第百七十一話 メイドのシャーリー
誤字・脱字報告いつもありがとうございます。
寒い季節になったので、体調には気をつけていきましょう。
「ミリア準備はいい?」
夕方になったので、マインツ家で外商という名の従業員販売会を実施する。
基本的には高級品ではなく、日常的な物やマインツ家に売っているものを揃えたのだが、それだけではつまらないので、いくつかの仕込みはしておいた。
「ギンジロー様それでは中に入ってもらいますね」
セバスチャンが扉を開けると、まずはメイド達が入ってくる。
「購入したら速やかに部屋の外に出るように。エルザ様から一人小金貨1枚の特別給金が出ましたので、それで身だしなみを整える物は購入しなさい」
メイド長のコーエンさんから特別給金が出たと聞くと、一斉に質問が飛んできた。
「シャンプーはありますか?」
「紅茶とお菓子はあちらで販売ですか?」
「この石鹸はおいくらでしょうか?」
こっちは二人でメイドさんは三十名以上いる。
エミリアは明日のヴェリーヌさんのお店作りの為に今日は来れなかったけど、強引にでも連れてくるべきだったか。
そう思った瞬間、コーエンさんが静かにしなさいと一喝する。
シュンとなったメイドさん達の空気が重たい。
「段取りが悪くて申し訳ございませんでした。それでは一通り商品の説明と金額を伝えていきますので、最後にご自身で商品を選んで精算をお願いします。皆様にご迷惑を掛けましたので、その分値段はお安くさせて頂きますので」
銀次郎が説明をすると、メイド達も元気を取り戻していく。
「まずはハンドクリームです。メイドの皆さんは洗濯などの水洗いが多いですよね? 今はまだ大丈夫ですが寒くなると手が荒れる方も多いと思います。その時に使うのがハンドクリーム。手荒れを防止してくれて、保湿もあるから便利ですよ」
目の前にいるメイドさんに、試しにハンドクリームを使ってもらうと、自分の手ではないみたいと喜んでくれた。
他のメイドさんにも試してもらったが、みんな喜んでくれた。
「お仕事で使う物だと思うので、お値段は一つ銅貨5枚でお譲り致します」
ざわ…
銀次郎は初めてリアルにこの空気を体感する。
さっきまでシュンってしていたのに、女性の美容に対する情熱を改めて知る銀次郎だった。
シャンプーとコンデショナーは従業員用のお風呂に備え付けがあるが、実家や友人に贈りたいとほぼみんなが購入。
石鹸も同様によく売れた。
「紅茶とお菓子はあちらで試してから決めてください」
試飲試食コーナーでは、メイドさん達に好き勝手にやってもらう。
いくら仕事で紅茶を淹れる機会が多くても、いろんな種類の茶葉とフレバーを用意したから楽しめるでしょ。
みんな大好きパウンドケーキも、いちごやオレンジ、抹茶にクランベリー、他にもりんごとシナモンと仕入れたからね。
「ミリア悪いんだけど、あの缶の中にはクッキーが入っているから、試食用でいくつか開けてきてもらえるかな?」
試食コーナーはミリアにお願いして、売れた品の補充をしていると、一人のメイドさんがやってきた。
「ギンジロー様お願いがあるのですが……」
「はい? どうしました?」
「以前ギンジロー様がソフィア様に贈られた髪飾り……私に髪飾りを売ってくれませんか? ソフィア様が大変喜ばれていらっしゃったので、私も髪飾りをしてみたいのです」
名前を聞くと、シャーリーと名乗ったメイドさんは、少し背が高く濃いブラウンの髪を三つ編みのおさげにしていた。
「その髪型素敵で似合っていますけど、髪飾りですか?」
「はい。ギンジロー様と出会ってからのソフィア様、とてもキラキラされていて羨ましかったのです……私なんかがこの様な事を言うのは失礼だとは思いますが……私もソフィア様みたいに綺麗になりたいです……」
しどろもどろになりながらも、しっかりと自分の言葉を伝えようとしているのが心に刺さった。
それにソフィアみたいになりたいって、自分を褒められる以上に嬉しい言葉だ。
「シャーリーさん一つだけ約束してもらってもいいですか? 女性は常に自分の事を一番に思って下さい。だから私なんかがって言葉、今後絶対に使わないなら良いですよ」
近くにいたコーエンさんを呼ぶ銀次郎。
「ウチのメイドが何か失礼な事でもしましたか?」
「逆です逆。シャーリーさんがソフィアみたいに綺麗に成りたいって、髪飾りが欲しいみたいなんですよ。
女性って髪形で雰囲気が変わるし、その辺は私も多少知識がありますので、シャーリーさんをコーエンさんの美容補助に出来ませんか?」
お化粧の第一人者はコーエンさんで間違いないが、髪形はまた別分野だと思う。
銀次郎はサラリーマン時代、仕事の付き合いで二丁目のBARで呑む事が多かった。
そこのお店は元美容師のガチムチなオネエさんが経営しており、すぐに酔っ払っちゃったと嘘をつき髪を解いて迫ってくる。
銀次郎は迫り来る唇を腕で突っぱねてオネエさんの突進を防ぎ、その後拗ねたオネエさんの機嫌を取る為に、肩をマッサージしてから髪を結うまでがお約束になっていた。
「ギンジロー様、急に顔色が悪くなりましたが大丈夫ですか? エルザ様に確認して参りますので少々お待ち下さい」
そして少しの時間の後、エルザさんが会場にやってくるのであった。