第百七十九話 全面ガラス窓のデメリット
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第百七十九話
「ヴェリーヌおめでとう。途中でたまたま花屋を通ったから」
「マルクの商会からこの店までの間に、お花屋さんなんてないでしょ。優しいのねありがとう」
贈られた花束の香りを嗅ぎ、お礼を伝えるヴェリーヌ。
「ここが持ち帰りの場所で良いのかい? この水筒に、はちみつレモン入りの果実水を四杯分。はちみつ多めで」
「はちみつ多めには出来ませんが、今日はサービスがあります。お砂糖が入ってるから甘くて美味しいですよ」
ベティーが声を掛け、王都へ戻る商人の若者にオトクヨウチョコレートを渡す。
「砂糖が入ってるなんて凄いね。コレは一人一つ? それとも一杯につき一つ?」
「一人一つですよ」
そう答えたベティーに、お釣りの銅貨2枚はここで果実水を注文して飲むから、もう一つ欲しいとお願いされる。
「ここは持ち帰り専門窓口ですよ。今回だけですからね」
水筒とオトクヨウチョコレートを渡す。
「飲み終わったら、そっちの返却口にカップを戻して下さいね」
その若者は冷えたはちみつレモン入りの果実水を飲み干し、返却口にカップを置く。
「またワインの仕入れに来る時は、このお店に寄るから。綺麗なお姉さんご馳走様」
「王都まで気をつけて下さいね」
商人の若者を見送るベティーは、旅の無事を祈るのであった。
「ん〜困ったなぁ」
「どうしたのよ。奥さんと喧嘩でもしたの?」
しきりに外を見ながら、冷えた果実水で喉を潤す青年の名はブレン。
ヴェリーヌのお店の向かいにある、陶器のお皿や壺などを扱う老舗問屋の跡取りである。
「カロリーナ聞いてくれよ。店が近くなったから、何度でもサボりに来れるなって思ってたのに丸見えなんだよね。あっちで怖い顔して怒ってる妻の顔が……」
「旦那がサボってるのを目の前で見せられたら、私も怒っちゃうかも。ねぇエミリアちゃんはどう思う?」
カロリーナが近くを通りかかったエミリアに声を掛けると、エミリアは店にいたカールさんとユルゲンさんを捕まえる。
「問題発生した……解決お願い……」
建物の問題があった場合に対応する為、待機していたカールさんとユルゲンさん。
問題といえば問題だが、完全に専門外でありエミリアに押し付けられた形である。
「あれが君の奥さん? 確かに怒ってるね。ひたすら謝るしかないが、あそこにいる黒目黒髪の男性に甘いパンを売ってもらう事ができたら、問題は解決できると思うよ」
カールさんは銀次郎から譲ってもらったクリームパンを見せて、頑張れよと声を掛ける。
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「これが最後です。今日の分は全て完売ですので、また明日お願いします」
二つ目の鐘が鳴る前に、ヴェリーヌさんのお店は閉店。
多めに果物を仕入れて果実水を用意したが、それでもこの時間に完売だ。
「カールさん、ユルゲンさん、ギンジローさんありがとうございました」
大きな問題もなく親方が作ってくれた魔道具のドリンクサーバーは、冷えた果実水を作る事ができて常連さんに好評だった。
食器洗浄機は簡単にカップを洗浄してくれるので、後片付けは一瞬で終わる。
「後片付けは楽になったけど、やっぱり人はもっと増やした方が良いのかなぁ」
今日はエミリアが店に入ったが、基本は三人でお店を回していく。
ベティーさんとカロリーナさんには小さな子供もいるし、急な休みだってあるだろう。
ヴェリーヌさんは人を更に雇うのはやっていけるのか不安だが、この忙しさが続くのは二人とエミリアに申し訳ないと打ち明けた。
「……人は雇うべき。ヴェリーヌが考える事は、人を雇えるかどうかじゃない。目の前のお客さんを満足させる事。ヴェリーヌに会いに来てるお客さんの話を聞いて、果実水を飲んだらすぐに帰らせる。それだけでもっと売上は上がると思う」
目の前のお客さんを満足させる事。
当たり前っちゃ当たり前の事なんだけど、心に刺さる言葉だなぁ。
しかし果実水を飲んだらすぐに帰らせるって、エミリアらしい考えだな。
ヴェリーヌさんのお店は、休憩中にパッと来てパッと帰るお店だから長居されても困るから。
結局話し合いで、更に人を雇う事に決めたヴェリーヌさん。
ベティーさんとカロリーナさんと同様に、子供を産んで仕事を辞めた友達に声をかけてみるそうだ。
「ところでギンジロー、アレは何?」
急にエミリアから聞かれるも、何を言っているのか分からない。
詳しく話を聞くと、お客さんの一人から甘いパンを売ってくれと言われた件だった。
「甘いパンを売ってくれって言われたけど、手持ちがなかったから代わりにコレを渡したんだ」
銀次郎はルッツと一緒に作ったジャムの瓶を取り出す。
「ヴェリーヌさん、今日パンをプレゼントされていましたよね? できればそれを薄く切って欲しいのですが」
開店祝いに近所のパン屋さんから、パンを受け取っていたヴェリーヌさん。
それを薄く切ってもらい、みんなでジャムパンにして試食してみる。
「イチゴ、リンゴ、梨と煌めくマスカットのジャムです。お好みでどうぞ」
銀次郎は最近マイブームの煌めくマスカットのジャムを塗る。
カールさんはイチゴジャム、ユルゲンさんもイチゴと実は案外仲が良い二人。
ヴェリーヌさんは梨のジャム、ベティーさんとカロリーナさんはリンゴジャムをたっぷりと。
エミリアは四種類のジャムを、それぞれ塗るのではなく乗せて試食。
「ふぇっ? 口の中が幸せすぎる」
カロリーナさんが思わず呟くと、ベティーさんもコクコクと頷く。
「コレは凄いですな。ギンジローさん妻にも食べてもらいたいので、少し分けてはくれませんか?」
カールさんから申し出があったので、残ったのでよければと伝える。
これに反応したのがエミリア。
「コレ欲しい。お値段は?」
「昨日ルッツと二人で作ったやつだから、材料費だけだとイチゴとリンゴと梨なら高くても銀貨1枚くらいかな? 煌めくマスカットはもうちょっとするけど」
その言葉にビックリするエミリア。
何度も確認をしてくるが、エデルが市場から買い付けてくれる果物は驚くほど安い。
砂糖は異世界では高級だけど、ネットショップなら1キロ銅貨2枚だ。
あとはこの瓶とレモンと薪代ぐらいだから銀貨1枚もしないか。
エミリアがヴェリーヌさんのお店で、ジャムパンを売ろうと興奮している。
ヴェリーヌさんのお店は果実水のお店だよと話すが、ヴェリーヌさん自身もジャムパンを売りたいと乗り気だ。
「ほらウチは休憩中に来てくれるでしょ。お腹が減ってるお客さんも多いから、食べてもらいたくて」
軽食のジャムパンぐらいなら、休憩中にパッとたべれるか。
「とりあえずジャムをいくつか渡しておきます。このジャムを作ってくれるか聞いておきますので少しお時間を下さい。
ヴェリーヌさんとエミリアには悪いけど、もうすぐ社交ダンス発表会だ。
それが終わって落ち着いてからと約束をし、お店を出る銀次郎だった。