第百六十三話 ヨーグルト
「待たせたみたいで悪かったわね」
待っている間にお風呂に入れたので、銀次郎としてはむしろラッキーである。
お風呂の素晴らしさについて語りたかったが、夕食までの時間はあと約一時間ほど。
報告や相談を先に済ませたかったので、今回は断念をして話を進める。
こちらからの定例報告は、養鶏場を更に増やしていく為に教会に話をした事。
仕事や生活に困っている孤児に衣食住と仕事を提供し、玉子の増産と社会貢献活動を説明する。
養鶏場が軌道に乗ったら、その後は牛と豚も育ててあの辺りを畜産農家で固めていく事を伝える。
ハンバーグでの街おこしを進めていく為に、マインツ家にとって必要な投資だと思うから。
生クリームやヨーグルト、チーズなども作っていきたい。
「その辺りは任せているから好きにして良いけど、ヨーグルトって何の事かしら?」
エルザさんヨーグルト知らないんだ。
ん〜ヨーグルトってどう説明したら良いかな。
牛乳を発酵させた物で、健康食品だと伝えると発酵って? 健康食品って? と更に説明を求められる銀次郎。
発酵は微生物が〜なんて言っても、今度は微生物って何って聞かれそうだしな。
異世界でポピュラーな発酵食品て何だろうと考えると、パンやチーズが思い浮かぶ。
でも異世界のパンって黒パンでカッチカチだから、違う作り方なのかな?
時間にすると数秒だが、話の流れが止まってしまい変な空気が流れる。
沈黙に耐えきれなくなった銀次郎は、頭に浮かんだ事を深く考えずに話し始める事にした。
「発酵って腐らせるみたいな感じですけど、完全に腐ってるわけではなくて腐る手前というか……」
腐るって言葉を聞いたエルザさんは、何を言ってるのだとばかりにこっちを見てくる。
ダメだダメだ、もっと上手い言葉で伝えないと。
エルザさんは腕を組み無言でこっちを見ている。
何とか言葉を繋いでいかないと。
「ヨーグルトは牛乳を腐ら…… コホン。発酵させて作るのですが、毎日少量でもたべると、健康に良いみたいなんです。お通じが良くなりますし、良質なタンパク質やアミノ酸……分かりやすく言えば肌艶が良くなって綺麗になります」
頭の中に浮かんだ事を言葉に出して繋いできたが、肌艶が良くなって綺麗になるって言葉を聞いたエルザさんは、完全に虎モードになってしまった。
「ギンジローさん。そのヨーグルトは売ってくれるのかしら? ねぇコーエン。私たち綺麗になりたいわよねぇ?」
「はい……ヨーグルトなら持っていますが、簡単に作る事も出来ます。作り方を教えましょうか?」
エルザさんがすぐにでもヨーグルトを試したいと言ったので、一緒に厨房へと向かうのであった。
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突然現れたエルザさんに驚く料理人達。
料理長のオリバーがすぐにやってきたので、事情を説明する。
「手伝うから指示をくれ」
オリバーと一緒に準備をして、再びヨーグルトの説明をする銀次郎。
「これがヨーグルトです。まずはスプーンで一口どうぞ」
まずは無糖のヨーグルトを試してもらう。
「腐らせるって言うからどんなものかと思ったけど、意外と美味しいわね」
「説明が下手ですみません。次はお砂糖とハチミツを入れたヨーグルトです。それぞれ試してみて下さい」
加糖タイプのヨーグルトと、ハチミツ入りのヨーグルトを試してもらうと気に入った様子だった。
美容にも関わるのでコーエンさんにもヨーグルトを試してもらうと、美味しくて美容に良いなんて最高の食べ物ですわと喜んでいた。
「お砂糖やハチミツ入りのヨーグルトはおいしいのですが、美容を考えるとこれがオススメです」
オリバーに小さく切ってもらった果物のお皿をテーブルに置く。
リンゴは食物繊維が豊富だし、ブドウやパイナップルもヨーグルトに合う。
「あらっ? 美味しいわね。これで綺麗になれるなら毎日頂きたいわ」
ご機嫌なエルザさんに安心感を覚える銀次郎。
ヨーグルト作りは簡単だから、今から教えますね。
オリバーに蓋付きのガラス容器を渡し、まずは煮沸消毒をしてもらう。
オリバーには煮沸消毒をしないと最悪の場合もあるから、作り方を他の料理人に教える時は慎重にと伝えておいた。
そして消毒の終わったガラス容器に牛乳を入れて、種菌となる無糖のヨーグルトをスプーンで二杯入れる。
「これをお風呂と同じくらいの熱さの湯に入れて固まってきたら完成です。クーラーボックスを渡しておくので出来上がったら中に入れて冷やして下さい」
オリバーに調理温度計を渡して、湯が四十度くらいを保つ様にと伝える。
オリバーは温度計をずっと使って四十度を保とうとしていたので、温度は上がり過ぎなければ大体で大丈夫。
少しくらい下がっても問題ないからと伝えるが、料理に対してストイックなオリバーは朝方まで寝ずに四十度を保ち続けるのであった。
ヨーグルトって朝にたべるものと思っていましたが、実は夜の方が良いらしいです。