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異世界ネットショップマスター  作者: グランクリュ
第二章 ダンスホール編
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第百七十六話 オールドボトル

「それでは三日後でお願いします」



 冒険者ギルドにやってきた銀次郎とミリア。

マインツ伯爵家の代理としてキーランドさんのパーティーと正式に契約を結び、依頼金を支払い帰ろうとしたのだが……



「帰る前に一つ教えてくれ。どうやったらハートマン親方は依頼を受けてくれるんだ? 商業ギルドの依頼は受けているのだから何とかしろと本部がうるさくてな」



 ギルド長のマテウスさんはやれやれといった感じの表情を見せるが、その目は笑っていない。 



「依頼を受けてくれた事は事実ですが、それは運が良かっただけだと思います。ハートマンさんは気に入った仕事しか受けない方ですので」



 ミリアはにっこりと微笑みながらそう答えると、マテウスさんはそれ以上何も言ってこなかった。



●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●●



 商業ギルドに戻り、社交ダンスの発表会の最終打ち合わせを行なった。

細かな修正はあったが概ね問題はないだろう。



 養鶏場を広げる事に関しては、孤児達の独立まで支援する事に驚かれた。

独立できる事がわかればそれがやる気につながると思うし、大量の玉子が生産出来るようになれば玉子の価格を下げる事ができる。

お菓子やケーキを広めていきたい銀次郎にとって、玉子の価格を下げ安定供給できる方がメリットが大きい。

それに養鶏場だけではなく牛や豚などの畜産業にも力を入れて、ハンバーグでの町おこしにもっと力を入れたい。



「あの辺りは土地もあるので問題はないでしょう。配達を依頼している商会には、依頼が増える見込みを伝えておきます」



 他にはソフィアが支援している孤児院で、屋台での商売をやる事を相談。

これは孤児院への支援であり、銀次郎が儲ける為のものではない事を説明。

それでもミリアが担当になり、最大限の協力をすると約束してくれて本当に頼りになる。



「ミリアからは何かある? 助けてもらってばかりじゃ悪いしできる事があれば何でもするよ」



「それでしたら一つご相談を」



 ミリアからの話は銀次郎にとっては苦手な分野だが、協力する事を約束する銀次郎だった。



●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●●



「親方いますかー? いますよねー? また勝手に入りますよー」



 商業ギルドでの話を終えて、親方の工房へと一人でやってきた銀次郎。

とりあえずいつもの儀式をして工房へと入ると、親方は作業中だった。

しばらく椅子に座って待っていると、ひと段落ついた親方がやってきた。



「何じゃ? 生ハムでも持ってきたのか?」



 親方は生ハム好きだね〜

何度も言ってるけど、三十六ヶ月熟成の生ハムは売れ切れ中ですよ。

そう伝えると無愛想な親方が残念そうな顔になった。



 こんな表情もするんだな。

どんだけ生ハムが好きなんだよ?

個人的には鮭とばの方が好きなので、鮭とば界のスーパースターとば次郎を渡す。



「炙ってくるから少しまっちょれ」



 アイテムボックスから亀甲ボトルのウイスキーとグラスを取り出し待っていると、アントニオさんが現れた。



「ギンジローさんどうも。あと何日かで馬車が出来上がりますから」



「いよいよですね。楽しみに待っています。コーラと氷を差し入れしますので、皆さんで飲んでください」



 喜ぶアントニオさんと入れ替わるように、親方が鮭とばを齧りながら戻ってくる。

銀次郎は亀甲ボトルのウイスキーを、ストレートでグラスに入れた。

親方に渡すと乾杯もせずそのままグビリ。



 困った大人だなと思いつつ、銀次郎は炙って柔らかくなった鮭とばを口に放り込む。

鮭とばを噛み続けると、口の中が旨味成分で溢れてきた。

もしかして人間のいちばんの幸せは、鮭とばを口の中で噛み続ける事なのかもしれない。

そう思えるほど幸せな時間を過ごすが、銀次郎は口の中を天国に変える魔法を知っている。



 琥珀色をした液体を、濃厚極上旨味成分が溢れる口の中にゆっくりと流し込んだ。

ストレートなので最初はアルコールを強く感じ、それが口から鼻、そして脳天を突き抜け遙かなる頂へ。

その過程を目を瞑り堪能する銀次郎。

だが終わりは突然にやってくるものだ。



「おい。それ寄越せ! 聞いとんか?」



「なんか悪魔の声が聞こえるな〜」



「誰が悪魔じゃ! 早くそれを寄越せと言っとるんじゃい」



 親方の手の届かない所に亀甲ボトルのウイスキーを置いてしまったので、現実へと引き戻されてしまった。

今度から天国の魔法陣を描く時は、親方の近くにボトルを置く事に決めた銀次郎。



「この後は王様の馬車ウイスキーの呑み比べをしましょう。おつまみは缶詰で」



 魔道具作成のお礼をすべく、今日は奮発したのだ。



「これは王様の馬車ウイスキーの12年です。三種類あるのは簡単に言えば木樽の違いだと思って下さい。色が違うの分かります?」



 シェリーオーク、ダブルカスク、トリプルカスクの12年をそれぞれのグラスに入れる。

親方はぶつぶつ言いながら、何度も呑み比べをしていた。

こっちの世界に戻ってくるまで時間がかかりそうなので、銀次郎は牡蠣の缶詰をパッカン。

生牡蠣も良いけど、オリーブオイル漬けもうまいんだよな。



 銀次郎も呑み比べをしながら牡蠣を堪能していると、親方のフォークが牡蠣に伸びてきた。

プックリとしたオリーブオイル漬けの牡蠣を捉えると、そのままフォークを利用して缶詰を手元へと引き寄せる。

やり方がセコイ。

仕方がないのでさっきテーブルに出さなかった、松阪さんが育てた牛と厳選された塩だけで作ったコンビーフをアイテムボックスから取り出す。



 パッカン



(コンビーフがとろけるだと!?)



 あっという間になくなってしまったので、次は米沢さんが育てた牛で作ったコンビーフを取り出していくぅ。



 パッカン



(はぁ〜米沢さんも良い仕事してるな〜)



 残りのコンビーフはパンの上に乗せてたべよう。

アイテムボックスからパンを取り出すと、目の前にあったコンビーフがない。



「もっとあるか?」



「……」



「ないんか?」



「……」



 無言の抵抗を続けた銀次郎だが、親方に悪気がないのは知っている。

諦めてテレビでよく芸能人がオススメするプレミアムな黒毛和牛のコンビーフを取り出すと、屈託のない笑顔の親方。

いつもは無愛想なのにこの笑顔はずるいよ。



「親方今日は呑み比べなので、次はこいつを呑りましょ」



 前にも呑んだ王様の馬車ウイスキーの18年シェリーオーク。

ただ前と違うのは、これはオールドボトルである。



「今回は奇跡的に手に入りましたけど、次はないと思うので覚悟して呑んでくださいね」



「良いんか?」



「ん? ダメって言ったら諦めます?」



「諦めはせんな」



「でしょうね」



 結局全てのボトルを親方と二人で呑み干し、千鳥足でハングリーベアーに帰る銀次郎であった。

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