第十五話 ひまわりの花言葉
馬車で大通りの噴水広場まで送ってもらう。
セバスチャンを見届けた後、エルヴィスのお店に行く。
「よぉギンジロー、昨日もサイコーだったな」
ギンジローを見つけるなり、笑顔で話しかけてきたエルヴィス。
お母さんからは、羊羹が美味しかったと感謝の言葉をもらった。
エルヴィスを連れ出す時は、また羊羹をお願いね〜って、あれ老舗の羊羹だから高いんだよな。
そんな事を考えていると、エルヴィスが小さなひまわりの花を差し出す。
「これをギンジローに」
男に花を渡すなんてさすがイケメンだ。
エルヴィスはまたサボりたかったらしいが、今日は宿に早く帰りたかったのでスルーする。
ひまわりの花を右手に持って、宿屋ハングリーベアーまで歩く。
すれ違う人々が何だか笑顔だ。
不思議に思いながらお店の前に着くと、ちょうど三つ目に鐘が鳴った。
「あら素敵ね、誰からひまわりをもらったの?」
受付に居たクラーラさんが声を掛ける。
「さっきエルヴィスからもらいました」
するとクラーラさんは肩を叩き、良かったねを連呼する。
「ギンジローさんの作る賄い食べたかったな〜 明日は大丈夫?」
少し拗ねた感じで聞いてくるクラーラさんに、
明日は必ず作るので食べて欲しいと伝える。
手に持っていたひまわりの花は、息子のハンツが陶器の花瓶を持ってきてくれたので食堂に飾ってもらった。
どうやらこの世界では、親友にひまわりを贈るという習慣があるらしい。
そしてそれは名誉な事みたいで、何だか嬉しくなった。
夕食まではあと少しかかるみたいなので、部屋に戻りネットショップを開く。
もらった大金貨を投入し、まずは基礎化粧品のセットを購入。
次はシャンプーを選ぶ。色々なシャンプーが表示されたが、銀次郎は有名な赤いボトルのシャンプーとコンデショナーを購入。
後はアオの猫缶を購入し、蓋を開けてからアイテムボックスにしまう。
お金も増えた事だし、あとは今まで興味があったけど高くて買えなかった、生ハムの原木も購入。
36ヶ月熟成の高級品でナイフも付いてくるらしい。
生ハムに合うワインも購入するが、こうなると止まらない。
高級な泡ボトルやチーズも購入していく。
もちろんネットショップからおすすめされた商品も、次々ポチっていく。
そろそろ頃合いなので、部屋を出て食堂に行くと、何名かの冒険者達がすでに一杯呑っていたので、今日も一緒にエールを呑む銀次郎であった。
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「それじゃ、厨房をお借りしますね。あとこれ場所代として蜂蜜のボトルを置いときます」
モーニングタイムが終わり、冒険者達や商人達はとっくに宿を出ている。
冒険者達は朝早くに出発し、今日休みを取った冒険者はモーニングをたべた後どこかに出かけてしまった。
食堂にお客さんがいなくなったので、銀次郎は厨房を借りて賄いを作り始める事にした。
これからは、銀次郎の好きな料理の時間だ。
まずは食堂の黒パンを、パン粉にする。
次は玉ねぎはみじん切りにして、飴色になるまで弱火で丁寧に炒める。
粗熱を取る間に、バーニーさんから分けてもらった暴れ牛の切れ端と、ワイルドボアのお肉をミンサーで合い挽きにする。
バーニーさんがミンサーに興味津々だったが、説明は後にする事にした。
クレイジーなソルトで味を調える。
牛乳と卵はハングリーベアーになかったので、今回のハンバーグには使わない事にした。
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「お待たせしました。ハンバーグという私の故郷で人気の料理です。トマトを潰して煮込んだソースをかけています。お肉を割ると、中から肉汁が出てきて熱いので気をつけてたべてください」
みんなの前に、ハンバーグのお皿とパンを並べる銀次郎。
サラダとスープは今日の朝食の残りを、ハンツが準備してくれた。
「うまいな」
バーニーさんがそう呟く。
長男のルッツと次男のハンツは、無我夢中でハンバーグを食べている。
三男のフランツは熱々のハンバーグを、フーフーと息を吹きかけ冷ましている。
わんぱく三兄弟を微笑ましく見ながら、クラーラさんもハンバーグを食べる。
少し心配な部分もあったが、どうやらみんな気に入ってくれたようだ。
食後には紅茶を淹れ、少しの間まったりとする。
もちろんバーニーさんには、蜂蜜をたっぷりいれた。
長男のルッツは勉強も兼ねて紅茶を楽しむが、まだ幼いハンツとフランツは紅茶には興味が無い。
仕方がないので、アイテムボックスに収納してある常温のコーラを木のカップに注ぐ。
はじめは黒くてシュワシュワしているのが不気味だと言っていたが、コーラを一口飲んだら虜になった。
もうコーラ無しの人生は考えられないと、まだちっちゃいのに言っている。
これが冷やしたコーラだったらどうなるのか、ワクワクが止まらない銀次郎であった。
「ギンジローちゃんありがとねー」
クラーラさんもご満悦だ。
思えばこの時から、クラーラさんは俺の事をギンジローちゃんと呼ぶ様になった。
信頼関係が築けているのが実感できて何だか嬉しい。
息子さん達はお腹いっぱい食べて、昼寝の時間だ。
クラーラさんが食堂の片付けをしている間、銀次郎はバーニーさんにハンバーグのレシピを教える。
今日の夕食でハンバーグを出すと言っていたので、ミンサーはそのまま使ってもらう事にした。