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異世界ネットショップマスター  作者: グランクリュ
第二章 ダンスホール編
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第百六十六話 王様のエール

「よぉギンジロー」



 エルヴィスのお店に顔を出すと、銀次郎の身体を引き寄せて情熱的なハグで出迎えてくれた。

イケメン独特のフェロモンが銀次郎を包み込み、そしてこの屈託のない笑顔。

もし自分が女性だったら、この時点で恋に落ちていると思う。



「仕事が終わったらエールを呑みに行こうよ」



 エルヴィスに冷えたエールが呑める魔道具を、親方に作ってもらった事を伝える。



「おやっさんも誘って呑みに行くか」



 エルヴィスのお母さんの監視の目をくぐり抜け、二人でマニーさんの店に向かうのであった。



●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●●



「お店閉まってるけど、中から演奏が聞こえるね」



 マニーさんの楽器店に辿り着いた二人。

お店は閉まっていたが、中から演奏が聞こえるので扉をノックする。

すると演奏が止まって扉が開く。



「どうした? とりあえず中に入れよ」



 店内ではマニーさんとバンド仲間が、今度の社交ダンス発表会の演奏練習をしていた。



「あっ皆さんこんにちは。今度よろしくお願い致します」



 するとそんなにかしこまらなくて良いと、バンド仲間の皆さんから肩をバシバシ叩かれてしまった。



「おやっさん練習が終わったら呑みに行こうよ。ハングリーベアーで冷えたエールが呑めるらしいぜ」



 エルヴィスが声をかけると



「今日はバンドメンバーもいるし、呑みより演りてぇ気分だ。エルヴィスどうだ?」



 マニーさんは演奏をしたいと申し出た。

 


「いいよ。演ろう」



 ドラムでリーダーのマニーさん、ウッドベースはデニスさん、メインギターはブルーノさん、サックスはベンノさん、そしてタンバリンの銀次郎とボーカル&ギターのエルヴィス。

エルヴィスはマニーさんと路上や酒場で演奏をしていたが、バンドメンバーとの演奏は久しぶりだった。

ただ昔からの知り合いで、たまにゲストボーカルとしてエルヴィスがバンドに参加していたので、お互いの事は良く知っている。



●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●● ●●



「エルヴィスナイト?」



 クラーラさんに聞かれたので、今日はバンドスタイルで演奏をさせて欲しいと伝える銀次郎。



「あら〜今日は忙しくなるわね。最初の一杯は店からサービスするわよ」



 楽器をセッティングしながら待っていると、クラーラさんがエールとおつまみのナッツを持ってきてくれた。



「これが冷えたエールか。今日は楽しい夜にしようぜ。プロージット」



 冷えたエールは極上だとマニーさんが褒めてくれたので、温度も大事だがこの泡がエールをおいしくしてくれているんだと説明する。

しかしマニーさんや他のメンバーには泡の重要性が伝わらない。

どうしたものかなと考えていると、ハンツとフランツが食堂の扉を外しオープンスタイルにしていくのが見えた。

ルッツは井戸に行って、フライドポテト用のジャガイモを水洗いし大量注文に備えていた。



「なんだよ今日はついてるな。アタイ達に何か景気の良い曲をやってくれよ」



 シルバーランクの冒険者であるエマさんと、そのパーティーがハングリーベアーに戻ってきてエルヴィスにチップの銀貨を親指で弾いた。



「景気の良い曲なら、一曲目はおやっさんのバンドの曲。マインツ・B・グッドを聴いてくれ」



 ブルーノさんのギターが突っ走り、デニスさんのウッドベースとマニーさんのドラムがその音を支え、音楽隊が作り出す音にエルヴィスが甘い声を重ねていく。

サックスのベンノさんは食堂を練り歩きながらオーディエンスを煽り始めたので、銀次郎も真似をしてベンノさんの後ろについていく。

冒険者のエマさんはエールのジョッキを片手に持ちながら、音に身を任せて踊り始めた。



 左足を前にピンと伸ばし、右足一本でスキップするかのようにパフォーマンスをするサックスのベンノさん。

するとギターのブルーノさんも同じ様に右足一本で合わせてくる。

なにコレ、めっちゃ楽しい曲じゃん。

短い曲なのであっという間に終わってしまったが、オーディエンスの心を掴むのには充分な曲とパフォーマンスだった。



 最初の曲が終わると食堂は満席になり、外の席も残り僅かだ。

演奏によって一気にお客さんが集まったから、エルヴィスはお客さんがエールとおつまみを注文する時間を作る為トークを始めた。



「一曲目のマインツ・B・グッドって曲は、ギタリストのブルーノがギターと共に生きていくと決めて作った曲だ。みんなブルーノに拍手を」



 ブルーノさんが拍手に応えると、エルヴィスは空になったエールのジョッキを指差してチップのエールも催促する。

ブルーノさんの元にチップのエールが届く頃には、多くのお客さんに酒とつまみが届いており、冷えたエールのジョッキを勢いよく飲み干している。



「こりゃ美味い。冷えたエールのお代わりをくれー」



「こっちにお代わりー」



「エールを人数分と、つまみもお任せで」



「プロージット!」



「なんだこれ? 本当に冷えてる」



「うめぇ。生き返るぅ」



 この日ハングリーベアーには何度もエールの樽が持ち込まれ、空になった樽が積み重ねられていく。

エールサーバーから注がれた冷えたエールは、あまりの美味しさと贅沢さにお客さんから王様のエールと呼ばれる様になった。

最初は王様でも飲めないほど美味い冷えたエールが、ハングリーベアーでは飲めるって話だった。

しかし酔っ払いの噂なんていい加減なもので、王様がお忍びで冷えたエールを飲みに来たとか、イケメンのエルヴィスは実は王様の隠し子だとか、言いたい放題に噂は広まっていったのであった。

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