第百六十五話 魔道具完成
「親方いますかー? いますよねー? 今日も勝手に入りますよー」
今日も親方の工房で魔道具を作りに来た銀次郎。
昨日は結局昼過ぎからエールを呑みっぱなしだったが、親方がおいしいエールの注ぎ方を覚えてくれて楽しい一日だった。
「アントニオさん昨日はありがとうございました。親方はどこですか?」
親方の姿が見当たらなかったのでアントニオさんに聞くと、朝方まで作業をしていて今は寝ているとの事だった。
「ハートマン親方からの伝言がありますので、ギンジローさん良いですか?」
なんだろうと思いアントニオさんから話を聞くと、エール注ぎの魔道具を作ったから実際に使って確かめてみろとの事だった。
「ここにエールの樽を置いて、この場所にグラスか木のジョッキを置けば自動的に冷えたエールが出来ますので」
冷えたエールが出来ますのでって本当に?
エール注ぎの魔道具は全部で四つ。
一度でエールを注ぎきるタイプと、二度、三度で注ぐタイプ。
そしてエールの炭酸を閉じ込めて、最後に一気に溢れさす注ぎ方の四種類の魔道具だ。
本当は一つの魔道具で全ての注ぎ方が出来る様にしたかったのだが、最近はエールより火酒の方が好きなので急に飽きちゃったそうです。
色んな事で意味不明だ。
日本でも自動で出来上がるビールサーバーはあるが、ここは異世界だよ。
一度注ぎだけではなく、他の注ぎ方も自動で出来るだなんて。
しかも最近はエールより火酒の方が好きだから飽きちゃったって……
もし親方が飽きなかったら、全部自動で注げる魔道具が出来上がったって事?
グラスでも木のジョッキでもカップでも、エールが注げるこの魔道具達ヤバない?
「後はこの紙に書かれている魔道具も、ハートマン親方が作りましたので確かめて下さい」
「確かめて……ください?」
アントニオさんが何を言っているのか、本気で理解できなかった銀次郎。
エールの注ぎ方にあれだけ苦戦していた親方が、その他の魔道具は全部作ったの?
確かに昨日エールを呑んでいる時に、他の魔道具についても聞かれたけど親方結構酔っ払ってたよ。
呑みの席の話と、メモ書き程度の仕様書をみて魔道具が作れる物なのだろうか?
「魔法の氷が欲しくなったから、手に入ったら持ってきてくれって言ってました。色々作りたい物が出来たみたいですよ。あとは火酒を飲みながらスキヤキを食べたいと言っていましたので、ギンジローさん魔道具の確認が全て終ったら宜しくお願いします」
アントニオさんから様々な魔道具を受け取った銀次郎は、とりあえずアイテムボックスにあるだけの亀甲ボトルのウイスキーを渡しておく。
直接お礼をしたかったけど、親方の伝言では魔道具を確かめろって事だから、しっかりと確認をしたらまたスキヤキを作って一緒に呑みましょう。
銀次郎は近いうちにまた来ますと告げて、親方の工房を出るのであった。
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「ギンジローちゃんどうしたの? 忘れ物?」
「いや、忘れ物って訳ではなくてですね、少し相談と言いますかお願いがありまして」
さっき出て行ったばかりなのにすぐに戻ってきて相談があると言われて、本気で心配するクラーラさん。
「バーニーさんも話を聞いてもらえますか?」
エール注ぎの魔道具を親方に作ってもらった事。
その魔道具はエールを冷やし、自動でエールを注ぐ事が出来る事を伝え、ハングリーベアーで試しに使って欲しいとお願いをする銀次郎。
「いいの? ウチとしてはありがたいけど」
「実際に使ってみて感想を聞かせて欲しいので、ぜひお願いします」
バーニーさんとクラーラさんに一度注ぎの魔道具をお願いして、銀次郎はカールさんとユルゲンさんに魔道具が完成した事を報告しに行くのであった。
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「ギンジローさんどうしましたか?」
ヴェリーヌさんの新しいお店に行くと、カールさんが銀次郎に気が付いた。
ユルゲンさんは屋根を作っていたので、挨拶をすると手を止めて下に降りてくる。
「魔道具が思ったよりも早く完成したので、戻ってきました」
「さすがハートマン親方だな。どれ見せてみろ」
ユルゲンさんに魔道具を確認してもらうと、とんでもない代物が出来たなと驚いている。
「屋根をやって内装を仕上げて、その後に魔道具だな。魔道具の取り付けはウチの若い衆にも手伝ってもらうから、日程が決まったら教える。ギンジローは依頼主に話を頼むな」
新しいお店の完成が近づいてきたので、ヴェリーヌさんに報告する銀次郎。
ヴェリーヌさんは喜びつつも、王都に行ったエミリアは無事なのかを心配している。
みんな元気かな?
待つ事しかできない銀次郎は、改めてみんなの無事を願うのであった。
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