第百七十八話 グリゼルダさんの勝負
教会の馬車で商業ギルドへと送ってもらった銀次郎とミリア。
レイノルド助祭に、説明会でまた会いましょうと伝え別れる。
「ギンジローさんこの後お時間宜しいですか? 先日の件エルザ様に伝えた所、全面的に協力するから進めてとお話がありまして」
下着は完全に専門外なんだけどなぁ。
安易に手を出してしまったこっちが悪いのだが。
銀次郎はトボトボとミリアの後ろをついていくのであった。
「グリゼルダ、エミリア、大事な話があるから来てくれる? ナディアとレニャは手が空いたらお願い」
受付で声をかけてミリアの部屋へ。
商談用のソファーに腰を落とすと、思わずおっさんの様な声が出てしまった。
「フフフ。私も疲れてソファーに座ると、たまに声が出てしまいますよ」
ミリアは笑顔でそう答え笑いを誘いスムーズに本題へと進める。
「まずはギンジローさん、アレを見せて下さい」
ここで? と一応抗ってみたが、机の上にお願いしますと微笑むミリア。
銀次郎は仕入れていた大量の下着を、アイテムボックスから取り出していく。
(これ下着泥棒が捕まって、ニュースで観るのと一緒だよなぁ)
机の上に、種類、素材、上下セットにサイズ別にと、分類を分けて並べると、既婚者のグリゼルダさんが、情熱的な赤いブラジャーとTバックを手に持ちワナワナと震え始めた。
エミリアは隣でなんだか悪い顔をしている。
「ギンジローさん説明をお願いします」
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ナディアとレニャも合流し、全員に下着の説明を終える。
するとグリゼルダさんから質問攻めに。
グ「胸の形を崩さない為に包み込む様な形をしているのに、お尻の方は紐になる理由を教えて下さい」
銀「わかりません。紐は特殊で普通はこっちです」
グ「この豹柄も特殊ですか?」
銀「はい、特殊です。獣の気分になりたい人には人気ですが、それは極めて特殊です」
グ「特殊なんですね……これが先程おっしゃっていた勝負下着だと思ったのですが」
銀「勝負はしていると思いますが、豹柄は個人的にちょっと……」
グ「ではギンジローさんにとって、どの下着が勝負下着なのでしょうか?」
女性陣に囲まれてこの質問は公開処刑だよな。
助けを求めミリアに目線を合わせるが、我々は大丈夫ですよと微笑む。
仕方ない……腹を括るか……
銀「まず勝負下着にはいくつかの種類があります。わかりやすいのは今日大事な仕事や取引があって、自分自身に気合いを入れるもの」
赤色の下着を手に取り、赤色には興奮したり前向きな気持ちになりやすい事を話す。
他には自分の好きな色も選ばれやすい事を伝える。
グ「まぁ確かにその気持ちはわからないでも無いですが……」
なんとなく歯切れが悪いグリゼルダさん。
銀「こほん。では次は今日の夜、何かあるかもしれないって時です」
キタキターとばかりに前のめりになるグリゼルダさん。
銀「大前提として、清潔でクタクタになっていない下着を選びましょう」
グ「それは当然ね」
銀「その中で自分が一番綺麗に見える下着が、勝負下着だと思います。黒かピンク色が綺麗や可愛いように見えるのではないでしょうか?」
グ「なるほどね。ただ下着を殿方が見る時は、勝負は既についているのでは?」
(グリゼルダさん鋭いな)
銀「えーっと。胸を大きく見せるブラジャーってのがあります。寄せて上げるわけですが……大きく見える事によって興奮を覚える男性もいると思います。ただ逆にやり過ぎると男性が引いたり、後でガッカリする場合もあるので、この辺は自己責任でお願いします」
胸に手を当てるグリゼルダさん。
いやー、目のやりどころに困る……
大きいのが全てではないですよとフォローするが、なぜだか怒られてしまう銀次郎だった。
勝負下着の話でだいぶ時間を取られたが、ドロワーズよりこっちの下着の方が機能的なので、正しいサイズの物を身に付ける方向で話を纏める。
銀次郎としてはこんな辱めを何回も受けたくないので、下着は商業ギルドとマインツ家に任せたい。
気に入った下着は、サンプルで持って帰って下さいと伝える銀次郎。
グリゼルダさんからは説明や試着用の下着は商業ギルドのサンプルとして頂きたいが、個人で使用する物はお金を払うべきだと主張された。
さすが商業ギルドの職員さんだなと感心した銀次郎は、仕入れ値で下着を販売する事に。
それぞれの下着の仕入れ値をミリアに伝える。
「一度部屋を出るから、自分達の下着を選んだら教えて」
支払いはミリアにまとめてもらう様にお願いし、部屋を出ようとしたが銀次郎も男である。
閉めるドア越しにチラッと見ると、グリゼルダさんが豹柄の下着をガッチリ掴んでいる姿が目に映るのであった。