第百七十五話 お祝い
更新が遅くなりました。
この後に閑話も更新しますが、エルヴィスの甘い成分が不必要な方は飛ばしてください。
ストーリーには全く関係のない、イケメンだからこそ許される内容となっています。
「コレは私とユルゲンからの贈り物です。どうか受け取って下さい」
「まあ素敵な花瓶ですね。お店で大事に使わせてもらいます」
カールさんとユルゲンさんは、新築祝いに白い陶器の花瓶を贈った。
花を贈るのも良いが、形にして残るものとして花瓶にしたのだそうだ。
「ヴェリーヌさんコレは、ギンジローさんとハリーさんとボクからです。果物の詰め合わせですけど、この煌めくマスカットはこれからの季節甘くなって美味しいですよ。気に入ったら注文して下さい」
ハリーとエデルが大聖堂での仕事を終え、ヴェリーヌさんにお祝いの品を贈る。
しかしエデルはもう立派な商会長だな。
贈り物を商売に結びつけようとしている。
ヴェリーヌさんにお願いして、大粒の煌めくマスカットを一粒もらい、口の中に放り込む。
とっても甘くジューシーで、一粒だけでは止まらなくなった。
後でエデルに、煌めくマスカットの仕入れをお願いしておこう。
「お揃いの服が欲しいってお願いされたから作ってきたぞ。ヴェリーヌのサイズは分かるが、ベティーとカロリーナ、それにエミリアは気になる所があったら言ってくれな」
エミリアは、なんでヴェリーヌのサイズは分かるの? とニヤニヤしながらエルヴィスに絡んでいる。
エミリアさんよ、エルヴィスは仕立て屋なんだから、ヴェリーヌさんの服を作った事があって分かってるって意味だよ。たぶん……
「商業ギルドからはこちらを。エミリアがお客さんに配った時に好評だったと聞きましたので、ギンジローさんに売ってもらいました。新店のお祝いでお客さんに配って下さい」
ミリアとエミリアは、オトクヨウチョコレートをヴェリーヌさんに贈る。
お客さんに配る用とは言っているが、エミリアがたべ尽くさないか心配で仕方がない。
「皆さんのおかげで、新しいお店が出来上がりました。今から食事と果実水を作りますので待って下さいね」
ヴェリーヌさん達が食事を用意している間、外で資材の片付けをしているとクラーラさんの姿が。
「やっほー。ギンジローちゃん素敵なお店ね〜」
クラーラさんは透明なガラス窓から店内を眺めている。
「いま店主のヴェリーヌさんが食事を作ってるので、たべていきませんか?」
「ありがとー。お誘いは嬉しいけど、戻って宿の準備があるから。店主さんにコレ渡しておいて」
受け取ったのは陶器に入った蜂蜜酒だ。
エルヴィスがヴェリーヌを呼んでくると言ったが、こっちが勝手に来ただけだから気にしないで〜と微笑むクラーラさんだった。
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「エデル悪いけど果物あるだけ持ってきて。出来るだけ早く。ハリーはこの先にある精肉店に行って、お肉の配達をお願いして。あそこは塊肉だから全部一口サイズにカットして持ってきてもらって。エルヴィスはこのバーベキューセットを庭に出して火を熾して。ミリアとエミリアはヴェリーヌさんを手伝って」
新しいお店が完成した事を知った常連さん達が、お祝いの品を持ってヴェリーヌさんの新しいお店に押し寄せてきた。
問屋街の従業員達は朝早くから仕事をしているので、三つ目の鐘がなる頃には仕事が終わる。
帰ろうとした所にガラス窓が目立つ新しいお店が出来ており、ヴェリーヌさんの姿を見たお客さんがお店に来たのが始まりだった。
「ここがヴェリーヌの新しいお店?」
「そうよ。試しに果実水を作ったから飲んでいく? ご馳走するわよ」
訪れる常連さん達とそんな会話を繰り返していると、その様子を見た他の常連さんもお店にやってくる。
お祝いの品だけではなく、ご祝儀だとお金を渡しにくる常連さんもいた。
追加で果実水と食事を作るヴェリーヌさん達だが、それ以上に店に訪れる常連さん達に追いつかない状況になり、解決策として店外でバーベキューを開催することにした銀次郎。
ヴェリーヌさんの新しいお店は十字路の角にある一等地だが、大きな倉庫を解体したので土地は余っている。
すぐに土地の借り手は見つかりそうなのだが、誰かが契約したとかの話は聞いていないので、空き地のままになっている。
今日くらい土地を借りても問題はないだろう。
「おーい、肉を持ってきたぞー」
肉屋の店主がお肉を配達に来てくれた。
もちろんあの牛タンも一緒に。
「おー、牛タンまで持ってきてくれてありがとうございます。このお皿に盛り付けてもらえますか? こっちのカルビとハラミ肉には焼肉のタレをぶっかけて、こっちのロース肉はクレイジーなソルトを。これはサーロインのステーキか。これもっとありますか? できればお肉が透けるくらい薄く切って欲しいです」
「あいよー。他にも追加があったら言ってくれな」
急遽開催する事になったバーベキュー。
常連のお客さんが六十人くらい集まっている。
お皿はレジャー用の紙のやつがアイテムボックスにあったが、フォークがない。
しかしここは問屋街だ。
常連さんの商会が、木で出来たフォークを持ってきてくれた。
「野菜を持ってきたぞー」
大量の野菜を持ってきた常連の青年。
「ヴェリーヌさんにはお世話になっていますから、ウチの商会のワインを持ってきましたよ」
年配のご夫婦がワインの木樽を持ってきた。
昔からの常連さんで、来客があると紅茶も注文するお得意さんらしい。
「酒飲んでいいなら、ウチの商会からエール樽をもってこい。若い衆早くしろ。奥の倉庫にある上等なやつだぞ」
「ウチの商会は布しかないな。そのエールの樽を一つ売ってくれ」
「うちは果実水のお店なのよ」
ヴェリーヌさんに釘を刺される常連さんだが、仕事が終わったのならお酒も飲みたくなるよねとヴェリーヌさんが微笑むと、ありがてぇと笑顔を取り戻していた。
「皆さん今日は集まってくれてありがとう。カールさんとユルゲンさん、そしてギンジローさんがこの新しいお店を作ってくれたの。二、三日準備したら営業するから、その時はよろしくお願いします。それでは……プロージット!!」
まずは果実水で乾杯をすると、今までとは違って冷えた果実水にうめぇと声をあげる常連さん達。
「なんだよこれ? 身体ん中に冷たい果実水が流れて生き返るぜ」
「あぁ美味いな。コレは一杯いくらで売るんだ?」
「あら忘れたの? ウチの店は銅貨1枚よ。それとも銀貨1枚くらい払ってくれるの?」
冷えた果実水も常連さんに好評だ。
果実水を飲み干した常連さんに、お代わりを注いでいくヴェリーヌさん。
ベティーさんとカロリーナさんは家に帰ってお子さんを連れてきたので、ミリアとエミリアがヴェリーヌさんを手伝う。
「この肉は焼いて食べて良いのか?」
質問が来たのでバーベキューの説明をする銀次郎。
好きなお肉を焼いてたべるだけだが、網や鉄板の上で薄い肉を焼く事が新鮮だそうだ。
「うんめぇ。このソースと肉の脂が美味すぎて食べてるのにヨダレが出てきやがる」
「こっちの肉もうめえぞ。塩とスパイスがしっかりとあって、肉は薄いけど贅沢だぞ」
「ヴェリーヌごめん。営業が始まったら毎日二杯は飲むから、今日はエールを飲んでも良いか?」
「そんな事言ってまた仕事をサボりに来るんでしょ? エールはいいけど怒られないようにしてね」
こいつはいつもサボってるから、今度言いつけてやると他の常連さんから声が上がる。
するとお前も仕事をサボってヴェリーヌに会いに行ってるの知ってるぞと、他の常連さんから声が上がり笑いに包まれた。
「この肉のソースは美味いな。作り方教えてくれないか?」
肉屋の店主から焼肉のタレについて聞かれるが、異世界には醤油がないんだよなぁ。
探せばあるのかもしれないけど、今のところ見た事がない。
「焼肉のタレは醤油が必要なんです。醤油って聞いた事ありますか?」
「ショーユ? 聞いた事ねえな。おい誰かショーユって知ってる奴いるか?」
ここは問屋街だが、やはり醤油の事を知っている人はいなかった。
今回のバーベキューやハンバーグでお世話になっているので、少しだけならと焼き肉のタレを渡す銀次郎。
ちなみにこの焼き肉のタレは、牛タンと引き換えに定期的に譲る事となった。
焼き肉のタレ甘口が裏メニューとして取り扱われる事になり、美食家の貴族が高値で買い付けに来るようになったのである。