第百七十三話 下着
「これ日本だったら完全アウトでしょ」
急遽ネットショップで、ネグリジェとベビードールそして下着を買い漁る銀次郎。
サイズだってよく分からないから、同じデザインでも一通りのサイズを購入したら、ハングリーベアーでエールを振舞った金額を遥かに上回ってしまった。
ネットショップで買い物を終え、在庫があったと部屋の外で待機しているコーエンさんに声をかける。
コーエンさんはにっこりと微笑み、エルザさんのいる私室に案内をする。
「コーエンから聞いたわ。時間を取らせて悪いけど、ギンジローさんの故郷の衣服と下着について教えてくれるかしら?」
「構わないですが私は男なので、詳しい所までは分かりませんよ。それでも良いのなら」
コーエンさんが紅茶を淹れてくれたので、気持ちを落ち着かせる為に一口飲んでから説明を始める。
「ネグリジェは先ほども説明しましたが、寝る時に着る服で、ゆったりしていて動きやすいのが特徴です。本来はこちらのパジャマの方が汗を吸収して機能はすぐれているのですが、ネグリジェはその……大人の寝間着です」
「大人ね……」
顔を赤らめないでくださいよエルザさん。
こっちの方が恥ずかしくなる。
「これはベビードールと言って、もっと砕けた感じの寝る時の下着です」
無言でベビードールを見つめるエルザさん。
コーエンさんもミリアも黙っている。
「マインツで女性がどの様な下着を身につけているのか分かりませんが、私の故郷ではこの様な下着を身につけているのが一般的です」
腹を括って先ほどネットショップで購入した下着を、テーブルに並べていく銀次郎。
下着泥棒が盗んだ下着を並べられているかの様に、テーブルには下着が溢れかえる。
「こんな小さい布で隠せるの? しかも透けてるじゃない。えっ? コレなんて後ろが紐みたいになっているわよ」
そんな目で見ないでください。
その視線に耐えきれず黒色のTバックを戻そうとするが、エルザさんは下着を手に取って離さない。
変態と思われては今後やりにくいので、Tバックはドレスを着た時にパンツラインが出ない様、後ろは紐みたいになっている事を伝える。
「そ……そうなのね? 良かった安心したわ」
安心してくれてよかった。
収縮性もあるので、小さいサイズに見えても履いてみたら問題ない事も説明する。
「普段はこの様な白いパンツを履く事が多いみたいですが、こっちの赤色のパンツとかは勝負下着ですね」
「しょ……勝負下着?」
コーエンさんが思わず口にし、その後メガネの位置を戻してから謝った。
いや、謝らなくて大丈夫ですから。
「失礼しました。私の故郷では攻めた下着を勝負下着って呼んでいまして……言葉の通り女性が今日は何かあるぞって時、もしくは何か起こすぞって時に勝負する下着です」
俺は何を言ってるんだろうと後悔するが、女性陣の食いつきがやけに良い。
様々な下着を手に取って確かめている。
「そうするとこちらは胸の下着なの?」
ブラジャーを胸に当てて聞いてくるエルザさん。
普通に恥ずかしいんですけど、商人たるもの顔色を崩さないようにブラジャーの説明もする。
胸の形を保つ様にしたり、背中のお肉を持ってきてアナタは胸ですよと教育をしたり、寄せてあげる事によって胸を大きく魅せる効果がある事を説明すると、今すぐ試したいとエルザさんが叫ぶ。
「さすがに女性の下着姿を見る事は出来ないので、最後にサイズについて説明しておきます」
説明を終えて部屋を出る銀次郎。
外ではセバスチャンが待っててくれて、そのまま厨房へと案内される。
マインツ家の食事会は既に始まっており、オリバー達が作ったおいしい料理を堪能する。
魔道具のエールサーバーを披露したり、サラダの上にこれでもかとばかりにトリュフを削ってみたりして楽しい会だった。
しかし、その日の食事会にはエルザさんとミリアは顔を出す事はなかった。
時折コーエンさんが現れては、メイドさんを何人か連れて出ていく。
しばらくして戻って来ると、コーエンさんはまた何名か連れて出ていく。
後日、ミリアを通してマインツ家から下着の大量注文が入る。
メイドさん達に支給するので控えめな色が多かったが、明らかに勝負している下着の注文も多かった。
銀次郎も男なので、今度からどんな目でメイドさん達を見れば良いのだろうと悩んだ。
しかしその悩みとは裏腹に、メイドさん達からはリスペクトされた目で見られる様になる銀次郎。
女性の生活向上に貢献してくれたとエルザさんは言うが、その割にはみなさん勝負下着の注文多くないですか?
そんな事を聞けるはずもなく、しばらくはネットショップで下着を購入しては販売するマシーンと化する銀次郎であった。
皆様良いお年を!