、この曲の入りは知ってる。
皇帝ベッケンバウアー三世の物語だ。
急遽始まったエルヴィスナイト。
いつもの様に木の扉は取り除かれ、オープン席を作る三兄弟。
エルヴィスが甘い声で歌い、タンバリンでリズムを作りだすマニーさん。
銀次郎は大きく身体を使いながらダンスと、腕を振ってオーディエンスを煽っていく。
即興曲の王様のエールを途中何度も入れて、ハングリーベアーの売上にも貢献。
チップは途中から参加してきた、冒険者のキーランドさん達の食事代にあてる。
呑みに呑んで、騒ぎに騒いで、ちっぽけな悩みなんか吹っ飛び楽しい一日になった銀次郎だった。